王妃様の誕生日
この作品はThe story of Quisalpina の
番外編です。
18 王妃様の誕生日
2020.10.17
(短編にしてはちょっと長い)まえがき
この作品は、現在投稿中で、まだ完結していない作品の物語終了後、1年半後のお話です。
本編は、私としては結構努力して、恋愛要素を極力取り除いて仕上げました。ほんのり香る程度だったと自負しております。
ただ、この短編は、若干の性描写を含みます。
ですので、そういう話がお嫌いな方は頁をめくらずにおいてください。
書かない方がいいのかな?
書かない方がいいんだろうな?
と思いながら、でも、あのかわいらしい2人はあの後どう過ごしたんだろうな、と思うとね、もう少しだけ2人に会いたくなってしまって……。
作者の気まぐれにお付き合いいただけましたら幸いです。
自宅で寝っ転がりながら、さっき足がつりました。
(どうでもいい話だな)
汪海妹
エミリア
「ちゃんと記録はとっているの?」
ひさびさに会った姉は、前にもまして目力が強い。
「月々の女の人のあれよ。」
それにしてもさっきから、こんな話しかしないんだから……。お茶を飲みながらうんざりする。
「何のためにそんなことを?」
「そりゃ、もちろん……」
その後に続く言葉を待ったが、あとが続かない。
「わざわざ言わなくてはわからないの?」
「……」
さすがにそこまで話すのは、身分にそぐわずはしたないとでも思ったのでしょうか。
「姉さんもそういう努力した結果身籠ったの?」
「いや、わたしは……」
さらりと話しかけて止まった。そうか、そこまで悩むこともなくご懐妊されたわけですな。
「いや、そうじゃなくてあんたの話でしょ。」
ちえっ。話が戻っちゃった。
「あなたね、うかうかしてると、どこぞの第二、第三の女に持ってかれてしまうわよ。」
「はぁ。」
「とにかく女は後継を産まなくては。」
「……」
「いいの?後から来た人に何もかも持って行かれてしまっても?」
何もかもという言葉がちくりとささった。
「でもまだ、結婚して一年も経っていないよ。」
「もう一年と考えないと。あなたの場合は。あなたの地位を喉から手が出るほどほしいと思ってるの、1人や2人じゃないわよ。」
「……」
わたしが少し元気のない様子をすると、姉さんにしては珍しく優しい顔をした。
「殿下はご公務で忙しくされてるから、お疲れであまり機会もないの?」
「……うん、まあ、そう。」
「だからこそ、ちゃんと記録をつけてね、」
あ、そこに話が戻るわけか。
そして、ひとしきり似たような話を繰り返し、末の妹を心配しながら、たまに自分の惚気話を挟みつつ、姉さんは帰っていった。ジーン姉さん。新婚さんなの。わたしより後に結婚しましたが、あっという間に子供ができた。幸せそうだ。
誕生日の日に1人でいるのもつまらないでしょうと、殿下が気をきかして、ご主人の都合でたまたまバルフォルトにいた姉さんに声をかけていたらしい。
自分は、一緒にいてあげられないからと。
でもできるだけ早く帰ってくると言っていた。
だけど、会ってなんだか憂鬱になってしまった。
姉さんは重大なことを知らない。
子供がそもそもできるわけないのだ。わたしたちに。
だって、寝室別なんだもの。夫婦だけど。
記録なんかしたって無駄なんです。
***
エドワード
「本日、エミリア妃殿下はお誕生日でしたな。」
思わずストレーチの顔を見た。
「違いましたかな?」
「いや、間違いないが、気持ち悪いな。なんで覚えてるんだ?」
「公務の一環です。」
「いや、公務とは関係ないと思うがな。」
その言葉は無視してじとっと見てくる。この顔をしてる時はあれだ、また碌でもないことを言い出すに決まってる。
「16歳になられたらというお約束、忘れてはいらっしゃいませぬでしょうな。」
「なんの話だったかな。」
「またそうやっておとぼけになる。」
あー、うるさい、うるさい。
「殿下も、後半年もたてば成人されるのですぞ。きちんとお世継ぎのことも考えていただかないと。」
「考えていないわけではない。」
「王子が2人は必要です。」
「……」
「レオナルド殿下が生きていらっしゃれば別ですが、いらっしゃいませんので最低でも2人は。」
「別にわたしは明日死ぬような身でもない。ぴんぴんしてる。そんなに焦ることもないだろう?」
「一度死んでおいてよく言いますな。」
「……」
「いつまでもご懐妊のお話が出ないので、変な噂がでております。」
「それは、どうせ、あれだろ。俺は幽霊じゃないかとかいう噂だろ。」
