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【第8話:初めての夜会と、哀れな泥舟】


ガルディニア帝国の華やかな夜会。


レイヴン様が選んでくださった漆黒のドレスを纏い、私は彼の大きな手にエスコートされて大広間へと足を踏み入れた。


「……っ、美しい」


「あの方が、陛下が直々に連れ帰られたという……」


会場に入った瞬間、張り詰めたような静寂が広がり、続いて貴族たちの驚嘆の吐息が波のように押し寄せた。


前の国の夜会では、私を見る周囲の目はいつもトゲトゲとした嫌悪の光に満ちていたのに、ここにあるのは純粋な感嘆と、神聖なものを見るような敬意の視線ばかり。


けれど、そんな周囲の称賛などお構いなしに、隣を歩くレイヴン様は、見たこともないほど険しいお顔で私の腰をグッと強く抱き寄せた。


((((((おい、そこの伯爵。今エルサの胸元を二秒以上直視したな。目をくり抜いてやろうか。そっちの侯爵はエルサの細い腰を見て何を品定めしている。不敬だ。死罪だ。エルサ、やはりこのドレスは露出が多すぎた。私の部屋以外で着せるべきではなかった。可愛い。美しすぎる。漆黒の生地に金髪とローズクォーツの瞳が映えて、まるで夜空に輝く女神のようだ。尊い。無理。今すぐ私の背中に隠して、誰の目にも触れさせたくない。ああ、理性が擦り切れる……!))))))


口元を厳しく引き結び、冷徹な威圧感を周囲に放ち続けるレイヴン様。


しかし、そのお顔の怖さとは裏腹に、私の目に見える彼の頭上の数値は、激しく火花を散らしながら【好感度:800,000,000(8億)】へと突入していた。


(わあ……。夜会が始まったばかりなのに、もう8億だわ。レイヴン様、本当にお顔は怖いけれど、私のドレス姿をすごく気に入ってくださったのね)


「エルサ様、こちらへ。陛下から漏れ出る冷気のせいで、会場のシャンパンが凍り始めています。少し離れましょう」


絶妙なタイミングで私を呼び止めてくれたのは、給仕の持ったグラスを手に微笑むキース様だった。


レイヴン様がキース様をものすごい形相で睨みつけていたけれど、キース様は慣れた様子でそれを無視し、私にそっと耳打ちをする。


「エルサ様が去ったプロスタニア王国ですが……今、大変なことになっていますよ」


「あら、プロスタニアが? どうされたのですか?」


私が首を傾げると、キース様は高級なハーブティーを一口含み、どこか楽しげに目を細めた。


「エルサ様が『お片付け』された魔導インフラ停止から一週間。王宮では冷たい水しか出ないため、エドワード王太子は重い風邪をひいて寝込んでいるそうです。さらに、防御結界が消えたせいで国境の森から魔獣が押し寄せ、騎士団も崩壊寸前だとか」


「まあ。お湯が出ないと、お身体が冷えてしまいますものねえ。魔獣さんも、結界がなくなって入り放題になってしまったのですね」


私がのんびりと相槌を打つと、キース様は驚いたように目を見張った。


「あちらの国王が、必死にエルサ様の行方を探して『今すぐ戻ってインフラを直せ』と公式の使者を送ってきたのですが……。我が国が『無能な令嬢など預かっていない。我が国にいるのは国家最高機密の至宝である』と全て門前払いにしていますので、ご安心を」


「ふふ、キース様、お優しいのですね。ありがとうございます」


私が満面の笑みで告げると、後ろから伸びてきた大きな手が、私の肩を優しく、けれど独占欲を隠さない強さで包み込んだ。


「キース、エルサと話しすぎだ。これ以上私のエルサを視界に入れるな」


「陛下、私はエルサ様に現状を報告していただけです。あと、独占欲が強すぎて【8億】のメーターが私にも見えそうなので、その険しいお顔を少しは緩めてください」


相変わらずポーカーフェイスのまま、けれど頭上の数字を盛大に燃え上がらせているレイヴン様。


元の国が冷水に震え、魔獣の恐怖に泣き叫んでいることなど、私にはもう関係のないこと。


私は新天地で、この重すぎるほどの愛に包まれながら、美味しいタルトをパクリと口に運ぶのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!



不定期に18時更新予定です。毎日更新出来るように頑張ります!お楽しみに!



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