第1部 第3話「宝箱だらけの隠しダンジョン」
――第9階層。
薄暗い洞窟の中を、壁に明かりはないが、宙に浮く懐中電灯が通路を照らしている
二人分の足音が、静かな洞窟の中へ吸い込まれていく。
一人は――
少女、まりな。
もう一人は――
少年、とうや。
偶然第9階層で出会った二人は、気がつけばしばらく一緒に探索していた。
別に約束したわけでもない。
なんとなく。
ただ、それだけだった。
洞窟の壁には、ところどころ奇妙な傷跡が残っている。
爪で引っかいたようなもの。
何かを引きずったようなもの。
そして――
妙に古い亀裂。
とうやは歩きながら、壁を見る。
「なぁ、まりな」
「ん?」
「さっきから思ってたんだけどな」
とうやは周囲を見回す。
「この辺、なんか変じゃね?」
まりなも足を止める。
そして周囲を観察する。
「……モンスターが少ない」
「それな」
普段なら、この階層にはモンスターがいる。
洞窟の奥から唸り声が聞こえたり。
突然襲いかかってきたり。
それが、この場所では――
静かすぎる。
「なんかあるだろ」
とうやが呟く。
「何かいるのか?」
「……分からない」
まりなは刀へ手を添える。
二人は警戒しながら、さらに進んだ。
その時。
まりなが突然、足を止めた。
「……とうや」
「んあい?」
まりなが壁を見る。
そこには――
不自然な亀裂があった。
自然にできたものとは思えない。
まるで――
壁の向こうに何かがあるような。
とうやが近づく。
「……これ」
指先で亀裂をなぞる。
「隠し通路じゃね?」
「たぶん」
とうやの目が輝いた。
「よし」
「……」
「行ってみようぜ」
まりなが少しだけ警戒。
「危険かもしれない」
「ダンジョンだしな〜」
「……」
まりなの目が細くなる。
「その言葉で全部済ませないで」
「はい」
即答する。
――隠し通路
二人は壁の隙間へ入っていく。
身体を横にして、狭い通路を進む。
壁には明かりがないが宙に浮く懐中電灯が通路照らす。
二人は進んだ。
しばらく歩いた、その時。
突然――
視界が開けた。
「…………?」
とうやが立ち止まる。
「…………」
まりなも立ち止まる。
二人の目の前に広がっていたのは――
巨大な空間だった。
天井は高い。
左右も広い。
そして中央には――
大量の宝箱。
1つ。
2つ。
10。
20。
さらにその奥にも。
ズラァァァァァ……。
数え切れないほどの宝箱が、部屋いっぱいに並んでいた。
とうやの口が少し開く。
「……」
まりなも黙っている。
数秒。
とうやが呟いた。
「……お宝やないか」
「……怪しい」
「でもお宝〜」
「怪しい」
「でも――」
「怪しい」
「……」
とうやが黙った。
腕を組む。
「どうすら?」
まりなは宝箱を見ながら答える。
「調べる」
「オケイ」
二人は慎重に宝箱へ近づいた。
――第一の宝箱
とうやが一つの宝箱を指差す。
「まずこれw」
しゃがみ込む。
まりながすぐに止める。
「待って」
「大丈夫だってw」
「罠あるかも」
「じゃあ慎重に――」
カチッ。
「……?」
「……」
二人の動きが止まる。
とうやがゆっくり顔を上げた。
「今、音したよな?」
「した」
次の瞬間。
――ドォォォォン!!
宝箱から、突然炎が噴き出した。
ゴォォォォォ!!
「ギャアアア!!」
とうやが飛び退く。
まりなも後方へ跳ぶ。
炎が床を走る。
ゴォォォ!!
とうやが叫ぶ。
「罠じゃん!!」
まりなが冷静に答える。
「言った」
「いや、これは予想できないわ!」
「怪しいって言った」
「はい……」
とうやは煤けた顔で宝箱を見る。
「……」
まりなは無言。
その視線だけが、
「だから言った」
と語っていた。
――第二の宝箱
とうやは懲りずに次の宝箱を開けるつもりだ。
「……じゃあ次」
まりなが呟く。
「学習してない」
「今度は多分ガチのお宝」
とうやは周囲を見回す。
そして――
一本の棒を拾った。
「これで調べるか」
「……」
とうやは宝箱へ近づく。
棒を伸ばして――
ツン。
カチッ。
「ええ!?」
「……」
次の瞬間。
――ズドォォォン!!
床が突然開いた。
そこから巨大な岩が勢いよく飛び出してくる。
「シャレにならん!!」Σ(゜Д゜)
とうやが慌てて飛び退く。
ゴゴゴゴゴ…ドガアアアン!!
