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真の妃に

 嵐の様な一日が終わった夜。エレナは自室にアレスを迎えていた。アレスはいつかとは違い、堂々とエレナの部屋を訪れた。


「大丈夫か?」


 居間の長椅子に二人並んで座ると、アレスが心配そうにエレナの顔を覗きこんだ。


「はい、なんとか……まだドキドキしていますけど」


 正直に答えるとアレスは少し困った顔をしてエレナの頭をそっと撫でた。労わってくれているのだと感じ、安心する。突然の出来事にざわめいていた心が凪いでいくようだった。


「アレス様……お父様達の事でわからなかった事があります」

「何だ?」

「お父様はどうして私に離縁を迫って来たのでしょうか? セーラ姫が襲われた事と関係が有ると言ってましたけど、私には理解出来ません」


 アレスは頷きエレナに向き直った。今までと違いエレナに隠す気は無いようだ。


「昨夜セーラを襲ったのはエザリア王女の配下だ。それはエレナも聞いていたな?」

「はい」

「セーラが襲われた理由だが、前提としてセーラは今身篭っている」

「えっ?! まさか……」


 セーラ姫は未婚の姫だ。普通では有り得ない事に驚きが隠せない。


「北の神殿に篭り姿を隠していた訳はそれだ。子を宿した事が外部に漏れるのを防ぐ為。または外敵から身を守る為」

「だからセーラ姫がふくよかだったと……」


 湖の襲撃犯の男が言った台詞を思い出し、エレナは呟いた。


「そうだ。そして子供の父親はエザリアのフリード侯爵。エザリア王女に襲われた理由もそこにある」


 これ以上驚く事など無いと思っていたのに、アレスの言葉はあまりに衝撃だった。


「神官長はセーラの秘密を知られた事に衝撃を受けたはずだ。大国エザリアの王女が本気で狙って来たら阻むのは難しい。これは俺の想像だがセーラの事でカーナの秘密が知られる可能性も恐れたのだろう。カーナ家を守るには王女を排除するしかないがその方法として一番早いのがエザリアとの国交を断ち、エザリアの人間をサリアに入れない様にする事だ」


「国交を?」


「ああ。だが俺がエザリアとの国交断絶に反対しているから話は直ぐには進まない。元々俺の存在は邪魔だったのだろうが、一刻も早く排除する必要が出て来たという事だ」


 アレスが反対するのは当たり前だ。世界一の大国エザリアとの交流を捨てる事はサリアにとって大きな痛手になるのが分かりきっているのだから。


「セーラ姫はどうなるのでしょうか?」


 今の話なら父が失脚してもセーラの危機は変わらないだろう。


「セーラは王家で保護をする」

「でもそうすればエザリアと上手くいかなくなるのでは?」


 不安になり言うと、アレスは安心させる様に、エレナの肩を抱いた。


「大丈夫だ。セーラを襲ったのはあくまでエザリア王女個人で国として攻めて来ている訳ではない。これから話し合いをして解決させる。それに心強い味方も出来た」

「味方ですか?」

「ああ。エレナの母親の生家のレイクランド王家だ。これからは隣国同士協力して国を守り発展させていく」


 エレナは唖然としてアレスを見つめた。ついこの前までレイクランドとの交流は余り無かったはずなのに。エレナの知らない所でアレスはどれ程の事をしているのだろう。



「どうした?」


 アレスが不思議そうに問いかけて来る。


「いえ……ただ思っただけです。アレス様は本当に凄いと。そして私もいつかはアレス様にふさわしい妃になりたいと」


 アレスは極上の笑みを浮かべエレナを抱き締める。力強い腕の中で思う。いつか堂々と隣に並べる様に努力しようと。





 一月後。


「エレナ様! 急いでください」


 フィーアに急かされてエレナは慌てて馬車に乗り込んだ。


「エレナ様、本日の予定はしっかりお伝えしたはずですよね? 王都西の孤児院を訪問後、東の教会を訪問。王宮に戻りハルメ侯爵夫人と面会……この様に予定はぎっしりで余分な時間など無いのです。それなのに子供達と一緒になって時間を忘れてはしゃぐなんて……王太子妃の立場だと言うのに……」


