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【第14話:後宮の陰湿な嫌がらせ? 呪いの魔導具は最高級の暖房器具ですわ!】


新婚初夜の翌朝。


私は結局、お昼近くまでベッドから出してもらえなかった。


「帝国の朝のご挨拶は、本当に情熱的で長いですのね……」


まだ少し熱を持った唇を指で触りながら、私は自身の皇妃宮のサロンでお茶を淹れていた。


思い出すだけで、なんだか胸の奥がトクトクと甘く疼く。


そこへ、私の着任を聞きつけた大貴族の令嬢たち――かつて側室候補だったという方々から、お祝いの品が届いた。


「まあ、綺麗で大きな黒大理石の置物ですわ!」


届けられたのは、禍々しい紫色の光を放つ、いかにも怪しげな彫刻だった。


一目見ただけで、その裏に仕込まれた緻密でドス黒い魔導式が透けて見える。

触れた人間の生気を吸い取り、じわじわと衰弱させる悪質な呪いの魔導具だ。


「……なるほど、ここにエネルギーを溜め込んで、吸い取った生気を熱に変換する仕組みになっていますのね。でも、これだと効率が悪くて勿体ないですわ」


私はふふっと微笑み、パンパンと両手を叩いた。


ちょっとしたお掃除の時間だ。


彫刻にそっと触れ、生気を吸い取る不届きな術式だけを綺麗さっぱりデリートする。


代わりに、帝国の豊富な大気魔力を吸い込んで、足元からじわじわと心地よい熱を放出する術式へと、一瞬で書き換えてしまった。


「うん、とってもぽかぽかしますわ! 極上の床暖房の完成です!」


サロン全体の床が、心地よい温泉のように暖かくなる。


あまりの心地よさに私が満足していると、そこへ、いつものように書類の束を抱えたキース様がやってきた。


「失礼します、エルサ様。陛下からエルサ様の様子を見てくるようにと……って、何ですかこの、部屋全体を包む国家結界レベルの膨大な熱量は」


「あら、キース様。これ、元側室候補の方々からいただいた暖房器具なんですの。とってもあったかいですよ」


キース様は、私が指差した黒大理石の置物を凝視し、それから眼鏡をクイッと押し上げた。

信じられないほど疲れた顔をしている。


「……エルサ様。これ、隣国の大呪術師が作ったとされる、国家指定の一級危険呪物『常闇の呪詛石』ですよね? 触れた人間を廃人にする呪いの塊を、一瞬で超高効率の床暖房に改造するのは、さすがに魔導の常識への冒涜が過ぎます。私の胃に致命的な魔法ダメージが入りました」


キース様は懐から手慣れた動作で胃薬を取り出し、水なしでボリボリと噛み砕いた。


「それにしても、あの傲慢な大貴族どもめ。エルサ様に手を出したと知れば、陛下がどう動くか分かっていないようですね。本当に、元の国のバカどもに負けず劣らずの、救いようのない愚か者たちです」


キース様が手帳に何やら恐ろしいメモを取っていると、サロンの扉が勢いよく開いた。


「エルサ……っ! 無事か!?」


銀髪を少し乱し、美しい紫の瞳を鋭く尖らせたレイヴン様が、息を切らせて飛び込んできた。


冷徹な皇帝のポーカーフェイス。

唇をきゅっと引き結び、表向きは一言も喋っていない。


だが、彼の頭上に浮かぶ【好感度:∞】のメーターは、主の沈黙を無視して真っ赤に燃え上がり、パチパチと激しい火花を散らしている。


((((((あああっ、無事でよかった……! 本当に無事でよかった!! 呪いの石を送るなど我が妻に何たる不届きな真似を……っ! だが待て、危険呪物を一瞬で床暖房に変えるなんて、エルサはどれだけ規格外で尊いんだ!? ぽかぽか温まって満足そうに笑う顔が可愛すぎて心臓が止まる!! 怒りと愛おしさで頭がどうにかなりそうだし、こんなに可愛いお前を今すぐ誰の目にも触れない場所へ閉じ込めて、骨の髄まで愛し尽くさねば俺の理性が完全に大決壊してしまう……っ!!!))))))


(まあ! レイヴン様ったら、一言も喋らないけれど、メーターの光り方がもの凄い勢いで荒ぶっていますわ! 不穏な気配を察知して、心の中では私をよっぽど心配してくださっているのね。本当に愛おしい旦那様ですわ!)


「レイヴン様? どうされたのですか? 私はとっても元気ですよ? ほら、この通り床暖房のおかげでぽかぽかですわ」


私が満面の笑みで彼の背中に手を回すと、レイヴン様は形の良い喉仏をごくりと激しく上下させ、ハァ、ハァ、と熱い吐息を私の首筋に吹きかけた。


「……いや。エルサがそんなに優しく笑うから、俺の理性が完全に狂った。……これからは、俺の腕の中だけで生きてくれ。エルサのすべてを、俺が守り、愛し抜くと誓おう」


どこまでも低く、スマートで高貴なテノール声。

しかし、私を抱きしめる逞しい腕の力は、骨が軋むほどに強く、一生私を逃がさないという凄まじい執着に満ちていた。


((((((エルサの柔らかい体温と甘い香りが肌に伝わるたびに、俺の頭の中はもうお前をどうやって愛し抜くかで埋め尽くされているんだ! 一生この腕から離さん、今夜もベッドの上でエルサが降参だと言うまで、何度も何度も激しく、とろけるほどに愛し尽くしてやる……っ!))))))


耳元で甘く囁かれ、私の胸の奥がまたトクトクと激しく跳ねる。


後宮の嫌がらせをあっさりお片付けした私は、今夜もレイヴン様に骨まで溶かされそうな予感がするのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!



不定期に18時更新予定です。毎日更新出来るように頑張ります!お楽しみに!



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