「いいえ」
「じゃ、なんだ?」
「殿下は男の方が好きなのではないかと。」
「……」
「隠れ蓑で結婚されたのではないかと。」
一瞬気が遠くなった後に怒りが……。
「どこのどいつだ?そんなこと言ったのは?」
「殿下、他愛もない冗談です。それこそ、本気でお怒りになったら、反対に冗談じゃなかったのかということになりますよ。」
それからこほんと側近は咳払いをした。
「とにかく、約束は約束ですから。子供みたいに逃げ回るのはやめて、守ってください。」
「逃げ回ってなどいない。」
「嘘ついても、わたしにはわかりますからね。ちゃんと屋敷の者に確認入れますから。」
「……」
***
エミリア
婚約をしたとき、自分はまだ14歳だった。
とても結婚なんて考えられなくて、だけど相手が相手だけに、申し込まれたら断ることなどできず、強引に話が進んでしまった。
その時エドワードが言った。
結婚したとは言っても、わたしがもう少し大人になるまでは、今まで通り友達としてそばにいてくれたらいい。
だから、寝室が別なのだ。
でも、これはいつまで続くのだろう?
もう一年半経った。
この一年半で自分は随分変わったと思う。
今日16歳になった。
16歳と言えばもう、結婚してもおかしくない年だ。
昼間、姉に言われたなにもかも失ってもいいのかという言葉を思い出す。なにもかもは困る。
家族は怒るだろうけど、特にお父様は、王妃の座なんてどうでもよかった。むしろないほうがすっきりするくらいで。
でもエドワードは失いたくなかった。
自分はエドワードにとって何なんだろうと最近よく思う。持ってると安心するお守りの人形のようなものなのではないだろうか。女の人ではないのではないか。
だけど、そばには置いておきたいのだ。
だから、このままいくと、2人は永遠に寝室は別で、エドワードには2番目、3番目の奥さんができる。殿下の子供を産むのはその人たちで、もちろんわたしは王妃になりそこねるわけだ。
そのことが嫌だった。
王妃になりそこねることがではない。
他の女の人がエドワードに触るのが嫌だ。
彼の立場からいって避けられないことなのかもしれないけど、それならせめて……。
自分がいちばん近い場所にいたい。
お守りなんかとしてじゃなくてちゃんと。
「エミリア」
寝る前に考え事をしていたら、不意に扉の外からエドワードの声がした。
ドアを開けると、眠る時の服装でエドワードが立っている。ちょっと驚いた。
「なにか御用ですか?」
「うん。ちょっといいかな?」
「どうぞ」
部屋に入ると2人で椅子にこしかけた。用があるのだろうと思うから黙ってエドワードが話しだすのを待っているが、普段と違ってなかなか話しださない。
「あの、なにかお話があったのではないのですか?」
「ええっと……」
やっぱりなにかおかしい。いつもと違う。
「誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。」
そのセリフは今日すでに何度かいただいているのだけれど……。
「あの……」
「はい」
「怒らないで聞いてほしいんだけど」
「はい」
「今晩からわたしもこの部屋で寝てもいいですか?」
「……」
一瞬何を言われたのかよくわからなかった。
部屋を見回す。ベッド一つしかないけど、この部屋。ま、でも、1人で使うには贅沢なぐらい大きなベッド。
そこまで考えて、いや、違う。夫婦が一つのベッドで寝るのは普通のことだと考え直す。
なんか混乱してるわ、わたし。
「だめ?」
「だめもなにもこのお屋敷は全部エドワード様のものですから、わざわざお伺いにならなくても。」
「いいの?」
「はい」
そういうとほっとした顔をした。
「エミリアは寝るときは灯りは消すの?」
「はい」
そういうとサイドテーブルにのっていた灯りをエドワードが消したので部屋が暗くなった。月あかりがぼんやりと照らしている。
ベッドの上でエドワードの横で横たわりながら、さっきの言い方はかわいくなかったなと考えた。とっさのことでなんと言えばいいのかわからなかった。
そしてエミリアの耳に信じられない音がきこえてきた。
月あかりのもとでそっと覗きこんだ。
寝てる。寝てます、この人。寝息たてて。
ぽかんとした。
いや、ほんと、エドワード様には振り回される。
見た感じは普通の人なのに、時々わけわかんないことするんだから。
やっぱりわたしはお守りの人形みたいなものなのかな?さっきまで考えてたことの続きを考える。
全然触れられないわけではない。
