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第1部 第4話「ダンジョンの外では、いつもの日常」


――ダンジョン・第9階層。

薄暗い通路に、二人分の足音が響いていた。

カツ……。

カツ……。

一人は、とうや。

もう一人は、まりな。

二人は先ほどまで、隠し部屋を見つけ宝箱を何が入ってるかワクワクしながら開けた結果、罠だった。そして宝箱と戦っていた

正確には――

罠に一方的にやられていた、とうやが。

炎。

岩。

爆発。

そして大量の宝箱。

最後には、まりながキレ散らかして宝箱を片っ端から斬った。

その結果。

部屋には、原形を留めていない宝箱が大量に転がっていた。

とうやは、その光景を思い出しながら肩を落とす。

「……あ〜、ったくよ〜。」

「……」

隣を歩くまりなは、相変わらず無表情。

とうやがぼやく。

「全部宝箱が罠とかやめてくれよ!」

まりなが淡々と答える。

「……ダンジョンだから」

「それ言われたら何も言えねぇよ」(´・ω・`)

とうやは苦笑した。

「まぁ……確かにダンジョンだもんなw」

「うん」

「でも、一個くらい本物があってもよくないか?」

「……」

まりなは答えない。

とうやは少し考える。

「いや、でも最後にまりなが全部斬ったからなw」

「罠ならいらない」

「そうだなw」

とうやは苦笑する。

二人の間には、いつの間にか妙な距離感ができていた。

出会ったばかりの頃。

とうやは、まりなのことを警戒していた。

11歳。

一人で第9階層まで到達する。

日本刀を持ち、モンスターを淡々と倒す。

そして――

回復魔法を使う。回復してくれたこともある、めちゃくちゃ悲鳴をあげた。

普通の少女ではない。

そう思っていた。

だが。

一緒にダンジョンを進み。

何度もモンスターと戦い。

罠に巻き込まれ。

宝箱を破壊し。

それでも――自分を脅かす存在ではない。

とうやにとっては、それだけで十分だった。

やがて。

二人の前に、薄暗い出口が見えてくる。

遠くから光が差し込んでいた。

とうやが目を細める。

「……やっと帰ってこれたわ」

まりなも出口を見る。

「ん」

二人は、そのまま光の中へ歩いていった。

――地上。

ダンジョンの入口から出た瞬間。

空気が変わった。

にぎやかな声。

数台の車の音。

信号機の電子音。

店から流れる音楽。

街を歩く人々。

ダンジョンの静寂とは正反対の――

いつもの日常。

とうやは大きく伸びをする。

「はぁ~~~~……」

肩を回す。

「やっぱ地上はいいわ〜」

まりなは隣で静かに街を見る。

「……」

とうやが振り返る。

「じゃあ、ここで解散するか」

「ん」

「またダンジョンで会ったらよろしくな〜」

まりなは小さく頷いた。

「分かった」

二人は、それぞれ別方向へ歩き出す。

数歩。

とうやは、なぜか立ち止まった。

そして――

振り返る。

まりなは、もうこちらを見ていなかった。

小さな背中が、街の中へ消えていく。

「……変なやつだな」

とうやは小さく呟く。

だが――

嫌な感じはしなかった。

むしろ。

また会うような気がした。

とうやは前を向き直る。

「……さて」

その瞬間。

腹が鳴った。

グゥゥゥゥ……。

「……腹減った」

とうやにとって、まりなのことよりも重要な問題が発生した。

ダンジョンで長時間戦った。

罠にも引っかかった。

モンスターとも戦った。

当然――

腹も減る。

とうやはスマートフォンを取り出す。

「何食うかな……」

少し考える。

「……」

数秒後。

「よし、ラーメン」

即決だった。

――ラーメン店。

「いただきます!」

とうやは勢いよく箸を取った。

ズルズルズルッ!!

