朝靄みたいな
単純な直線だと逃げきれないとふんだのか、ブルレはどんどん細い道へと入り込んでいく。
何度か建物の壁のひびに髪をひっかけてはぶちぶちちぎって取った。
むりやりちぎったためかちぎった分はやや欠けた羽根に戻っていく。
「あれってさぁ、逃げ切れると思う?」
移動先がばれないように羽根を回収しつつ、髪を手繰り寄せて腕にぐるぐる巻きつけておく。
ブルレが足をしっかり押さえてくれてるので多少変な体勢になっても安定感は抜群だ。
「無理だろうな。一時的にはいけても聖堂の奴らが捜索願いの1つでもだしたら速攻で捕まるだろうよ」
「やっぱりー?でもさぁ、少しくらい休憩期間がほしい」
肉体的な疲労はもうないけど、精神的なものはまだたっぷり残ってる。
さっきの尋問まじりの自己紹介でさらに蓄積されてる。
きっちりしてる上級天使なら1年単位、もっと繊細な固体なら月単位で小まめに世界を確認しながら育ててたみたいだけどそんなことボクがするわけがない。
基本は大まかな支持だけだして部下まかせ、確認は最低単位で100年、大雑把な時には万年単位でまったりのんびりぐうたらに活動してきた生き物なんだ。
問題事はせめて半年いや1年は間隔をあけてほしい、休みを挟みたい。
なんて思うけど無理だろうなぁ。
せめて、この来訪者って称号がなくなればなぁ…………
イベクエに関わる可能性が減るだろうに。
狭くて人とすれ違うのも厳しい通路をどんどん進んでいくけど、あーちゃんのこっちを呼ぶ声が聞こえなくなることはない。
どんな些細な情報からこっちの位置をつかんでるんだろう。
道路の上のわずかな砂のみだれ?吹き抜ける風の流れ?まわりの建物の壁に反響してる小さな足音?それとももっと別のなにか?
「どっかいい休憩場所ないかなー」
「難しいだろうなぁ……………開いてる店はいまそんなにねぇし、開いてても聖堂のが入ってこれない店なんてあるわけないしな」
「なら私のおうちはいかが?お水くらいしかでないけどお話してくれるお客様は歓迎するわ?」
壁の飾りに見えてた彫刻の施された木の板がぽこっと外され中から顔を覗かせた少女がにっこりと笑う。
言いうなり木の板はすぐに戻されて、代わりにそばの扉が開いた。
おーいと呼ぶあーちゃんの声とこっちよこっちとささやく女の子の声。
どっちが精神的に楽かは判断がつきにくいところだけど、気分的に気楽そうなのはたぶんこっちだろうとブルレの賛同も得られたので悩む時間も惜しいと扉をくぐった。
少女がすぐに扉に閂をかけてくれたので、たとえここに入ったのに気づかれてもすぐにはつかまらないだろう。
「こんにちは来訪者の天使様に護衛のお方。私はクリスティア・マーヘン。お水くらいしか出せませんがどうぞゆっくりしていってくださいな」
銀髪というには黄色がかった、金髪というには色素の薄い髪。
色白というよりは単純に日に当たってない人によく見る青白い肌。
頬にも腕にもうっすら浮き上がっている見える骨の影。
薄幸の美少女、そんな言葉を擬人化したような少女は夜明けのような笑顔をしていた。