でも、それは夫婦の触れ合いにはほど遠い。
手に触れたり、肩に触れたり。
エドワードはわたしの髪が好きで、時々髪をなでる。そしてそっと髪に唇で触れる。それくらい。
結婚式で誓いのキスで軽く唇を触れ合わせた以外は、こんなに長い間本当になにもないのだ。
そのことが最近、不安だった。
不安でさみしくて悲しかった。
「エミリア?」
気づけば自分は泣いていて、その気配でエドワードを起こしてしまっていた。
「どうしたの?」
驚いている。
「わたしはエドワード様のなんなんですか?」
「え?なにって……」
「持ってると安心するお守りか何かですか?」
「え?何の話?」
「なんでこんな日にも何もしないんですか?」
エミリアがそういうと、エドワードはショックを受けた。
「エミリアがこんなこというようになるなんて……」
しばらく何も話せない。
「なんかすごいショックだ……。」
その様子を見ているうちに今度はだんだんなんかいらいらしてきた。
「だから、わたしはやっぱり殿下のお守りのお人形みたいなものなんですよね?」
「そんなわけないでしょ?」
そんなわけあると言い返す気でいた。でもできなかった。抱きしめられて唇をふさがれてしまったので。
「人形だなんて思ったこと一度もないよ。」
「じゃあ、なんでこんな長い間何もしなかったんですか?」
「あなたが言ったでしょ?こんなに早く結婚したくないって。僕に合わせて早めてしまったからせめてと思って待ってたんですよ。」
「……」
「もう待たないでいいの?」
返事をできないでいると、エドワードがエミリアの顎に手をかけて親指でそっとエミリアの唇を撫でる。
「エミリア、目を閉じて。」
目を閉じた。
「目の前にスープがあってスプーンで掬って飲もうとしてるって想像して。」
言われた通りにする。
「スプーンを噛んじゃだめだよ。」
そばで囁くようにいうと、エドワードの片手がエミリアの髪をかき分けて後頭部に回され、その後唇が押し当てられて隙間から舌が入りこんでくる。
頭の天辺から足の先っぽまで一気に熱くなった。
しばらくして体を離すと、エドワードは笑いながら言った。
「とりあえず今日はこのくらいにして眠ったら?」
言いつけに従った。
***
エドワード
「以上でございます。」
皆が集まっている会議の席上で、発表していた大臣がおそるおそると殿下の顔を覗く。
「うむ」
「よろしいでしょうか?」
「うむ、そのように進めろ。」
皆、一瞬固まる。
「なにか?」
「いえ。なにも。」
深くお辞儀をしたまま、恭しく後ろにさがる。
「まだなにか他にあるか?」
「いえ。特には。」
「じゃ、終わりにする。」
出て行ってしまった。
ついて出ていこうとするストレーチを大臣が捕まえる。
「おい、殿下はどうされたのだ。」
「どうされたとは?」
「なにか悪いものでも拾い食いされたのでは?」
いや、時々変なこととされる方だが、さすがにそんなことをされるお育ちではない。
大臣たちを適当にあしらって殿下の後を追う。
大臣が驚くのも無理はない。
殿下が大臣の発表に一言もつっこまずに終わらせるなんて。しかもさきほどの発表は、ストレーチから見てもつっこみどころがあった。
昔、皇太子の頃は控えめな大人しい方だったのに、王都に戻られて即位されてからは、昔のあれはなんだった、猫でもかぶっていたのかというほどに、手厳しい。
最初はニコニコしてる。というか、顔はいつもニコニコしてる。だけど、適当なことでも言おうことならぐうの音も出ないくらい言い込められる。
しかも、誰が何を言ったか、どんな人間かをよく把握してて、身分や位が低くても実力がある者には目をかける。
ひっくり返すと、身分は高いが実力のない者には無言の圧がかかる。さりげなく批判の雰囲気を作る。ストレートに批判はされないが。
結構性格悪い。悪そうには見えないのに。
そして、執務室まで行って、もっと信じられないものを見た。
殿下が寝てた。机につっぷして。
執務中に寝ているのを初めて見た。もう一度記憶を探る。いや、ない。即位される前からだ。居眠りするような人ではない。
もう一度そっと覗く。
やっぱり寝てる。幻ではない。
ストレーチは自分の抱えている書類を見る。
今日ご署名いただかないと、承認を待っている下の者たちが遊ぶことになる。
……。
たまにはいいか。たまにサボらんと、みんなずっときりきりまいだったからな。ここのところ。
ちょっと不覚にもスキップしそうになったではないか。
それにしても、一体何があったのだろうか?
