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【第5話:天才の去った国、無能たちの叫び】

【第5話:天才の去った国、無能たちの叫び】

レイヴン様に連れられて到着したガルディニア帝国は、驚くほど美しく、活気に満ちあふれた大国だった。


そして何より、私を待っていたのは、王宮の敷地内を丸ごと一つ使った白亜の巨大な建物。


「エルサ、ここがお前のための新しい工房だ」


「……えっ? これ、私一人のための建物ですか?」


「そうだ。お前が前の国で、まともな道具すら与えられずにこき使われていたと聞いてな。国中から世界最高峰の魔導具、鉱石、そしてお前を脅かす者のない完璧な結界を用意させた」


レイヴン様は氷のように美しい無表情のまま、私の腰にそっと手を添えて工房へと案内してくれる。


ふと見上げれば、彼の頭上の数値はさらに更新され、【好感度:600,000,000】という、もはや天文学を越えて宇宙規模の数字になっていた。


「ここで好きなだけ研究するといい。お前の才能は、世界がひれ伏すべき宝だ。……そして、疲れたらいつでも私を頼りなさい。二度と、あの愚かな国になど返さない」


「ありがとうございます、レイヴン様! 私、すっごく嬉しいです!」


私が満面の笑みで飛び跳ねると、レイヴン様はなぜか急に顔を真っ赤にしてフイとそっぽを向いてしまった。


お隣に立つ宰相のキース様が、「陛下、鼻血が出そうだからってエルサ様から目を逸らすのは失礼ですよ。あとエルサ様、この工房の予算、我が国の国家予算の数パーセントが動いています。決して『ささやかなプレゼント』だと思わないでくださいね」と胃を押さえながら溜息を吐いていた。


帝国で私がそんな過保護な毎日の第一歩を踏み出していた、ちょうどその頃。


私が笑顔で飛び出した元の国――プロスタニア王国は、文字通り『地獄』と化していた。


「おい……! これはどういうことだ! なぜ灯りが点かない! 王宮の防御結界が解除されたままだぞ!?」


薄暗い王宮の執務室で、エドワード王太子は狂ったように机を叩いていた。


あの日、エルサが夜会を去った直後から、王都のすべての魔導インフラが音を立てて停止したのだ。


蛇口をひねってもお湯はおろか水一滴出ず、街灯は消え、魔導馬車はただの鉄の塊に変わり、王宮のセキリュティは完全崩壊。国全体が、一瞬にして数百年前の暗黒時代へと逆戻りしてしまった。


「殿下! アルメイダ公爵家が管理していた中央魔導水晶ですが……中身の術式が綺麗さっぱり消去デリートされています! マスターキーがなければ、再起動すら不可能です!」


「なんだと!? 公爵、お前の家で新しい術式を組み直せ! 我が国には優秀な魔導師が山ほどいるだろう!」


エドワードに胸ぐらを掴まれたアルメイダ公爵は、真っ青な顔でガタガタと震えていた。


公爵邸も同様にすべてのインフラがストップし、好感度マイナス300だった公爵も、今やただの哀れな老人である。


「む、無理です、殿下……! あの魔導インフラのシステムは、すべて無能だと思っていたエルサが一人で構築し、維持していたものだったのです……! 我が国の第一宮廷魔導師たちが束になって解析しても、術式の基礎の一文字すら理解できないと……!」


「な……に……? あの、ただ胸が大きいだけの無能が、だと……?」


エドワードの脳裏に、あの日、パツパツのドレスを窮屈そうにしながら「お片付けしていきますね!」と満面の笑みで去っていったエルサの姿が蘇る。


あれは、ただのお片付けではない。

国そのものを機能停止させる、無自覚な一撃だったのだ。


「あ、あの、エドワード様ぁ……。暗くて寒くて、お肌が荒れちゃいますぅ……」


隣でバカな男爵令嬢が呑気に袖を引いてくるが、今のエドワードにはそれを撥ね退ける心の余裕すらなかった。


「エルサだ……! エルサを連れ戻せ! 今すぐあの女を引っ捕らえて、王宮の地下室にでも閉じ込めて、死ぬまで魔力を絞り出せ! 公爵、早くあの女の居場所を突き止めろ!」


「それが……!」


公爵は絶望に顔を歪め、ひっくり返った声で叫んだ。


「エルサは、国境の森で……ガルディニア帝国の、あの『冷徹皇帝』レイヴンに拾われ、そのまま帝国の最高賓客として連れ去られたとのことです……! すでに帝国の超強力な結界に守られており、我が国の力では、指一本触れることすら叶いません……!」


「ガルディニア、帝国……? あの大国がか……!?」


エドワードはガクガクと膝を震わせ、その場にドサリと崩れ落ちた。


自分たちがどれほど底知れない怪物を『無能』と蔑み、手放してしまったのか。


その代償が、国家の滅亡という形で自分たちに返ってこようとしていることに、彼らはようやく気づいたのだった。


もちろん、そんな彼らの悲鳴など、帝国で美味しいケーキを頬張っているエルサの耳に届くはずもなかった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!


次回は不定期に18時更新予定です。毎日更新出来るように頑張ります!お楽しみに!



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