095.超豪華!超美麗モンスター娘!!
第七階層。
無限の水流によって生み出された完全に水没したフロアに次々と人魚たちが召喚されていく。
その姿はまさに童話の中の人魚そのもの。上半身が人間の女性の姿で容姿端麗。さらに臍下からキラキラと光を反射する鱗に彩られた魚の尾が生えている。
俺もアスティもそのあまりの光景に口を開けて呆然としていた。
六階層と七階層を繋ぐ空中螺旋階段から山の頂に流れ落ちる滝。その上を泳ぐ人魚たちは、誰もが鬼の形相で水中なのにクロールをしていた。
理由は単純。床に空いた大穴に向かって流れる激流に飲まれて人魚たちは次々と六階層へと落ち、偽物の太陽の輝きをその体に反射させ美しい燐光を放ちながら岩山に叩きつけられて粒子となって散っていく。
人魚たちは生まれた瞬間に訪れた死の運命に抗うために水の中だというのに手を平泳の型ではなくクロールの型とドルフィンキックで足掻いているのである。こんな酷いことがあっていいのだろうか。
「コアちゃん、」
「みなまで言うな」
コアちゃんのボディカラーはさっきよりも真っ青になっていた。
「何その色」
「水難の相」
「言ってる場合か」
ふざけてごまかせるレベル超えてるだろ。
見ろよあの人魚たち。せっかくの美人が台無しの形相。渦巻く水流に飲まれる様は夏祭りの一週間後に飽きてトイレに捨てられた金魚のようだ。
「念の為に聞くけどあの人魚さんたちに使ったDPは?」
「一人、ゴーレム二体分ね」
「ゴーレムってゴブリン何体分?」
「三十匹ちょっと?」
「それが今何十人も打ち下ろし花火状態で鮮やかに散っていってる感想は?」
「儚いわね……」
「手ぇ出るぞ」
フレンドリーファイアでダンジョン過去最高のキルレシオ叩き出してんじゃねーよ。
また水回りだよ! いっちばん嫌いなんだから! 水回りのトラブル!
この世で一番嫌いなものはなんですか?
不便な水回りだよ!!
「蓋! 蓋しろ今すぐに!」
「蓋なんてしたらダンジョンのルール違反になっちゃうから無理よ!」
「じゃあどうするんだよ!」
「そんなに責めないでよ、今私だって驚いてるんだから! 頑張って考えてるの!」
「メス出してごまかすのやめてね」
こうしている間にも生き残っている人魚さんがどんどん減っていく。
何か、何かあの超激カワきゅんきゅんマーメイドたちを助ける方法は——
「——ボウル! コアちゃん、外に転がってるボウルで穴を塞ごう! 細かいところはあとで直すとして一旦!」
「ふ、ふーん。私ったらこのことを読んで巨大ボウルを用意していたのよ、ま、任せてちょーだい!」
「声震えてるが?」
「男は黙ってて!」
「でかい括りで批判するなよ! はよはよ!」
「もうっ! 黙っててって言ったのに!」
なんて駄々を捏ねつつもコアちゃんが無駄遣いして創ったボウルを穴の上に転移させて蓋をする。とはいってもたかがボウル。内側の水が排水されている間だけしか吸盤効果は発揮できないし、水漏れは完全には止まらない。
しかし、なんということでしょう! このボウル、フェルの尻尾に巻きつけるための鎖付きである。
「コアちゃん! 鎖を早く床とくっつけて! 抑えとかないと!」
「も、もも勿論そこまで読んでの鎖だからね! なんならおまけで何本か追加しちゃうわ!」
「なんでもいいからはよ!」
「せっかちな男!」
「男呼ばわり!?」
お前呼ばわりは経験あるけど男呼ばわりはさすがにない……さっきあったわ。
「ふぅ……なんとかなったわね。ちょうどいいことにボウルの縁の鎖用の穴は人間なら通れるくらいの広さはあるからルール違反にもならないでしょ。六階層の洪水もこれくらいなら問題ないわね」
「なんでそんなやり切った感じを出せるのかは俺にはわからなくて少し怖いよ」
「お水が止まって人魚さんたちもホッとしているのです」
いつの間にか堂々と「潔白」とでも言いたいのか白く光ってやがるバレーボールと暢気な牛。
その人魚さんたちの棲家が昔のトイレの貯水タンクみたいになってるんだけど?
