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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<上> Shapeshifter 編

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097.魔王軍第一幹部

※予約操作中に間違えて削除してしまい再投稿です。

内容に変更はありません。申し訳ありません


 朝からアスティに抜かれたりテルシアと裏しかない会話をして送り出したり、フィーニャがダークエルフとかいう手間のかかる荷物を産んだり、やっと落ち着いた筈の第六階層が水浸しになったり、新しく仲間になった守護者のキャラが薄かったり濃かったり。

 これが本当に一日の出来事かよと思うくらいに色々あった日の夜。


 コアちゃんが六階層と七階層の環境変化を確認しつつ、四、五階層の罠や構造を俺が渡したアイデアメモを参考にアレコレ弄っている間に、俺は一度魔王城に戻って風呂を浴びていた。

 なんとなく今日はミエレやアスティと遊ぶ気ではなかったので一人でゆっくり入浴。

 そのあとは手は出さないが完全に自由にさせるのも良く無いからと理由をつけてミエレの風呂を覗いて暇つぶし。

 今日は想定外に忙しくてこいつの様子をきちんと観察していなかったから。

 目は淀み、虚な視線は定まらず。薬をキメさせた訳でもないのにまるで人形のよう。

 ラグネルの名が出ても、ラグネルが一度死んで生き返った話をしてもそう。こいつはてっきりラグネルと恋仲なのかと思っていたのだが処女だったし、よくわからない奴だ。

 言葉を失っているからこそ危険がないから生かしている。けれど、生かしていても使い道は性処理か搾乳機。普通、耐えられないだろうに。

 ときどき体を強張らせたり震えたりしているところは見かける。恐怖や不安を感じている。壊れてはいない。けれど、恐らく諦めてはいない。心を殺したのではなく閉ざしたやつの姿だ。


「なあミエレ、ラグネルとは親しかったのか? あいつってどんな奴なんだ? 貴族のくせになんで冒険者なんてやってやがる?」

「……」


 ぴくり、と少しだけ肌のは表面が強張ったように見えた。気のせいかもしれない程度。本当に気のせいかもしれないし、俺の猜疑心が見せた幻覚かもしれない。たったそれだけ。


「聞いても喋れないんじゃ答えられないよな。お前ってなんで生きてるんだ? 俺が殺してないからってだけじゃないよな。自分で死ねるチャンスはあっただろうし」


 前に一度だけうっかり風呂場に放置したことがある。風呂にはシャワーも付いているし、冒険者なら俺が適当に結んだ縄なんて解いていくらでもその首をぶら下げられただろうに、それはしない。


「俺がそっちの立場なら生きるのなんて諦めると思うけどなぁ。死ぬのってやっぱいざとなると怖いか?」

「……」


 返事はない。ミエレは黙々と体を清め終えて、タオル——といってもDP産ではないこちらの世界のゴワゴワタオルで体を拭う。


「ラグネルが今のお前の扱いを知ったらどう思うんだろうな。汚いとか思って興味なくすかな?」

「…………」


 少しだけ目が細められる。その狭く鋭い世界で俺を捉えている。


「でもあいつなら我慢しそうだよな。自分の女が犯されててもバカみたいにスパダリしそうだし。あ、スパダリなんて言ってもわかんないか。スパダリってのは——」

「飼い主さまー、グレイス様が戻られたのですよー」

「ん、無駄話はここまでだな。今日はお前には手を出さないから安心しろ。縛らせては貰うけどな。アスティー! ミエレを縛って牢に入れてくれ、コアルームに向かう」

「はいなのです!」


 ちょうど牢屋(客間)が空いたので風呂場ではなくてそっちに寝かせてやろう。観察の続きはまた今度。



 ミエレを閉じ込めてからコアルームへと向かう。コアルームは血だらけだった。グレイスが帰ってきて動き回ったせいだ。


「ぐるる!」

「もう〜! 噛んだらダメなのですぅ!」

「ガルゥ!」


 おお! ガーディアンが働いている!

 グレイスと取っ組み合いをしても力負けしないなんて頼もしいな。これで鬱陶しいのとはオサラバだ。


「いいのよアスティ、今はがじがじさせてあげなさい。グレイスは今日は一人で外で仕事をしてきたんだから。それに……いつまでも噛み癖を躾けられないのはシノミヤの責任よ」

「そうなのです?」

「そうなのよ」

「がじがじ」


 なんということでしょう。コアちゃんからの天の声によってアスティが俺を守るのをやめてしまった。命令系統の上位者はコアちゃんなのか! 裏切り者め!


「グレイスぅ。俺風呂もう入ったから汚さないでよぉ」

「がじがじ……キョウ、タクサンコロシタ、デモ、ニンゲン、イナイ」

「森の中だしなぁ」


 グレイスに与えた命令はダンジョン周辺の脅威の排除。主にオウルボアやハチドリ、あと雪斑豹だ。ニワトリとオオカミはいい。最早あんなものにダンジョンは負けないし、ニワトリは肉も卵も食える。狼の毛皮はモンスターズの服や寝床にと使い道もある。

 先にあげた三種は魔法を使う。ハチドリは正確には違うが魔法よりヤバい。こいつらが消えてくれれば森にゴブリンやコボルドを放して巣作りして貰うのもいい。繁殖は何もダンジョンの内側でやらなくとも、森のある外の土地もダンジョンの一部なんだから。


 それもあってグレイスに仕事を任せた訳だが、人間が喰らえなくてストレスらしい。


「シノミヤ、ウソツキ」

「なんだよ急に」

「マオージョー、クレル、イッタ」

「言ってない!?」

「イッタ!」


 こんなに言葉でしつこいのは珍しいパターンだ。もしかして俺本当にそんなこと言ったのか?

