092.Stack 'em up!
テルシアとアスティが居なくなってからミエレの様子を見ていたが変わらない。ラグネルの名に反応するかと思ったが……喋れないしな。
テルシアを送り届けたアスティはすぐに戻ってきた。グレイスを森に放してあったので余計な面倒を避けられてなにより。
アスティが戻った後、しばらくベッドに横になって頭の整理をするのに時間を費やした。内容として不愉快なものだったが、反面知らなかったことをたくさん知ることができた。
まさかこんなしょっぱいダンジョン相手に五万人規模の戦争を吹っかけようとしているとは思わなかったが……それはいい。
正直に言えば、戦争になれば今のままなら勝てる保証はないが……今の我がダンジョンは強くなるための改築中。さっさと改築を済ませて新しいモンスターたちを呼べばいい。
支配領域が広がったことで、爪跡のダンジョンは森と山を支配している。森と山には人は住んでいないが凶暴な生物たちが日々命の喰らい合いをして勝手にDPを送り込んできてくれている。ニワトリなんかもはや巣に落ちてる卵が取り放題のボーナスキャラみたいになってる。
ニワトリ程度のDPでは雑魚モンスターしか呼べないが、雪斑豹やオウルボアのDPは美味い。こいつらだけで既存モンスターを増やす分には困らない。
困らないが、五万人相手にはまだ足りない。
「鍵は間違いなくフェルの運用だな」
フェルはラグネルに既に殺されている。ユニークと付いているがダンジョンのモンスターなのだから復活はするはずだが、まだ戻ってきていない。
フェルの本領は巨体で走り回るだけで人間をすり潰せること。そして腐敗毒があればあいつは一体で一騎当千だろう——ラグネルに当たらなければ。
「ラグネルに当てられる戦力が必要だ。グレイスとアスティだけじゃ足りない。あと数人、ガーディアン級の戦力が欲しい」
あとは正直、モンスターをどれだけ増やして効率的にキルレシオを稼ぐかの問題。少しゲーム脳過ぎるかな? でも何故か不思議なことにそれほど難しいこととも思えない。
だって、先にたくさん殺せばDPを回収できる。うまくいけば五万人分のDPだ。ビビってないで攻めるべき。自転車操業の腕の見せ所。
「あとは民間人が徴兵される前にこの辺りの村人を始末するか回収したい。同時にダンジョンを改築し、ラグネル対策をする。ラグネルさえ釣り出せれば勝ち目はある。うん。これだな」
ラグネルを釣るためのいい餌を運がいいことに俺は持っているのだから。
あとは公爵だの黒の手配書だの知らないが……乗るにせよ降りるにせよ、タダでは終わらせない。舐めたことしてくれたツケは払わせる。
そうと決まればのんびりするのはここまで。
コアルームに降りてコアちゃんと作戦会議だ。アスティと搾乳機を連れてコアルームへと向かう。
「あ、シノミヤ! ちょうどいいところに!」
「ん? 何か用事があった?」
コアルームに降りてすぐにコアちゃんから嬉しそうに出迎えられる。
「エルフが出産したんだけどね、母乳がなくて困ってたのよ」
「なんだそんなことか。ちょうど搾りたてがあるよ。おいミエレ」
ミエレが重たそうに鍋を抱えてコアちゃんの前にやってくる。
それにしてもフィーニャはやっと出産したのか。モンスターの子供は生まれるのが早いって聞いてたけどゴブリンのときより時間が掛かったな。
「……」
「これだけ有れば足りるでしょ? というかフィーニャから母乳出なかったの?」
喋れないミエレの代わりに鍋を指差しながら気になったことを尋ねてみる。
「出たわよ。ちょっとだけ。でも胸が小さいとあんまり出ないみたいね」
「成程なぁ」
「せっかくダークエルフが生まれたんだもの、ちゃんと栄養のあるものを食べさせてあげたいでしょ?」
「ダークエルフ?」
フィーニャはエルフで種はオークのどれかだろ? それでなんでダークエルフが生まれるんだ? オークが生まれるんじゃないの?
「オークもエルフも妖精種なんだから掛け合わせたらダークエルフが生まれることもあるわよ」
「そう言われるとそうなのか? ちなみにダークエルフっていうのは強いの?」
「めっちゃ強いわよ。育てばフィーニャよりも強くなるかもしれないわね」
「おお! それはすごいな! じゃあ早く大人になって貰わないとな!」
「それは無理よ。ダークエルフの成長速度はエルフと同じだもの。戦闘適齢期までは早くとも十年は掛かるわ」
「そっかぁ……いや、それ繁殖させる意味なくね? おい、はやくオークからフィーニャ取り上げろ! 二度と孕ませさせるな!」
いくら強い個体が生まれても十年は長いわ! そんなもん人間よりちょっとマシレベルじゃねーか。ゲームと違って「じゃあ十年スキップするか」とはならないんだぞ!
「そんなことしたら暴動が起こるわよ。ただでさえオークの数を増やしたのに女が一人だけなのよ? ゴブリンもそうだけれど。シノミヤばかり女を増やして、モンスターからは女を取り上げるなんてみっともないわ」
正論ご尤も。だけど正論はダメだって。俺がこの世で最も嫌いな言葉のトップスリーのひとつだよ。
「別にフィーニャを取り上げるのはそういう理由じゃなくて、オークが増えないならフィーニャで繁殖させるのは勿体無いじゃん」
「なら殺す? そんなにDPに悩んでる訳でもないけど……滞在ポイントも結構なものになったでしょうし、DPはいくらあってもいいものね。赤ちゃんのママが居なくなるけれど」
最後の一言口に出す必要あったか?
「いい、いい! わかった。フィーニャは殺さない。どっちみち赤ん坊のダークエルフを育てるやつは必要なんだ。でも畑にするなら別の奴に……」
「じゃあそこの沈黙の魔法使いにやらせましょうよ。もう要らないでしょう? そのゴミ」
「……これは使い道があるんだよ」
「本当?」
「本当だって」
「本当に?」
「疑うなら俺の頭の中を覗けばいいだろ」
「そんなことできる訳ないじゃない」
本当かよ。いつも覗かれてる気がするけどな。それとも違う意味とでも言うつもりか?
だけど悪いが今回ミエレには本当に使い道がある。
「ま、そこまで言うなら仕方がないけれど……オークを納得させたいのなら代わりを用意してあげないと。ゴブリンにもね」
「わかってるよ。フェルが戻ったら遠征……いや、本格的な北部侵攻を開始する。人間集めの始まりだ」
「まぁ素敵! ダンジョンなのに本格的に撃って出るのね! シノミヤったらいつの間にそんなに立派な混沌に染まったの? 大好き!」
想定とは違う流れになりそうだが、なんとか軌道修正。北部侵攻は俺の中の決定事項だ。
「じゃあ、ちょっとその大好きな男の提案を聞いてくれる?」
「オッケー! あ、でも先にミルク送っちゃうわね!」
そうして、ミルクを九階層に送り届けたコアちゃんにテルシアと話した内容と、今後こちらがどう動くつもりかを説明した。
第一に今すぐに動くのは、止まっていた第六階層の完成と新しいガーディアンだ。




