093.Demon Lady Marquis
まずは六階層の様子を見てみようということでコアちゃんに映写機モードでスクリーンに映像を映して貰った。
気のせいかスクリーンの手前が十センチくらい盛り上がって長方形のステージ風になっている気がする。どうでもいいか。
「崩落はだいぶおさまったみたいね。多少の落石はあるけれど、これはこれで有りじゃない?」
「確かにそうだね。この階層は侵入者にとってのリターン大きめだけれど、リスクもそれなりに背負って貰わないと取られるだけじゃ困るからね」
鉄鉱石くらいならいくら持ち帰られてもそんなに困りはしないけれど、上を目指す連中は止めていかないとまずい階層だ。
そうそう、それで思い出した。ラグネルとテルシアを放り込んだトラップルームのこと。実はあれは単に床に重量感知システムを導入しているだけだったりする。
トラップルームに入り込むと、中の重量を感知して一定の重量を残していかないと最後の一人は出られなくなる。
例えば、荷物なしの人間が二人ならどちらか一人を残して行かないと出られない。
荷物ありの人間が二人なら荷物を降ろしていけば人間は出られる。
荷物なしで一人の場合は出ようとしても部屋の中に戻される。救出が来るのを待つしかない。残していく重量は五十キログラム以上なければならない。本来は冒険者から装備やアイテムを奪うための罠だが、ラグネルに対しては「ひとり減らなければ出られない部屋」とでまかせで勘違いさせた訳だ。
この罠は本来、上の階層に進もうとする人間の攻略アイテムを没収するためのものであり、逆に言えば上の階層で手に入れた素材を回収する罠でもある。トラップルームに運悪く入ると生きるために資産を置いていくことになる。
ダンジョンの根底は与えることではなく奪うことだからね。
余談終了。
「それじゃあゴーレムたちを召喚していこうか。フロアが広くなってるからかなりの数が欲しいね。あとは、飛べるモンスターとか地中で活動できるのがいいかな?」
ゴーレムは鉱石に擬態して採掘しにきた侵入者を倒す用。こいつらは素材的には初期から作れはしたんだけどデカいから狭い洞穴型のときは呼ばなかったんだよね。コストもオークと大して変わらない。
「飛べたり地中でもってなると……イビルアイとかより虫系の方がいいかしら? どうせ採掘するなら人間は穴を掘るでしょう?」
「確かに。でも俺虫苦手なんだよね。あんまりグロいと見てるのも無理になっちゃうからせめて蟻とか蜘蛛とか蝶々系がいいな」
「それなら、鋼蟻と大毒蜘蛛、あとは妖精とか? あ、マンティコアなんてのもいるわね。ちょっと高いけど」
「鋼蟻と大毒蜘蛛はなんかイメージし易いけど、蝶々がフェアリーになるの? フェアリーって虫?」
なんだったらマンティコアは蠍扱いでいいのかあれ?
「蝶々のモンスターなんて種類が全然ないし、どれも鱗粉で軽い状態異常を起こす感じよ? フェアリーは魔法も使えるしいいかなって」
「ふーん。値段は?」
「ゴーレムよりは高いわね」
「うーん」
これからまだ四つも未完成の階層がある。九階層なんてもはやヤリ部屋みたいになってるしさっさとどうにかしたい。
追加モンスターは一旦保留かな。階層を作り終えたらバランスを見て増やしていこう。
「とりあえずゴーレムだけで。代わりに百体いっとこう」
「鉄鉱石に擬態するんだから石と鉄の混ざり物でいいのよね?」
「多分?」
「はーい! それじゃーいくよー! わん、つー、すりー! サモン! アイアーンゴーレームッ!」
もはやテンションだけで呼び出されたアイアンゴーレムたちが大六階層の山に散らばっていく。
手足を隠して丸まっているとただの岩と見分けがつかないが、立ち上がれば二メートル強の体躯に硬い体。戦闘力はあとでオークにでも相手をさせて確かめよう。
「ということで、何体かオークをゴーレムのところに送っておいて」
「はーい。次はこのまま七階層いっちゃう? それとも新しい守護者を呼んでおく?」
「守護者だね。アスティ級があと二体は欲しい。ここはDPの妥協が出来ない」
ラグネルの釣りだしに成功したとして、足止め役が必要だからね。偽ラグネルのときのような訳のわからない剣の分裂なんてやられたらたまったもんじゃないが……なんとなく、あれはあの女だからやれたことのようにも思う。
それでも備えるけどね。
「それじゃあ、ちょっと集中するから待ってね」
「あ、やっぱり特別個体って召喚するのに詠唱がいるんだ?」
「カタログの番号間違えないように注意が必要なのよ」
「……」
コアちゃんがいかにも深刻そうに言うものだから口にしてツッコミができなかったが、カタログ番号ってなんだ。ツリー形式でさらにカタログまであるのかダンジョン。姫日記とかあるのかな?
