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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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2/20

言葉なき対話、あるいは完全なるすれ違い

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

ダンジョン三階層。


戦いの残滓が、まだ空気に漂っている。


ベルジュール――ベルは、崩れた魔物の骸の中に座り込み、しばらく動けずにいた。


「……生きてる。あんなにいた魔物を一人で!」


その事実が、妙に遠い。

驚きと安堵が入り混じる。


だが、確かに。

彼は、死ななかった。


そして、その理由は一つしかみつからなかった。


ベルは、ゆっくりと手の中のカードを見つめた。


《導きのカード》


淡く光るそれに向かって、彼は深く頭を下げる。

そして拝む。


「……ありがとう」


言葉にしても、意味はないかもしれない。

魔導具に感謝とは、奇妙な構図だ。


だが、言わずにはいられなかった。


「お前がいなきゃ、俺は死んでた」


その声は、震えていた。

誇張ではなく、事実として。


――そして。


“変化”は、静かに訪れる。


視界の端に、見慣れない文字列が浮かんだ。


《レベル上昇:Lv.8 → Lv.9》

《スキル獲得:意思疎通》


「……は?レベルがあがった?」


ベルは目を瞬かせる。


「意思……疎通?誰と意思疎通を?」


と自分につっこみをいれる。


そんなスキル、聞いたことがない。


だが、次の瞬間。


“わかった”。


理屈ではない。

感覚として、理解してしまった。


「……もしかして」


ベルは、再びカードを尊敬の眼差しで見つめる。


「お前と……話せるのか?」


沈黙。


当然だ。

今までだって、何も喋らなかったのだから。


だが――


ベルは、試してみることにした。


カードを持ち強く意識を向ける。


言葉ではなく、“伝える”感覚。少ない魔力を通して


「……助けてくれて、ありがとう」


その想いを、まっすぐに。


――その瞬間。


(ああ、聞こえるか)


声が、返ってきた気がしたが、この世界の言語ではない。


「――ッ!?」


ベルの目が見開かれる。


聞こえた。

確かに、何かが。


(やっとだ。接続が安定したか)


淡々とした声。

どこか冷静で、そして――妙に人間臭い。


「お、お前……喋れるのか!?」


ベルは思わず叫ぶ。


(は??よくわからないが、というか、ようやく話せるようになったのはそっちの都合だぞ?)


「え、え?」


(まず状況整理だ。ここはどこだ。お前は誰だ。なぜ俺はカードなんだ)


「な、何言ってんだ!?」


会話が、成立しない。


ベルは困惑した。


確かに“声”みたいなものは聞こえる。

だが――


意味が、まったく理解できない。

この世界の言語ではない、聞きなれない言葉のようなうめき声といった感じだ。


「……えっと……」


ベルは慎重に言葉を選ぶ。


「……その、助けてくれて……ありが――」


(いやだから、まず言語を合わせろ。こっちは日本語で話してる)


「に、日本語……?」


ベルは、発音をまねるだけで、聞いたことのない単語。


(……は? 通じてないのか?)


カードの中の“それ”は、わずかに沈黙した。


(おいおい、まさかとは思うが……)


ベルもまた、沈黙する。


そして、恐る恐る。


「……あー……えっと……」


カードに目があるわけではないのだが、ジェスチャーを交える。


カードに向かって、親指を立てる。


「……ナイス?」


(なんだ今の)


「……グッド?」


(いや、だから言語が――)


「……サンキュー?」


(英語もダメかよ!?)


完全に、噛み合わない。


だが、不思議なことに。


“何かが通じている気はする”。


(……いや、待て)


カード側が、思考を巡らせる。


(ベルのステータスを覗き見る。)

(意思疎通スキル、か。翻訳じゃないな、これは)


言葉そのものではなく、“意図”を拾うタイプのスキル。


だが、それはあくまで断片的。


文法も語彙も、完全には補完されない。


(つまり――)


(“なんとなく分かるけど、細かいところは全然わからん”やつだ)


ベルもまた、同じ結論に至りつつあった。


「……えっと……」


カードを指さし、自分を指さす。


「……お前……すごい……助けた……俺……ありがとう……」


単語を並べるように。


必死に伝えようとする。


(……ああ)


カードは、わずかに納得する。


(感謝、か)


それくらいは、わかる。


(……まあ、悪くない)


少しだけ、間を置いて。


(どういたしまして、だな)


「……!」


ベルの顔が、ぱっと明るくなる。


完全に理解したわけではない。


だが――


“返事があった”。


それだけで、十分だった。


「……はは」


ベルは、小さく笑った。


「……なんか、変だけど……通じてる、気がするな」


(気のせいじゃない。半分くらいは通じてる)


「半分!?」


(あ、そこは拾うのか)


奇妙な会話。


不完全で、ちぐはぐで。


それでも確かに、繋がっている。


言葉を超えて。


意図と感情だけが、細い糸のように結ばれている。


ダンジョンの静寂の中。


冒険者と、カード。


奇妙なコンビが、ここに誕生した。


――ただし。


意思疎通成功率、およそ五割。


誤解率、五割。


そしてその“ズレ”こそが、


後にとんでもない事態を引き起こすことを――


この時のベルは、まだ知らない。

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