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【第6話:5億の主が与えし、神の仕事場】


ガルディニア帝国の皇帝、レイヴン様が用意してくださった白亜の魔導工房。


その最高級の木材で作られた作業机に、私はトランクから取り出したボロボロの研究ノートを広げた。


「……信じられん。これが、お前が一人で書き上げた術式か、エルサ」


私の背後に立ち、ノートを覗き込んでいるレイヴン様が、地響きのような低い声で呟いた。

美しい銀髪が私の頬にわずかに触れ、彼の纏う、冷たいのにどこか甘い大人の香水の匂いが、ふわりと鼻腔をくすぐる。


「はい! 前の国では『こんな汚い落書きノートは燃やしてしまえ』とお父様に言われていたので、残せて良かったです!」


私が満面の笑みで振り返ると、レイヴン様の紫の瞳が、一瞬だけ恐ろしいほど冷酷に細められた。


((((((あのクソ公爵め、今すぐ実家に魔導爆撃を打ち込んで更地にしてやろうか。いや、それでは甘い。我が国が経済的にあの国をじわじわと干上がらせ、彼らがパンの耳に泣いてすがる姿をエルサに見せてやろう。……それより、さっきからエルサが振り返るたびに、机に押し付けられた豊かな胸元が信じられない形に変形している。けしからん。あまりにも眼福が過ぎる。無理。今すぐ私の膝の上に抱き上げて、この柔らかい身体を一生独占したい。可愛い。知性が神の領域なのに、無防備すぎて理性が爆発しそうだ。尊い、死ぬ))))))


「……フン。見る目のない愚者どもだ。気にするな」


レイヴン様は片手で口元を覆い、氷の皇帝の無表情を保っている。


だけど、彼の頭上を見上げれば、そこには――。


【好感度:630,000,000】


(わあ、また3千万も増えています! 私のノートを褒めてくださるのが、そんなに嬉しいのかしら?)


「エルサ様、あまり陛下の顔を見つめないであげてください。ただでさえ処理能力を超えて脳の血管が千切れかけているのですから」


コンコン、と書類の束で机を叩きながら、眼鏡をかけた有能そうな青年――帝国宰相のキース様がため息を吐いた。


「キース、無礼だぞ。私は至って冷静だ」


「どこがですか。陛下から漏れ出ている独占欲の魔力のせいで、工房の室温がさっきから3度上がっていますよ。……それよりエルサ様、このノートに書かれている『簡易魔力抽出術式』ですが、これ、本当にお一人で?」


「はい! これを使うと、普通の魔石から十倍のエネルギーが取り出せるんです。あ、でも、前の国宮廷魔導師様たちからは『そんな不具合だらけのオモチャ、動くわけがない』って怒られちゃいました」


私が不思議そうに首を傾げると、キース様は手に持っていた書類を床にバラバラと落とし、そのまま自分の胃のあたりをぎゅっと押さえた。


「じゅ、十倍……? それを流通させたら、我が国の軍事力と経済力が数日で世界の頂点に立ちますが……。あの国は、国家最高レベルの『至宝』を無能と呼んで追放したのですか? バカなのですか?」


「キース。あの国のバカどもに、私のエルサの価値が理解できるわけがないだろう」


レイヴン様がふい、と私の前に一歩踏み出し、キース様の視線から私を隠すように立ちはだかった。

そして、私の細い腰を大きな手でグッと引き寄せ、自分の方へと引き寄せる。


「ひゃっ……、レイヴン様?」


「……エルサ。この国では、お前を無能と呼ぶ者は一人もいない。私が許さない。お前はただ、私の腕の中で、好きなだけその天才的な頭脳を振るえばいい」


低い、甘い声が耳元で響く。腰を抱きしめる彼の指先は、まるで壊れやすいガラス細工に触れるかのように優しく、だけど絶対に離さないという執着でかすかに震えていた。


「はい! 私、レイヴン様のためにたくさん新しい魔導具を作りますね!」


私が胸元を密着させるような距離感で嬉しそうに見上げると、レイヴン様の頭上の数値が、ついにカタカタと音を立てて【6億5千万】へとバグ増殖を始めた。


「……くっ、キース、今日の執務はすべて中止だ。私はエルサの安全を確保ただイチャイチャしたいだけするため、ここに残る」


「却下です、陛下。エルサ様のせいで使い物にならなくなった脳を早く現実に引き戻して、山積みの書類にサインをしてください」


宰相キースに首根っこを掴まれ、ずるずると引きずられていく冷徹むっつり皇帝。

私はそれを見送りながら、さっそく帝国を豊かにするための魔導回路を描き始めるのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!



不定期に18時更新予定です。毎日更新出来るように頑張ります!お楽しみに!



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