14.毒草の多い薬師店
それでも、オルガは影縫い草を捨てなかった。
毒性を記録し、乾燥方法を試し、少量ずつ成分を確認した。
そして数週間後、彼女は影縫い草から作った軟膏を、関節痛に悩む 村人へ試すことになった。
結果は良好だった。
痛みは和らぎ、皮膚の痺れも出なかった。
「……使い道はあるんだねえ」
オルガは完成した軟膏を見ながら呟いた。
「だから言ったでしょう」
わたしはフフンと鼻を鳴らした。
「ただし、使い方を間違えれば毒だ」
「薬と毒は、使う量と方法が違うだけです」
「その言葉を、患者の前で軽々しく言うんじゃないよ」
「はい」
私は素直に頷いた。
オルガは私の頭を軽く小突いた。
「まあ、危険なものばかりじゃなく、薬草も採ってくるなら、まだいいけどね」
その翌日。
私は採った毒草と薬草を満足気に確かめると、収納空間へしまっていった。
樹液に幻覚作用のある若木の枝。
匂いを嗅ぐと眠気を誘う花。
葉に触れると指先の感覚がなくなる草。
赤い斑点のある茸。など。
ふと振り返り、採取した場所を眺める。
採取者の加護のおかげで、植物を採った場所は、まるで何もなかったかのようだった。
残された草花は傷つくことなく、土も乱れていない。採取する前と変わらない、きれいな森の姿がそこに残っていた。
私はそのままオルガの店へ戻った。
私は、採ってきた植物を収納空間から取り出した。
店の戸口に立ったオルガは、並べられた植物を見た。
薬草を見た。
毒草を見た。
もう一度、薬草を見た。
そして、ゆっくりと私の顔を見た。
「……リゼット」
「はい」
「今日は薬草を何種類、採ってきた?」
「五種類です」
「毒草は?」
「十二種類です」
「……」
オルガは並べられた植物を、もう一度数えた。
「薬草より毒草の方が多いじゃないか」
「森の奥へ行ったので」
「昨日も奥へ行くなと言っただろう!」
「つい」
「お前のついは何回あるんだい!」
「浅い場所では見つからない植物が多いので…あ、それに今日は狼煙の準備もして行きました」
「そういうところだよ!」
「薬草もちゃんと採ってきました」
「そういう問題じゃない!」
「昨日、危険なものばかり持ってくるのでなければいいとおっしゃったので…全部薬に出来る毒草です」
「だからって、毒草の方を増やせとは言ってないだろう!」
「増やしたつもりはありません。見つけたので採りました」
「それを増やしたって言うんだよ!」
私は少し考えた。
「では、次からは薬草を十三種類採ります」
「増やせばいいって問題じゃない!」
「毒草を十一種類に減らします」
「減らせばいいって問題でもない!」
オルガはしばらく黙り込んだあと、赤い斑点のある茸をつまみ上げる。
「これは?」
「食べると半日ほど幻覚を見ます。ですが、少量を正しく使えば、眠りを促す薬になります」
オルガは両手で顔を覆った。
指の隙間から、じっと私を見る。
「薬草より毒草の方が多い薬屋なんて、聞いたことがないよ」
「珍しい店ですね。私は好きです」
「お前だけだよ、そんなこと言うのは!」
それから帰ってくるたび、オルガはまず薬草の数を数え、その次に毒草の数を数え、最後に私の顔を見てため息をつくようになった。
採集の成果と共に、彼女の悩みの種も増えていった。
(この種が発芽して、何か大変なものにならないことを願う)




