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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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16/20

剣を置いた少女

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

公爵家へ戻る馬車の中。

エリナは一言も喋らなかった。

窓の外には森が流れ、町が流れ、人が流れていく。

だが何も目に入らない。


膝の上には一枚のカード。

ベルが最後に投げて寄越したもの。


屋敷へ戻ると、公爵は何も言わなかった。

いや、言えなかった。

エリナの服に染みた血。

剣の欠け。

そして隣にいるはずの青年がいない。


それだけで十分だった。


その日からエリナは部屋に籠もった。

窓も開けない。

剣も持たない。


朝も昼も夜も。

ただ椅子に座り、ぼんやりと庭を眺める。

食事も少ししか喉を通らない。


数日後。

机の上のカードが静かに声を発した。


(……いつまでそうしている)


「……」


いまのエリナには“意味”が分かる。

だからこそ、返せない。


(黙っていても、死者は戻らない)


「……分かってる」


声は掠れていた。


「でも……怖いの」


拳を握る。


「あの時、私が止まっていれば。引き返していれば。ベルは死ななかった」


(そうだ)


即答。

エリナは顔を上げる。


(あれはお前の未熟さだ)


「……っ」


(敵を知らず、自分を知らず、勝てると思い込んだ)


「……やめて」


(事実だ)


「やめてよ……!」


涙が落ちる。


(お前は、ベルを死なせた)


「――ッ!」


その言葉は刃だった。

エリナは机に伏し、嗚咽を漏らした。


しばらくして。

泣き疲れた頃。


(だが、それで終わるのか)


「……え?」


(失敗した。未熟だった。ベルを死なせた。なら、その先は二つだ)


(逃げるか。背負うか)


長い沈黙。


やがて、絞り出すように呟く。


「……私、冒険者なんて無理」


血の匂い。

ベルが崩れた瞬間。

思い出すだけで息が詰まる。


「人が死ぬの、怖い……」


(そうだろうな)


「もう嫌」


(当然だ)


「……剣なんて、持ちたくない」


カードは少しだけ黙った。


(なら、捨てろ)


「……え?」


(剣を捨てろ。冒険者も諦めろ。安全な屋敷で、一生守られて生きろ。それも一つの生き方だ)


エリナは唇を噛む。


胸の奥がざわつく。

それで終わっていいのか。


ベルは何のために庇ったのか。

最後にカードを託したのはなぜか。


カードが、静かに光る。


するとエリナの頭の中へ何かが流れ込んだ。

足運び。

重心移動。

剣の握り方。

受け流し。

斬撃。


知らないはずなのに、知っている。


「……なに、これ」


(剣術の“型”だ。ベルが持っていた技術の一部が、カードに残っている)


「……残ってる……」


(使えるかは別だがな)


エリナはゆっくり立ち上がった。

部屋の隅。

放置していた木剣がある。


持つ。

重い。

怖い。


だが、不思議と握り方は分かった。


一振り。

空気を裂く。

二振り。

三振り。


その度に、頭の奥でベルの動きが重なる。


「……っ」


涙がまた落ちる。


「ずるい……」


ベルはもういない。

なのに、まだ隣にいる。


(死んでもなお、お前を守っている)


エリナは木剣を強く握った。


まだ、冒険者には戻れない。

森へ行く勇気もない。

夜になれば、あの日の夢を見る。


だが。

完全に剣を置くことだけは、できなかった。

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