しばらく気絶したように寝ていたエドワードは、ふと起きた。しばらくぼうっとした後に立ち上がって執務室を出て、隣の部屋を覗く。
いつもならここにいるストレーチがいない。
どこ行ったんだ?あいつ。
もう一度自分の席に戻ってから思いきり伸びをした後に頬杖をつく。
よく寝られなかった。
まさか、エミリアがあんなこと言うなんて思ってなくて。ストレーチがあんまりうるさいから、とりあえず同じ部屋で寝ればいいかと思っただけで。
エミリアと初めて会ったとき、彼女は確かに子供だった。妹みたいな存在で、そばにおいて大人になっていく様子を眺めて楽しんでいた。
初めて会った時から時間は経っていて、もう子供ではないとは分かっていたつもりだったけど、変なもので早く自分のものにしてしまいたい気持ちと一緒に、汚さずにきれいなままで置いておきたい気持ちもあって……。
まさか泣かせてしまうなんて思わなかった。
でも、泣くほどの何があったのだろう?
それを考えていて寝られなくなってしまった。
まだ幼い彼女のためにずっと待ってるんだと思ってた。でも、いざとなると怖い自分がいる。
エミリアは自分にとって真っ白な花のような人で、その人を抱くということは花をけがすような気になってしまう。汚さないように壊さないように大事にしたいという気持ちの横に、でも、めちゃめちゃにしたいという欲望がたしかにある。
それが怖い。隠してもいざとなるとかくしきれずに見えてしまいそうで。それが怖い。
そんな自分を見せてしまっても、彼女は自分を軽蔑しないだろうか?
エミリア
昨日に引き続き今日もエドワードが早く帰ってきた。珍しい。
でも、そのまま食事もそこそこに部屋に閉じこもってしまわれる。どこか具合でも悪いのかと心配になってついて行った。
ドアをそっと開けると長椅子に腰掛けたまま、腕組みをして寝ている。部屋に入ると横に腰掛けて話かけた。
「エドワード様、お休みになられるのでしたらお着替えになられてはいかがですか?」
そういうと薄目を開けてエミリアを見た後に
「もう少しだけこうしていたい。少し寝たら起きるから。」
そう言って横に座ってるエミリアの膝に頭をのせてよりかかってきた。
はっきり言って仰天した。
驚いて体を一瞬硬くしてしまったほどで……。
まぁ、でも、別に嫌ではない。
そのまま自分の膝の上で寝ているエドワードの頭を上から見る。
こんなこと初めてされた。
まるで子供みたいだとぽつりと思う。
少しだけとそっと髪に触れた。見た感じよりもエドワードの髪は細くて柔らかかった。
「こんな感じなのだな、きっと」
寝てると思ってたエドワードが起きてた。
「何がですか?」
「母親の膝の上というのも」
そう言われてこの人が母親を知らない人だということを思い出す。
エドワードはふと体を起こした。
「昨日、なんで突然泣いたの?」
「え?」
「それが気になって正直あまりよく寝られなかった。昼も公務に集中できなかった。」
「申し訳ありません。」
「怒っているわけではない。教えてほしい。このままだと今晩もよく寝られなさそうだ。」
そういうと疲れた顔で柔らかく笑った。
「……」
少し勇気を出した。いや、ほんというと結構。
「おそばにおいていただきたいんです。」
「うん」
「他の誰よりいちばん近くに。」
「今だっておいている。」
「そういう意味だけではなくて」
そっとじっとエミリアの顔を見ていたエドワードの瞳の中に不意に驚いた色が現れる。
「あなたはもしかして……」
「はい」
「僕のことが好きなの?」
エドワードのまじめな顔を見ているうちに、エミリアは思わず笑ってしまった。
「ひどいな。まじめな質問しているのに。」
「すみません。」
まだくすくす笑っている。エドワードが横で笑っているエミリアの体をそっと柔らかく抱きしめてくる。