 記憶を辿ってみる。


 ——安心しろ、グレイスは魔王城の守護者第一号だ。お前もこれからは城住まいだぞ。


「言ってたわ」

「イッテル。がじがじ」


 すぐあとにミエレを拾ったりホブゴブリン夫人の友人が訪ねてきたりして、城に女が居たからグレイスのことをすっかり忘れていた。

 しかも、コアちゃんがガーディアンとか言い出す前に「守護者一号」とか言ってたわ。

 成程通りで、アスティに対してあんなに本気だった訳か。


「あーすまん。今ちょっと部屋が狭くなってるから広げたらでいい?」

「ニク、タベル、ダセ」

「あふんっ」


 耳を噛むのはやめろよ。新しい食感を追い求めるな。ASMRが恋しくなるだろ。


「コアちゃん、人間の死体って余ってる?」

「ぐちゃぐちゃのしか無いわよ」

「マジかー」


 フェルにやられた連中は挽肉になっちゃったからなぁ。


「しゃーない。ハンバーグでも作るか。おい、ミエレ——」と呼ぼうとしてミエレは城に置いてきたことに気づく。あいつ無口なせいで普段からいるかいないか分かりにくいせいで恥かいたじゃねーか。


「グルルゥ! ハンバーグ! ハンバーグ! シノミヤハンバーグ!」

「それだと俺が挽肉になるみたいだろうが」

「ソレデモイイ」

「次勝手に俺の肉食ったら一生人間食わせないからな」

「ハヤク」

「わかったわかった」


 ということで、急遽ハンバーグ作りが始まった。グレイスはオウムのようにハンバーグを連呼してるがお前意味知らないだろ。


「うわ、気色悪ぃしくっせ」


 コアちゃんがどさどさと出してくれたすり潰された人体の山。殆どが腸が破れているせいで酷い悪臭がする。人間って腹が破れただけでこんなに臭いんだなぁ。というかもっと綺麗なとこだけ出してくれたらいいのに。


「そんな面倒なことできないわよ。細かい収納なんてそもそも無理だし」

「そこまでご都合主義じゃないよなぁ」


 ダンジョン収納は部位ごとに分別するくらいはできるけれど、しまう前にごちゃ混ぜになってしまったものまで綺麗にはしてくれない。加工しようと思えばできるが、それにはDPを使う必要があるがそんなことに使うDPはないので、諦めてなるべく綺麗そうなところだけをナイフで削ぎ落としてから、集めて微塵切りにしたりナイフの腹で叩いたりしながら粗挽き肉を挽肉に変えていく。


「ああ、こら、まだ途中だからつまみ食いをするんじゃありません」

「ぐるる……コレ、ハンバーグ、チガウ?」

「違う。それはただの生肉」


 ハンバーグを舐めるな。ここにきてまさかのグルメチャンネルを始めた俺の気が乗ってきたところなんだから。


「ああ、でも肉を捏ねるのにボウルが欲しいな……」

「ボウルなら作るのは得意よ!」

「コアちゃんは黙っててね」


 コアちゃんに厳命する。アレだけは二度とつくるな。ストレスで俺が死ぬ。


「アスティ、卵」

「はいなのですー」

「タマゴ、イラナイ」

「好き嫌いするな。栄養あるから」


 あと繋ぎが無さすぎるんだよ。俺は肉百パーセントのハンバーグの固め方を知らない。

 そういう訳で、転がっていた頭から兜を取って火で炙って消毒したあとに水で冷ましたボウルで肉とニワトリの卵を捏ねる。空気を抜きつつ形を作ったらあとは焼くだけ……焼く必要なくね?


 グレイスはグールだ。生肉を食っても問題ない。なんか流れで調理を始めたが、別に衛生的に悪そうなところを削いだ時点で終わりで良かった気がする。

 衛生面が気になるのは俺の日本人的性分だからやりはしたけれど……いや、グレイスに噛まれて変な病気を貰いたくないからこれでいい。俺は正しい。


「よ。よーし。これを焼いたら完成だから待ってろよグレイス!」

「ぐるるぅ! シノミヤ、チョットスキ、イッパイキライ」

「トータルでマイナスじゃねーか」


 死人の胸当てをフライパン代わりにハンバーグを焼いていく。焼けば案外香ばしくそこまで悪くは感じないものだ。

 グレイス用だから塩さえ振ってないが、ちゃんと味付けしたら俺でも食えそう。絶対食わないけど。


「シノミヤ! ハンバーグ、オイシイ!」

「そりゃあ良かったよ」


 俺の業はこうして全部グレイスの腹に収まって。


「がじがじ」

「もっと作ってやるから変なところを噛むな」

「……? ホカノオンナ、ココ、タベテル」

「お前はしなくていいしお前はリアルに食いちぎるから怖いんだよ」


 前科持ちの癖に小首を傾げたところで可愛く見えると思うなよ。

 こうして業を飲み込み罪深い牙を突き立てるコイツのことを躾ける? できる訳がない。


 グレイスが俺に牙を剥かなくなるようなことはあってはならない。

 救いなんてもんを手に入れられる資格のある奴は、ラグネルのような奴だけだ。


「魔王軍第一幹部様のために頑張るとしますかね」

「ハヤク、ヤル」

「お前はこのあと風呂で丸洗いだからな」

「あら、ついにグレイスにも手を出すの?」

「コアちゃんは黙ってて」

「う、うぉw 二回目www」

「サ、サメちゃん様、今はアスティたちの出番ではないのです! 尊いものは遠くで眺めるのですよ! あ、おっぱい」

「うぉw スプラッシュwww」


 うるさいなぁ、お前ら!

 見せ物じゃないんだよ!!

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