 怒りながら嘆くフィーアに気まずい思いになりながらとりあえず言い訳を述べてみた。


「子供の相手をするのも王太子妃の仕事でしょう? 親身になって悩みを聞いたりするのは大事だって聞いたけれど」

「親身になりすぎです! どう見てもご自分が息抜きされていましたよね?」


 その通りなので言い返し辛い。


 あの日以来、アレスはエレナに王太子妃としての仕事を任せる様になっていた。それはとても嬉しい事でエレナも張り切って公務に勤しんでいるのだけれど。


「王太子妃の仕事って本当に大変なんだもの。少しは息抜きしたくなるわ」

「今までが有り得ない程何もしていなかったんですよ。これからはアレス様の本当の妃として力を尽くさなくては」

「本当の妃……頑張るわ!」


 アレスの事を想うと一気に力が沸いてくる。苦手な高位貴族女性との社交だってなんだって出来そうだ。





 エレナの環境は変わったけれど、サリア王宮も大きく変化していた。


 カーナ神官長ガルダは神官長の地位を降り、最も辺境の領地サランへ謹慎。メンデルは王都校外の屋敷に軟禁となった。


 カーナ公爵家当主と神官長の位は、メンデルの言ったカーナ家一の分家ではなく、ガルダの影響を受けずに権力から離れていた第三の分家の当主が継いだ。




 そしてセーラ姫は……。



 サリア王宮の東。

 静かな森の中。ひっそりと佇む白亜の屋敷に黒髪の若い女性の姿が有った。


 ハルメ侯爵夫人との面会前の僅かな時間に離宮を訪れたエレナはセーラの部屋に通された。


「セーラ姫。離宮の暮らしに不自由は無い?」

「エレナ様。お気使いありがとうございます」


 ゆったりとした青いドレスに身を包んだセーラは穏やかに微笑んだ。頬には赤みが差し、カーナ屋敷に居た頃と比べると健康的に見える。


 セーラ姫とはこうして時々会っている。


 元々親しい間柄では無いからあまり会話は弾まないけれど、セーラ姫はエレナの訪れを待っている様に感じた。


 エザリア王女の問題もあり、セーラは子供の父親であるフリード侯爵と顔を合わせてないはずだ。


 セーラが今どんな気持ちでいるのかは分からない。だけどセーラ姫と生まれて来る子の力になろうと思う。


 全てはセーラ姫が始まりなのだ。


 カーナの闇を晴らそうと小さな抵抗を続けて来た。

それがたとえフリード侯爵との恋のためだとしても、サリア王宮に光を呼ぶきっかけになったのだから。



「王太子殿下はお元気ですか?」


 穏やかな沈黙の中セーラが言う。


「はい。レイクランドへの訪問の為長く留守にしていましたけど、夕刻お戻りになるそうです」


「そうですか。エレナ様とも久しぶりの再会なのですね.うれしいでしょう?」


「……はい。とても」


 セーラ姫の身の上を想うと答えを悩んだけれど、結局素直に頷いた。それをセーラ姫も望んでいる様な気がしたから。




 アレスの帰城は日が落ちた後だった。


 帰城の祝いは翌日となったから、エレナは自室でアレスを待つ。


 あれから目まぐるしく日々が過ぎ、アレスとゆっくり過ごす事は叶わなかった。


久しぶりの再会に心が弾む。


「姫様、王太子殿下がおいでになります」



 乳母が告げ、侍女達がアレスを迎える為に整然と立ち並ぶ。


 エレナの部屋の扉が開き、身を清めゆったりとした長衣を纏ったたアレスが部屋に入って来た。


(アレス様……)


 久しぶりに見るアレスは少し髪が伸び、艶やかさが増している様に見える。エレナを見つめる青みがかった目は魅了されてしまう程美しい。



「お前達は下がれ」



 アレスの低い声がして、女官達が部屋を出て行く。その時、笑顔のフィーアと目が有った。


 扉が閉まるとアレスはエレナの目の前迄近付き、優しく微笑んだ。



「アレス様、お帰りなさいませ」


 久しぶりに会えた事が嬉しくて。愛しさが押さえ切れなくて涙が溢れそうになる。



「ああ……」



 アレスがそっとエレナの髪に触れながら言った。



「離れている間、いつもエレナの姿を思い浮かべていた……戻ったらもう離さないと決めていた」


 切なげなアレスの目。鼓動が速くなるのを止められない。


「何より大切にすると誓う」

「アレス様……」


 胸が高鳴って頭がクラクラとする。


 気付けばアレスに抱き上げられて、寝台の上にそっと降ろされていた。拒絶された初めての夜とは違う。これからアレスの本当の妃になる。


 髪から頬へ。アレスの大きな手が身体を優しく触れて来る。


(アレス様……大好き)


 そんなエレナの気持ちに応えるように、アレスが奪うような激しいキスをする。何度も繰り返されるそれに、身体が熱くなっていく。

アレスに強く求められる事が嬉しくて仕方ない。


「アレス様……大好きです」


 アレスの広い背中に腕を回す。この先何が有ってもこの手を離さないと心に決めて。



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