内見で見かけたら苦笑いして「別の物件見せてくれます?」って半ギレで口に出すレベルだけど大丈夫そ?
「まあ、これで一件落着ね。あとは適当に水棲モンスターのお手頃なの呼んで、岩とかで構造を複雑にしてあげれば立派なアクアリウムの完成ね」
「そのアクアリウム今の所夢も希望も見当たらないけど大丈夫そ?」
「……はぁ、何言ってるのよ。ダンジョンに夢と希望なんてあるわけないじゃない。あるのは鬱と絶望よ」
「別の物件見せてください」
「何の話?」
「なんでもない」
ちょっと引っ越したくなっただけだから。
あと、アクアリウムとか言ってやるなよ。人魚たち何十人死んだと思ってんだ。
「じゃあ、七階層の目処も立ったところで次のガーディアンを呼んじゃいましょーか!」
「え、こんなハイペースで行くの? アスティとシスター増やしたばっかりだよ?」
あとバカデカい鎖で無駄遣いしたばかり。
「ハイペースも何も、七階層を水没させたのはそもそもシノミヤのための超激カワきゅんきゅんマーメイドのガーディアンを呼ぶためじゃない」
「え!? 超激カワきゅんきゅんマーメイドって、あの人魚たちのことじゃなかったの!? 俺専用のマーメイドもいるの!?」
そんなの話が違うじゃないですかコアパイセン、そういうことならあんなに不満言わなかったのにもう、サプライズだなんていつ覚えたのかしら。
「新しい守護者の仲間が増えるのは楽しみなのです!」
「アスティにとってはシスターに続いての同期みたいなものだもんな」
「そうなのです! シスターさんは仲良くなる前にお仕事に行ってしまったので今度の子とは早く仲良くなりたいのです!」
会話ができるモンスターにもなると"仲良く"なんてコミュニケーションを求めるようにもなるのか。
いや、ゴブリンやコボルド、スライムの初期組もなんだかんだ一緒に作業したり踊ったり楽しそうだったな。
スケルトンとは一緒に木を切ったし、オークとは……思い出がないな。ミュージカルでフゴフゴ言ってる印象しかない。
改めて今度みんなでまた遊ぶのも良いかもしれないな。最近仕事の疲れで精神が性欲に支配されてたし。
面倒を見てやるつもりはないけど、一緒に遊ぶくらいはいいな。よし、今回の北部侵攻の準備が終わったら少し遊ぼう。
俺がそんな決意をしている間にコアちゃんがアスティやシスターを呼んだときと同じ詠唱を終えていた。
「——召喚! 切波乙女!」
そして例のごとく、黒い靄が現れて徐々にそれが人形に近づいていく。黒のシルエットにはしっかりと魚の尾鰭が見えるが足がある。陸上対応型かな?
——そして黒い靄が消えて遂に俺の三人目の守護者が姿を現した。
まず全体像。とても小柄。身長は一三◯から一四◯センチの間くらい。髪は肩に掛からない程度の長さで、全体的には水色で濃い青のインナーカラーが入っている。体格通りに顔も小さく、ぱっちり開いたブルーの瞳がより大きく見える。小さな口からちらりと覗く鋭い鮫の歯。腰のほうからゆらりと下に垂れている尾はアスティやシスターとは違ってしっかり太め。尾の先は三日月のように二又に分かれて刃のように鋭い鰭になっている。質感からして本物の鮫の尻尾で間違いない。
そして、手には身長とあまり変わらない三叉の矛を握り、薄いどころか一切の膨らみのない胸を張って堂々と立っている。
人魚というよりは獣人に近いその姿。何故俺が鮫だと認識したのか。それは——
「その頭に被ってる水族館のお土産みたいな鮫の頭型の帽子はなに?」
——明らかにふわふわ素材で「私サメです」みたいな偽物のシャークヘッドを被っていたからだ。
「う、うおw いきなり帽子扱いw」
多分サメのテイルメイドとかいうマーメイド亜種のガーディアンは、顔だけはいい冷笑系のクソロリだった。




