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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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3/20

値踏みされるもの、されないもの

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

地上の光は、あまりにもあっけなくベルを迎えた。


「……生きて帰ってきた、か」


ダンジョンの湿気と血の匂いが嘘のように、乾いた風が頬を撫でる。


ベルジュールは、大量の素材袋を肩に担ぎ直した。


重い。だが――心地いい重さだった。


「……こんなに持って帰るの、初めてだな」


牙、皮、魔石。

どれも質がいい。数も多い。


“豊作”。


その言葉が、自然と浮かぶ。


そして――


腰のポーチに収めた、一枚のカード。


ベルは無意識にそこへ触れた。


「……お前のおかげだ」


小さく、呟く。


(まあ、否定はしない)


返ってくる、いつもの声。


相変わらず、半分くらいしか意味は分からない。

だが、その調子からして――たぶん、軽口だ。


「はは……」


ベルは、少しだけ笑った。


そのまま、足は冒険者ギルドへ向かう。


石造りの大きな建物。

中は昼間だというのに賑わっていた。


怒号、笑い声、金貨の音。


生きている者たちの、音。


ベルはカウンターに素材袋を置いた。


「……査定、頼む」


職員が目を見開く。

周りの冒険者も驚いている様子。


「これは……全部、一人で?」


「ああ」


短く答える。


職員は、すぐに手際よく素材を確認し始めた。


皮の状態、魔石の純度、牙の欠損。


その目は、職人のそれだった。


やがて――


「……驚きました。今までこんな量取ってきたことありましたか?

 かなりの量と質です」


「いくらになる?」


「そうですね……」


計算盤が弾かれる。


「金貨、二十七枚と銀貨八枚。今月でもかなりの上位収入です」


「……そんなにか?」


ベルは思わず目を細めた。そしてにやける。


今までの自分では、考えられない額。今まで生きてきた中で一番の稼ぎ。

真面目に1カ月働いてトータルでやっと、いくかいかないかぐらいの金額だった。


「運が良かったな……」


(運、ね)


カードが、わずかに皮肉を含む。


だが、それをベルは気にしない。


――その時。


ふと、頭に“別の考え”がよぎる。


「……なあ」


職員に、声をかける。


「はい?」


ベルは、一瞬だけ迷った。


ポーチの中のカードに触れる。


――助けてもらった。


――命を救われた。


その事実は、確かだ。


だが。


「……これも、見てくれないか」


取り出した。


《導きのカード》。


職員の前に、差し出す。


(おい。俺をう・売るつもりか!)


カードの声が、わずかに低くなる。


(……それ、どういう意味だ。おい。)


手から離れたカードの声は聞こえない。


ベルは、内心で言い訳する。


――違う。


――売るって決めたわけじゃない。


――ただ、価値を知りたいだけだ。巨額の富かも…


「……ダンジョンで拾ったんだ。よく分からなくてな」


職員はカードを受け取り、じっと見る。


指で縁をなぞり、光の反射を確かめる。


そして――


「……これは」


わずかに、眉をひそめた。


「見たことがありません」


「え?」


「材質も不明。魔力反応も……あるような、ないような」


カードを裏返す。そして叩いて確かめる。


角度を変える。


「少なくとも、一般的な魔道具ではありませんね。何か効果ありました?」


「え?いや…特には、……じゃあ、価値は?」


ベルの問いに。


職員は、はっきりと言った。


「――わかりません。」


沈黙。


「……は?」


「査定不能です。市場に流通した記録がない以上、値段の付けようがありません。

あえて言うなら、素材代ぐらい。銅貨1枚ぐらいでしょうかね。

ギルドマスターにお叱りを受けない金額としてですがね」


「……そうか」


ベルは、ゆっくりとカードを受け取った。


(“わからない”か)


カードが、小さく呟く。


(それはつまり、“いくらにでもなるし、ゼロにもなる”ってことだ)


ベルは黙っている。


職員は、少しだけ声を潜めた。


「……ただし」


「?」


「こういう正体不明の品は、貴族や収集家が高値で買うこともあります」


「……高値?」


「ええ。“唯一性”は、それだけで価値になりますから」


その言葉は。


静かに、ベルの胸に沈んだ。


唯一。


特別。


そして――高値。


「……なるほどな」


ベルは、カードを見た。


(……おい)


カードが、少しだけ警戒する。


(今、嫌な顔したな)


「いや……」


ベルは、笑った。


どこか、軽く。


「ちょっと考えただけだ」


――いくらになるんだろうな、と。


その思考は、一瞬だった。


だが、確かに存在した。


感謝と、生存。


恩義と、現実。


その間で揺れるのは――


“薄情”なのか。


それとも、“人間らしさ”なのか。


(……まあいい)


カードは、あえて深く追及しない。


(どうせ、お前はまだ決めてない)


ベルは答えない。


ただ、カードをポーチに戻す。


その動作は、ほんのわずかに――丁寧だった。

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