与えられた領地
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
公爵は執務室で一枚の報告書を見ていた。
厨房の使用食材の変化。
保存食の効率向上。
夜間灯具の試作品。
作業時間の短縮。
商人からの問い合わせ。
すべて、エリナが始めたことだった。
「……信じられん」
ついこの前まで部屋に閉じこもっていた娘が、今では厨房と倉庫を走り回り、何かを作り続けている。
しかも成果は確かだった。
執事が報告する。
「灯りの箱、夜警隊から正式に欲しいと話が来ています」
「保存食も、冬越え用に欲しいと」
「……そうか」
公爵は窓の外を見た。
庭の向こうで、エリナが職人たちに何かを説明している。
真剣な顔。
時々、笑う。
「……私は、間違っていたのかもしれんな」
公爵は自嘲気味に笑った。
「危険から遠ざければそれで良いと思っていた」
だが違った。
エリナは退屈していた。
外へ出たい。誰かの役に立ちたい。
その気持ちを持て余していた。
だから森へ飛び出した。
そしてベルと出会った。
「……あの青年には感謝せねばならんな」
数日後。
エリナは公爵に呼び出された。
「……何かやらかしました?」
「なぜそうなる」
「最近、倉庫の壁を一回だけ爆発させたので」
「一回でも十分だ」
公爵は地図を広げた。
川、畑、森、小さな村。
「北西の外れにある小さな領地だ」
「……領地?」
「お前に任せる」
「……え?」
「村が三つ。農地と林業が中心だ。大きくはないが好きに使え」
「いや、待って。私、まだ子供ですよ?」
「知っている」
「失敗するかもしれませんよ?」
「するだろうな」
「税とか政治とか、全然分かりませんよ?」
「だから学べ」
公爵は静かに言った。
「お前は、役に立ちたいのだろう」
エリナの肩が小さく揺れる。
見抜かれていた。
公爵はゆっくり立ち上がり、エリナの頭に手を置いた。
「家に閉じ込めておけば守れると思っていた。だが、お前は違った」
「失敗してもいい。泣いてもいい。困ったら戻ってこい」
「だが、一度やってみろ」
その言葉は不器用だった。
優しさに慣れていない人間の、精一杯の愛情。
エリナは目を伏せ、そして。
「……やります」
小さく、だがはっきり。
「私、やります」
公爵は少しだけ笑った。
「そうか」
その日の夜。
エリナは自室で地図を広げていた。
考えることは山ほどある。
不安もある。
怖さもある。
だが、あの日の森で止まっていた自分とは、もう違う。
(領主ごっこか)
「違うわ」
「これは、世界征服の第一歩よ」
(やっぱり発想が侵略者なんだよな)
エリナは久しぶりに声を上げて笑った。




