【第17話:これが帝国の「みずぎ」ですか? 露出度高めの布地を前に、陛下が直立不動になりました】
ガタゴトと揺れる馬車の旅を終え、私たちは帝国南方にある最高級のリゾート地へと到着した。
目の前に広がるのは、息をのむほどに美しいエメラルドグリーンのプライベートビーチ。
「エルサ様。陛下との海辺の逢瀬を全力で楽しんでいただくため、私の方で帝国最新流行の高級衣類をご用意させました。どうか私の胃袋の平和のためにも、陛下を存分に骨抜きにしてきてください」
そう言ってキース様から渡された木箱を開けると、中には「みずぎ」と呼ばれる、驚くほど布地の面積が少ない不思議な衣服が入っていた。
「まあ、なんて開放的なお召し物かしら! これなら胸元がちっとも窮屈ではありませんわ!」
さっそくコテージで着替えて鏡を覗き込む。
ドレスのように胸を締め付ける生地がないのは素晴らしいのだが、代わりに布地が少なくて少し心もとなかった。
「エルサ、着替えは終わったか? 準備ができたなら共に海へ――っ!?」
コテージの扉を開けて入ってきたレイヴン様が、私の姿を見た瞬間、言葉を完全に失ってその場に直立不動の姿勢で凍りついた。
...ガタガタガタガタガタガタッ!!!
いつもはスマートな彼の長い手足が、まるで世界を滅ぼす大魔王と対峙した騎士のように、見たこともないほど激しく震え出している。
美しい銀髪の隙間から覗く耳の尖端どころか、首筋から顔面までが、一瞬にして熟しきったトマトのように真っ赤に染まっていった。
表情自体は、いつも通りの冷徹で美しい皇帝の鉄仮面。
しかし、彼の頭上のメーターは主の理性を完全に裏切って大暴走していた。
【好感度:∞(測定不能)】
黄金に輝く【∞】のマークが、エルサの水着姿への破壊的な独占欲と愛欲に反応し、これまでにないほど真っ赤に染まり上がっている。
外に向けては完璧な無言のレイヴンだが、その内心では、狂おしいほどの熱い激情が渦巻いていた。
((((((お、おい待てキース、いくら最新流行だからと言ってこんな破廉恥な布地をエルサに渡す奴があるか……ッ!? ドレスの締め付けから解放された姿が眩しすぎて、どこを見ればいいか分からん!! 尊い……っ、恥ずかしそうに身を縮める顔が可愛すぎて、俺の心臓が今にも破裂しそうだ。こんな煽情的な姿を他の男に見せるなど万死に値する、今すぐ俺だけのモノとして隠さねば理性のタガが完全に決壊する……っ!!!))))))
(まあ! レイヴン様ったら、口を一文字に結んで微動だにしませんけれど、メーターが燃え盛るように赤くなって荒ぶっていますわ! 南国の強烈な太陽の光のせいで、魔導の数値が熱暴走を起こしてしまわれたのかしら?)
「レイヴン様、ご心配なく! このお召し物、とっても軽くて動きやすいですよ。ほら、海へ参りましょう!」
私が満面の笑みで一歩近づき、砂浜を踏み締めようとした、その時だった。
「……っ、だめだ、外に出てはならん。今すぐ戻れ……っ」
レイヴン様は形の良い男らしい喉仏をごくりと激しく上下させ、絞り出すような掠れたテノール声を漏らした。
完璧な鉄仮面を保とうとしているが、その紫の瞳は熱っぽく潤み、強烈な色気を孕んで激しく泳いでいる。
圧倒的な愛おしさと独占欲に打ちのめされて頭がどうにかなりそうになっているのが、その限界寸前の佇まいから痛いほど伝わってきた。
「レイヴン様……?」
驚く間もなく、レイヴン様はスマートな動作で自身のシルクのサマーガウンをバサリと脱ぐと、私の身体を頭からすっぽりと包み込んだ。
影の隙間を埋めるように、そのまま逞しい両腕で私の身体を横抱き――いわゆるお姫様抱っこで強引に抱え上げたのだ。
「ひゃんっ、レイヴン様……っ!?」
「大人しくしていろ。……海などどうでもいい。お前をこのまま、コテージの寝室へ連れて行く」
声のトーンはどこまでも低く、皇帝としての気品に満ちている。
しかし、私を抱きしめる逞しい腕の力は、骨が軋むほどに強く、一生私をこの腕から逃がさないという凄まじい執着に満ちていた。
((((((柔らかい、ガウン越しでも伝わるお前の体温と甘い香りに完全に理性を狂わされそうだ……っ! 海などで遊ぶ暇はない。今すぐベッドの上でお前が降参だと言うまで何度も何度も激しく、とろけるほどに愛し尽くしてやる……っ!))))))
ガウン越しに密着したレイヴン様の身体は、まるで炎のように熱く、ハァ、ハァ、と荒い熱交じりの吐息が私の首筋に降り注ぐ。
頭上の【∞】は、さらに見たこともないほどの勢いで真っ赤な火花を爆発させていた。
(まあ、抱きしめる力がもの凄いですわ……。メーターも真っ赤なまま激しく点滅していますし、レイヴン様、私の日焼けをそんなに心配してくださるなんて。本当に過保護で愛おしい旦那様ですわ!)
言葉遣いはどこまでも冷徹でスマートなのに、態度とメーターが映し出す熱量が激しすぎる。
熱すぎる彼の体温と、肌に触れる逞しい腕の熱量に、なんだか私の胸の奥もトクトクと甘く激しく高鳴っていく。
私が真っ赤な顔で、彼の広い胸板に大人しくしがみつくと、レイヴン様は愛おしさと独占欲に耐えかねたように低く深く息を漏らし、私の額、そして少し開いた唇に、頭の芯まで痺れるような深くて濃厚なキスを落とした。
その頭上の【∞】のマークは幸福のあまりドカンと大爆発を起こし、南国のコテージの中を眩い黄金の光で満たし続けたのだった。
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