巨大な岩が壁へ激突した。
とうやは棒を持ったまま冷や汗をかき、岩がぶつかった方を見る。
「……えぇ」
まりなを見る。
「宝の罠がヤバいんやが!?」
「……」
「宝箱なのに中身より先に殺しに来てるが!?」
まりなは淡々と答える。
「だから罠」
「……」
とうやは深く息を吐いた。
そして――
部屋に並ぶ大量の宝箱を見る。
「……」
まりなが言う。
「帰る?」
「いや」
とうやは懲りずに。
「すべて開けてやるわ」
「……」
まりなは思った。
――嫌な予感しかしない。
――第三の宝箱
とうやが次の宝箱を指差した。
「次こいつだ」
「……」
「どう思います?」
まりなは即答する。
「罠」
「即答すか!?」
「罠」
「じゃあ――」
「触らない」
「……」
とうやは宝箱を見る。
しばらく考えて。
そして――
再び棒を伸ばした。
ツン。
何も起きない。
「お?」
さらに。
ツンツン。
何も起きない。
「お?…これ!」
「……」
とうやはなんか得意げだ。
「これはいけるくないか?w」
まりなは無言。
とうやは慎重に手を伸ばす。
カチャ。
――無音。
「……」
「……」
ゆっくりと蓋が開いていく。
ギィ……。
中に入っていたのは――
大量のコイン。
キラキラと輝いている。
とうやの目が見開かれた。
「…………」
まりなも見る。
「…………」
そして。
とうやが喜ぶ。
「当たりじゃん!!」
「……」
「やったぜ!!」
とうやが両手を上げる。
しかし――
その瞬間。
ピカッ!!
宝箱の中から強烈な光が放たれた。
「なんじゃ!?」Σ(゜Д゜)
――ドォン!!
そして爆発。
「ぎゃああああ!! またかよおおおお!!」
煙が部屋中へ広がる。
まりなは静かに立っている。
「……」
煙が晴れる。
そこには――
全身煤だらけになったとうや。
髪はボサボサ。
服も汚れている。
「…………」
「…………」
とうやは何も言わない。
まりなも何も言わない。
数秒。
とうやが口を開く。
「……なぁ」
「何?」
「ここさ」
周囲を見回す。
大量の宝箱。
「宝箱、全部罠じゃね?」
まりなは即答した。
「最初からそう言ってる」
「……」
とうやは黙る。
とうやは改めて部屋を見渡した。
ズラァァァァァ……。
ズラッと並ぶ。
大量の宝箱。
「……」
「……」
とうやの顔から、さっきまでの期待が少しずつ消えていく。
「これ……全部?」
「たぶん」
「…………」
「…………」
そして――
まりなの額に青筋が浮かんだ。
――まりな、限界。
「……」
まりなは拳を握る。
ギュッ。
とうやが気づく。
「まりなさん?」
「……」
「どうしたん?」
「……もう」
とうやが一歩後ずさる。
「……?」
まりなの声が震えている。
怒りで。
「いい加減にして」
「え?」
「宝箱が罠」
「……」
「通路も罠」
「……」
「床も罠」
「……」
「何をしても罠」
まりなの声が少しずつ大きくなる。
「何なのここ!!」
――ドン!!
地面を踏む。
とうやがびくっとする。Σ(゜Д゜)
「ちょちょちょ…、まりなさん!?」
「人を騙すために宝箱を置くな!!」
「いや、それはダンジョンに言っても――」
「普通に宝を入れておけばいいでしょ!!」
「それは確かに――」
「うるさい!!」
「はい!!」
怒っている。
とうやは黙った。
まりなはすごい形相で宝箱を睨みつけた。
そして――
腰へ手を伸ばす。
カチャ。
日本刀を抜く。
キンッ。
「……」
とうやの顔が引きつる。
「まりなさん?」
まりなは無視して。
「……」
そして――
一閃。
シュッ!!
ズバァッ!!
宝箱が真っ二つになった。
ドン!!
「ちょっ、待て待て待て!!」
さらに。
シュッ!!
ズバッ!!
また一つ。
「宝箱そのものを壊してる!!」
「罠ならいらない」
「いや、そういう問題じゃ――」
ズバァァァ!!
「……」
もう止まらない。
次々と宝箱が斬られていく。
ガキィン!!
ドォン!!
ズバッ!!
まりなは無言で破壊を続ける。
とうやはその後ろで固まっていた。
「……」(゜Д゜)
やがて。
最後の宝箱が――
シュカアアアン!!
二つに割れた。
静寂。
部屋中に散らばる、壊れた宝箱。
「…………」
「…………」
とうやはその光景を見つめる。
まりなも刀を鞘へ戻す。
カチン。
とうやが恐る恐る聞いた。
「……スッキリしました?」
まりなは少し考える。
「……少し」
「そうか」
とうやは、何も言わなかった。
その時だった。
二人の後方から――
ゴゴゴゴゴゴ……。
「……?」
とうやが振り返る。
まりなも振り返る。
すると――
壁が動いていた。
ズズズズズ……。
石の壁が左右へ開いていく。
とうやが呟く。
「……まさか」
完全に開いた壁の向こう。
そこには――
さらに奥へ続く通路があった。
まりなは無言で見る。
とうやも見る。
「……」
「……」
とうやが聞く。
「行く?」
まりなは少し考える。
そして――
コクッ。
「よし」
二人は歩き出した。
新しく現れた通路へ入っていく。
しばらくして。
とうやが口を開いた。
「……なぁ」
「何?」
「今度こそ本当に宝があると思う?」
まりなは考えてから答えた。
「……ないと思う」
「だよなw」
二人は顔を見合わせる。
そして――
ほんの少しだけ笑った。
「……」
「……」
カツ……。
カツ……。
二人は、隠しダンジョンのさらに奥へ進んでいく。
続く。




