少女と光る箱
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
「……料理だけじゃ足りないわね」
朝食の席で、エリナは唐突にそう言った。
公爵は危うく紅茶を吹きそうになった。
「足りないとは……?」
「料理は人を幸せにできる。でも、もっと直接的に生活を変えられるものが必要だと思うの」
「直接的……」
「例えば、夜でも明るい灯りとか。水を楽に汲める仕組みとか。重い荷物を運ぶ道具とか」
公爵は眉をひそめる。
「……職人の領分では?」
「そう。でも職人は“今あるもの”を作るでしょう?」
「私は、“まだないもの”を作りたいの」
(ろくな予感がしない)
その日の午後。
エリナは屋敷の倉庫にいた。
机の上には古い魔石、鉄片、銅線、ガラス瓶、木箱、革紐。
完全に怪しい。
「……で、何を作るの?」
(まずは簡単なものからだ。“持ち運べる灯り”を作る)
「ランタン?」
(もっと明るくて、火を使わない)
「そんなのあるの?」
(ある)
「……カードって、本当に何者なの」
(知らん)
「知らんで済ませることじゃないのよ」
カードは気にせず説明を始めた。
魔石の性質。術式。制御。
「……待って。“制御回路”って何?」
(魔力の流れを決める道筋だ。水路みたいなものだと思え)
「魔法ってもっと感覚でやるものじゃないの?」
(感覚でやるから事故るんだ)
(魔法も現象だ。現象なら再現できる。再現できるなら道具に落とし込める)
エリナはぽかんとした。
「……日本出身なのに?」
(日本にも技術者はいる)
「いや、でも魔法ないでしょ」
(ないからこそ“仕組み”で考える癖がある)
エリナは妙に納得した。
数時間後。
小さな木箱が完成した。
中央に透明な魔石。側面に細い金属線。蓋に小さなスイッチ。
「……本当に点くの?」
(やれ)
エリナはスイッチを押した。
ぱっ、と。
部屋が白く照らされた。
「――っ!」
蝋燭より明るい。
煙も出ない。
熱くもない。
「すごい……!」
使用人たちが集まる。
「うおっ、まぶしっ!」
「なんですかこれ!?」
公爵もやってきて固まった。
「……戦争が変わるな」
エリナは少し黙った。
(技術は善でも悪でもない。使う人間が決める)
白い光は静かで、綺麗だった。
「……もっと作ろう」
「今度は水を運ぶ道具。その次は冬でも暖かい服」
(やれやれ。料理で世界制覇の次は、発明王か)
「いいじゃない」
「ベルが助けた命なんだから。せっかくなら、世界を変えるくらいしてみせるわ」