「うめぇ~~~!」

濃厚なスープ。

熱々の麺。

ダンジョン帰りの身体に染み渡る。

とうやは幸せそうな顔をしていた。

「やっぱダンジョン帰りのラーメンは最高だな」

ズルズルッ。

さらに麺をすすっていく。

「……最高」

完全に幸せな時間だった。

――その時。

店の入口から、聞き覚えのある声がした。

「あ……」

とうやの箸が止まる。

ゆっくり顔を上げる。

そこにいたのは――

ギルドの受付嬢さんだった。

受付嬢さんもとうやに気づく。

「あっ、とうやさん!」

「………げ」

「今『げ』って言いましたよね?」

「言ってないっすね〜」目が泳ぐとうや

「言いましたよね?」

「あれ〜俺そんなこと言ってませんよ〜?」めちゃくちゃ嘘をつく

「絶対言いました」

受付嬢さんはそのまま、とうやの席までやってくる。

「ダンジョンから帰ってきたんですか?」

「潜ったわ〜」

とうやはラーメンをすすりながら答える。

「今日は結構潜ったんだよw」

「そうなんですね」

受付嬢さんは笑った。

だが――

その笑顔が、ほんの少しだけ曇る。

とうやは箸を止めた。

「……どうしたん?」

「え?」

「なんか顔が暗いが」

受付嬢は一瞬、言葉を迷った。

そして――

周囲を確認する。

「実は……」

声を落とす。

「また、事件が起きたんです」

とうやの箸が完全に止まった。

「事件?」

「はい」

受付嬢は小声で続ける。

「最近、この街で妙な誘拐事件が続いているんです」

「誘拐……?」

「はい」

とうやの表情から、さっきまでのラーメンへの満足感が消えていく。

「被害者が――突然いなくなるんです」

「……」

「何の前触れもなく」

「……」

「家から消える人もいれば」

「……」

「街中で突然、姿を消した人もいます」

とうやは黙って聞いている。

受付嬢は続けた。

「そして、一週間ほど経つと――」

そこで言葉が止まる。

「……どうなったん?」

受付嬢は少しだけ目を伏せた。

「……元の場所に戻ってくるんです」

「戻ってくるん?」

「はい」

とうやは眉をひそめる。

「じゃあ、無事なのか?」

受付嬢は――

ゆっくり首を横に振った。

「……それが」

声が少し震える。

「戻ってきた人たちは、みんな……」

「……」

「目が死んでいるんです」

とうやの顔から、笑みが消える。

受付嬢は続ける。

「そして」

一拍。

「同じ言葉を繰り返しているんです」

「何てよ?」

受付嬢は、少しだけためらった。

そして――

答えた。

「……『ポンポコ、ポンポコ……』って」

「…………」

とうやの顔が固まる。

「……何それ…嫌すぎるんだけど…」

「私にも分かりません」

「……」

ラーメン店の中には、いつも通りの喧騒がある。

店員の声。

客の話し声。

食器の音。

なのに。

とうやには、それが妙に遠く感じられた。

視線を落とす。

目の前には――

さっきまで最高だったラーメン。

だが。

今はなぜか、味気なく見えた。(´・ω・`)

「……」

とうやは小さく呟く。

「あ〜、俺明日レベリングするんだよね〜」

受付嬢が苦笑する。

「そういうわけにもいきませんよ」

「……え?」

嫌な予感がする。

ものすごく嫌な予感がする。

とうやは箸を置いた。

「……嫌だ」

「え?」

「やめとくわ」

「え?」

「この話はなかったことにしましょう」笑顔で言う。

「とうやさん!?」

とうやは席を立つ。

「受付嬢さん、お疲れ様でした」

「お願いしますうううううううう!!」

「うわっ!?」Σ(゜Д゜)

受付嬢が両手を合わせる。

「ほかの冒険者の人にもあたったんですけど、調査してくれる人が少ないんです~~!!」

「いやでも――」

「お願いしますうううう!!」必死になる受付嬢さん

「えぇ……」

とうやは深いため息をついた。

ラーメンを見つめる。

事件。

誘拐。

謎の言葉。

ポンポコ。

そして――

なぜか自分に回ってくる仕事。

「……」

とうやは思った。

――ダンジョンに潜ってたほうが楽だった。

店を出る。

外は、いつも通りだった。

人々が歩いている。

車が走る。

店の明かりが街を照らす。

子供たちが笑っている。

誰も知らない。

この街のどこかで――

人が消えている。

誰かが怯えている。

そして。

消えた人間が――

一週間後には戻ってきている。

「……」

とうやは街を眺める。

「……うわ〜しんどすぎるって〜」

背後から受付嬢が言う。

「そうですね」

とうやは振り返らない。

ただ、しばらく街を見つめていた。

――夜。

街灯が道路を照らしている。

とうやは一人で歩いていた。

昼間聞いた言葉が、頭から離れない。

「……ポンポコ、ポンポコ……か」

ポケットに手を入れる。

「あとでスマホでポンポコ調べるか」

空を見上げる。

そして――

前を向く。

「今はそんなことよりゲームやるか…帰ろ」




続く。

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