料理で世界を獲る少女
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
「……これは売れるわ」
翌朝。
エリナは昨夜作った“サンドイッチ”を見つめながら真顔で言った。
料理人たちは顔を見合わせる。
「売れる……ですか?」
「ええ。絶対」
目が妙に輝いていた。
(ろくな予感がしない)
「というわけで!料理で世界制覇よ!」
厨房が静まる。
使用人が一人、パンを落とした。
(発想が侵略者なんだよな、お前)
「侵略じゃないわ。美味しさによる平和的支配よ」
(言い方が変わっただけだ)
その日からエリナは暴れ始めた。
朝から厨房へ入り浸る。
「次!」
「次は何を作るの!?」
カードは淡々と知識を出す。
薄い生地に具材を包んで焼く料理。
肉と野菜の濃厚スープ。
冷たい果実菓子。
砂糖を焦がした焼き菓子。
芋を細く切って揚げたもの。
作る。
食べる。
騒ぎになる。
「なんだこの芋!」
「止まらない!」
噂が城下町へ流れる。
商人まで見物に来る。
エリナは止まれなかった。
止めると、思い出してしまうから。
ある夜。
厨房に誰もいなくなった後。
エリナは一人で机に向かっていた。
紙には料理の名前が並ぶ。
(……おい)
「なに?」
(休め)
「まだ平気」
(平気じゃない)
苛立ったようにペンを走らせる。
「やらなきゃ」
(何をだ)
「……役に立つこと」
ペン先が止まる。
「ベルは、私を助けて死んだ」
「なのに私、何もできなかった」
「せめて、何かしなきゃ」
「じゃないと……ベルが死んだ意味がなくなる」
静寂。
カードはしばらく黙っていた。
(勘違いするな)
「……え?」
(あいつは、“役に立つお前”を助けたんじゃない)
(泣いてても、失敗しても、お前だから助けた)
(死んだ意味を作ろうとするな。死は、そんなに便利なものじゃない)
エリナは唇を噛む。
涙が滲む。
(お前は、お前のために生きろ)
(その結果、誰かの役に立てたなら、それで十分だ)
エリナは机に突っ伏した。
泣き声は出なかった。
ただ静かに肩だけが震えていた。