「答えてくれないと今晩も寝られないよ。」
「毎日一緒にいるのに気付くのが遅すぎます。」
こう言った時のこの人の嬉しそうな幸せそうな顔を自分は一生忘れないだろう。いや、忘れたくない。
「あなたはずっとしょうがなく僕と一緒にいるのだと思ってた。」
「そんなことはないです。」
エミリアの髪にエドワードが顔を埋めて香りを嗅いでいる。ちょっとくすぐったい。
「いつから?」
「たぶん、初めて会った時から。」
「友達だって言ってたじゃない。」
「境目は自分でもいつからかよくわからないです。」
嬉しそうに笑いながら……。こんな顔で笑うこの人を初めて見た。髪を撫でながら唇を重ねる合間に彼がつぶやく。
「夢を見ているみたい。」
「おおげさです。」
そう言って笑うと言われた。
「あなたが笑うと世界で一番きれいな花が開いたみたい。」
「それもまたおおげさです。」
そんなにすごいものじゃない。別に。
「でも僕にとってはあなたはそのくらい特別な人だから。」
あなたが、思うだけなら。
あなたの世界の中でだけなら、
それもまた事実と言ってもいいのかもしれない。
どうかこの事実が永遠に壊れませんように。
***
エドワード
次の日、ストレーチはまたそっと執務室を覗く。
やっぱり。
殿下は今日も内容を確認して承認しなければならない文書を前にぼうっとしている。
2日続けていったいなにがあったというのだろう?
今日もまた下の者たちをさぼらせてしまっていいのだろうか?
あまり長く続くと癖になるのだがな。
というか、このまま殿下がもとに戻らなかったらどうしよう?
さすがにそれは困る。
2、3日くらい機能しないのは平気だが……。
どうしよう?
***
自分の気持ちの奥のほうに、大切だからこそ乱暴にしたいというような矛盾したものがあって……。
まあ、男というものは多かれ少なかれ、奥の奥のほうにはそういう欲求を抱えているものなのかもしれないけれど、征服欲とでもいうか。
でも、よくわからなくなった。
なんか、思ってたのと違った。体を重ねてしまうと。
征服したつもりが、なんだか征服されてしまったような気さえするのだから不思議である。
あのひとつになったときの溶け合うような感じがまだ体に残っていてどうしようもない。
ふと我に返る。
ぼうっとしていた。
昼に夜あったことを考えるのはやめよう。
頭を切り替えて目の前の文書に目を通す。
***
「おい」
「はい」
隣の部屋にいたストレーチを呼ぶ。
「これも、これも、これも、こんな内容じゃ承認なんかできん。必要な追加の報告事項をメモしておいたから、差し戻して報告し直させろ。」
「へ?」
「なにか文句でもあるのか?」
「昨日はこの内容の通りに進めろとおっしゃいましたが……。」
「……」
無表情のまましばらく黙った。殿下。
「それは、あれだ。わたしが黙っていてもお前たちで問題点に気づくかどうかを試したのだ。いつまでもわたしに頼り切りではいけないからな。」
いや、ただ単純に昨日ぼけっとしていただけですよね?物は言いようとはまさにこのことだな。
「なにか文句でもあるのか?」
「いえ。仰せの通りに。」
でも、この人偉い人。
恭しく礼をすると、文句言わずにひきさがる。
やれやれ
さっきは本気で心配したけどもとに戻ったな。
それにしてもいったいなにがあったというのだろう?
最近あったことをひとつひとつ思い起こす。
そう言えばエミリア様が16歳になったな。
はたと思う。
でもまさかそんなことであの殿下が?
冷静沈着な殿下がそんな些細なことであそこまで取り乱すだろうか?
よくわからない。
ま、でも後で屋敷の者にそれとなくきいておくか。
それよりも今はこの2日で滞ってしまった案件を処理しなくては。
さぼりの時間が今終わった。




