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7.針葉草と採取者の加護

オルガは最初、そんな私をただの危なっかしい子どもだと思っていたらしい。


 だから、森へ入ることも禁止されていた。

 私も森へ行くなと言われれば、今日は村の外れまでにしておこうと思う。


 けれど、道を歩いていると、見たことのない葉が目に入る。


 少しだけなら。


 そう思って近づけば、今度はその奥に珍しい花が咲いている。


 あと少しだけ。


 そうしているうちに、気がつけば森の中にいる。


 自分でも不思議だった。


 森へ入ろうと思っているわけではない。


 ただ、植物のほうが私を呼んでいるのだ。


 ……たぶん。


「森へ行くんじゃないよ」


「はい」


「本当に分かってるんだろうね?」


「分かっています」


「……なら、なんで今、長靴を履いてるんだい?」


「それはいざという時のためです」


「分かってないじゃないか!」


「植物が……私を呼んでいるんです」


「呼んでないよ。あんたが勝手に行ってるだけだ」

 

「ではどうして足が勝手に動くんですか?」


「知るかい! ほら、その勝手に動く足をこっちへ向けて掃除でもしな!」


 そんなやり取りを、何度したことだろう。


 けれど、あるときからオルガの様子が変わった。


 私は植物を傷つけずに採取できた。


 根を必要以上に掘り起こすこともなく、種をすべて奪うこともない。花を採るときも、必ず次の季節に咲ける分を残した。まるで何事もなかったかのように土も荒れていない。


 最初は、それが特別なことだとは思っていなかった。

 

 ある日、森の浅い場所で、オルガに見慣れない薬草を教えてもらった。


「それは針葉草《しんようそう》だよ。葉の先が硬くてね。薬に使うのはこの部分だ」


植物名:針葉草(しんようそう)

分類:草本類/薬用植物

状態:良好

生息環境:森林(浅瀬・日の光が差し込む半日陰の土壌)

毒性:なし

薬効:消炎作用、止血

採取適期:春〜初夏(葉が青々と硬さを増す時期)

備考:年間を通して乾燥した土壌を好み、針のように硬く細い葉を放射状に伸ばす。


「分かりました」


 私は針葉草の前にしゃがみ込んだ。


 細い葉が何本も地面から伸びている。根は浅いようだったが、無理に引き抜けば簡単に千切れてしまいそうだった。


 私は葉の根元に指を添えた。


 どこに触れればいいのか。


 どこから切れば、残った株を傷つけずに済むのか。


 それが、なぜか分かった。


 私は必要な部分だけを採った。


 残った針葉草は、何事もなかったようにその場に残っている。


「……リゼット」


「はい?」


「お前、どうやって採取したんだい?」


 振り返ると、オルガが採った針葉草を見つめていた。


「普通に採りました」


「普通に、ねえ……」


 オルガは針葉草の根元を確かめる。


「こんな状態で普通は採取できないものだが」


「そうなんですか?」


「ああ。力を入れれば株ごと抜けるし、刃物を使えば根元を傷つける。こいつは扱いにくいんだよ」


 私は残った針葉草を見る。


「でも、傷つけない場所は分かります」


「……分かる?」


「はい。ここなら大丈夫だと」


 オルガはしばらく私の顔を見ていた。


「そうかい」


 それ以上は何も聞かなかった。


数日後、別の薬草を採っていたときのことだった。

  

 茎を傷つけないように葉を避け、ちょうどいいところから切り取る。

 

 いつものことなので、特に何も考えていなかった。

 

 けれど、ふと昔のことを思い出した。

_

 転生する前、女神に植物を傷つけずに採取できるように頼んだことがあった。

 

「……あ」

 

 私は手元の薬草を眺めた。

 

 あのときは、珍しい植物をたくさん見てみたいと思っていた。

 

 こうして実際に採集していると、ずいぶん便利なものをもらったらしい。

_

 私はそんなことを考えながら、もう一株の薬草にも手を伸ばした。

 

 これが、採取者の加護というものなのだろう。

_

 今ごろ思い出したことに、少しだけ可笑しくなった。


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