「愛しの我が子、永遠の執着。深淵の揺籠から目醒めよ。我が愛の守護者よ、出よ——召喚! 悪魔侯爵令嬢!」
アスティの時と同様に黒い靄の中から現れたのは——色味の違う二種類のピンクヘア、やや釣り目で勝ち気な気品のある目。頭からはちょこんと小さな角が左右に一本ずつ。布面積の狭い服の下にはアスティには劣るものの、日焼けした健康的で極上のボディライン。そして細く伸びた尻尾はくるんと一周し、先端はハート型。まるでサキュバス。
「フン! なぁにーここ? 冴えない部屋ね。悪魔侯爵令嬢であるアタシに相応しいダンジョンなのかしら?」
そして上から目線でギャル寄り。まさしく俺が求めていた悪魔っ娘。
「なんだかなぁ……アスティのおっぱい見た後だとこんなもんかぁ」
求めていたときは本当に心の底から会いたかったのだが……いまさら普通の巨乳はインパクトが薄い。やはり供給というのは需要があるうちでなければ買い叩かれるものなのだろう。
「ハァ!? そっちが呼んどいて何様のつもり? つーかアンタ人間じゃない。黙っ——」
「——黙りなさい。それ以上その無駄口を開くのなら塵になるまで燃やすわよ。あなたが何度リスポーンしようと、その度に燃やし尽くすわ」
俺が呑気にしていたせいで悪魔っ娘が怒って、コアちゃんに怒られてた。しかもコアちゃんったら見たこともないブチ切れようでちょっと湯気出てる。これはあれか、反逆と捉えられたのかな。
「ダ、ダンジョンコアがそういうなら……でも、この男はなんなのよ、そんなに怖いこと言わないでよぉ」
涙目になってらっしゃる。勝ち気なのにさらに上からガッと来られたら怯えちゃうタイプだ。これは多分可哀想になればなるほど輝くタイプだ。
「まぁまぁ、コアちゃん。俺がダンジョンマスターらしい見た目じゃないのも悪かったしさ、次からはちゃんと鎧着てくるようにするから許してあげてよ」
ベッドでごろ寝してから来たから普段着なんだよね。これからはちゃんと上司らしく装備は普段から身につけることにしよう。
「悪魔の貴族のくせに魔王を見分けられないなんてしょーもないハズレ個体だったわ。ごめんね? シノミヤ」
「うっ……ハズレ個体……アタシ、侯爵令嬢なのに……」
「いいよいいよ、どうせその子には悪魔としてではなくて修道女になって貰うつもりだったしね。頼んでおいた衣装出せる?」
「ふぇ? 修道女……?」
「あー、アレね。あるある。ちょっと待ってね」
泣きながら嗚咽を漏らしている悪魔の侯爵令嬢さんを放置して俺とコアちゃんで話を進める。
コアちゃんが用意してくれていた修道服(俺の妄想が参考資料なので正しい修道服かは知らない)が悪魔っ娘に渡される。
「はやくそれに着替えなさいシスター」
「ぇ? ぁ、ぇ、シスターって私ですか?」
「それ以外に誰がいるのよ、魔王命令よ、早くしなさい」
「うぅ……ぐすっ……わたし悪魔なのにぃ……」
悪魔っ娘の呼び方が既にコアちゃんの中でシスターに決定していた。なんと不憫な。
シスターもう一人称さえ定まらなくなってきてるじゃん。悔しそうで興奮する。
尚、お着替えは目の前でしているので全部見えた。肌は焼けているけど隠れていた部分の色は鮮やかだった。
「着替えましたぁ」
「なかなか似合ってるじゃない。シノミヤもそう思うでしょ?」
「うんうん。あとはあれだね、雰囲気作りのために定期的に祈りでも捧げてて貰おうかな。シチュエーションを大事にするタイプだからさ」
すると、それを聞いてシスターが俺の方を見て目を潤ませながら上目遣いで艶のある唇を開いた。
「い、祈るって誰にでしょうか?」
「……この世界、神とかいなさそうだし、雰囲気で」
「……」
「……」
「ふっざけんじゃないわよぉ! 悪魔の侯爵令嬢にこんなカッコさせておいて! 大嫌いな神に祈らされるのかと思ったら神がいない!? それじゃあアタシまるでバカみたいじゃないのよ!」
至極正論である。
そして俺は正論に興味がない。
「欲しいときにいないのが悪い」
「なんですっ————てええええぇぇぇぇ!?」
ステージの上に召喚されていたシスターが俺に掴み掛かろうとしたら、床がパカっと開いて落とし穴に落ちていった。
……なんで?
「なんとなく面白そうだから作っておいたんだけど役に立ったわね……ふふ」
コアちゃんが満足げに笑う。
「あれ大丈夫そ? 垂直落下してたけど」
悪魔だから翼とか実は生やせるのかもしれないけど、落ち方的に翼生えても役に立つか?
「大丈夫よ、落ちても九階層までだから。死ぬことはないわ」
「ふぅん」
ここが十一階層だから二つ下か。じゃあ大丈夫……って九階層ってヤリ部屋じゃねーか!
「シスターアアアアァァァァ」
今のモンスターたちは性欲を持て余してるからやばい! それ俺のだから! 穢される前に帰って来てよシスター!!




