小さな台所の革命
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
「……料理?」
エリナは机の上のカードを見た。
数日ぶりに少しだけ部屋を出て、中庭に面した小さな食堂へ来ていた。
(気分転換だ)
「なんで料理なの」
(人間は食う生き物だからな。精神が沈んでいる時は、身体から立て直すのが早い)
「……」
(あと、お前の屋敷の料理、正直あまり面白くない)
「それは言っちゃ駄目でしょ……」
公爵家の料理人が聞いたら泣く。
カードは続ける。
(焼く、煮る、蒸す、揚げる。香辛料。発酵。保存。人間は戦争より長く料理をしてきた)
「なんでそんなことまで知ってるの……」
(知らん。知っている)
本当に謎だった。
「……じゃあ、本当に美味しいもの作れるの?」
(作れる。少なくとも、屋敷の“茹でて塩を振るだけ”よりは遥かにましだ)
「ひどい言い方……」
だが、興味は湧いた。
エリナは厨房へ向かった。
料理人たちはぎょっとする。
普段ほとんど厨房に来ないお嬢様が、突然エプロンをつけて立っている。
「エ、エリナ様……?」
「今日は、私が作ります」
「え?」
「少しだけ、台所貸してください」
ざわつく空気。
誰もが不安そう。
だがエリナはカードを机に置き、袖をまくった。
「で、何作るの?」
(肉と卵とパンはあるか)
「あるけど」
(よし。“挟む”)
「……挟む?」
薄く切った肉に塩と香草。
小麦粉、卵、砕いた乾燥パン。
「え、揚げるの?」
(揚げる)
油に入れた瞬間、じゅわ、と音。
香りが広がる。
厨房の空気が一瞬で変わった。
料理人たちが振り返る。
「……なんだ、この匂い」
揚がった肉は黄金色。
パンを切り、葉野菜、果実酢のソース、揚げた肉、さらに野菜。
最後に少し辛味のある粒を混ぜた白いソース。
「……できた」
(挟め)
エリナは恐る恐るかぶりついた。
「……!」
衣はさくり。
肉は柔らかい。
酸味が重さを消し、野菜が爽やか。
「おいしい……!」
料理人たちも恐る恐る食べる。
「……っ!」
「な、なんだこれ!」
一気に厨房が騒がしくなる。
カードは少し得意げだった。
(料理とは、味だけじゃない。食べやすさ、温度、香り、手間、保存性。全部だ)
エリナは久しぶりに笑った。
ほんの少しだけ。
「……変なの」
(何がだ)
「こんな時に、料理で笑うなんて」
カードは少しだけ黙った。
(生きている限り、人は腹が減る)
(だから食う。食って少し元気になる。元気になったら、また少し前を向ける)
夕日が沈みかけていた。
「……これ、名前は?」
(“サンドイッチ”でいいだろ)
「サンドイッチ……」
聞いたことのない名前。
だが、不思議と嫌いではなかった。




