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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<上> Shapeshifter 編

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090.赤ちゃんにもわかるアルヴァリア王国


 赤ちゃんにもわかるように順を追って説明を頼んだところ、テルシアは笑みを浮かべてまずはここら一帯の土地について教えてくれた。


「まず、アルヴァリア王国というのはこのダンジョンが存在する国のことですわ。このダンジョンはアルヴァリア王国北部のフレイズ伯爵家が治めるフレイズ領です。そのフレイズ領のさらに北方がミストフォークと呼ばれる地方。そして、このダンジョンはミストフォークの北東に位置する昏き霧の森(テネブラエ)の中に存在しています。ここまででご存じのことはありますか?」

「まったくないね。何せ俺はこの森の外には殆ど出たことがないからね。つまり、テルシアが居た冒険者ギルドってのはそのミストフォークってところにあるのか?」


 これは嘘。過去にイアンや他の冒険者からある程度の情報は聞き出している。整合性チェックというやつだ。

 

「正確にはミストフォーク地方の中心地、開拓のための拠点として作られたヒナトという人口三万人程の街ですね。もう滅びてしまいましたけど」

 

 なるほど、今までぼんやりと村とか街があるんだろうなぁと思っていたけどそれなりの規模の街が存在したようだ。

 人口三万人だと北関東とか東北のほうの市とかと同じレベルじゃないだろうか。それが一つの街に暮らしてると考えると、かなり大きな街なんだろう。


「それが……滅んだ? なんで?」

「サリエルクの群に襲われたのです。数千どころか万を超えて山々から集ったサリエルクはひとつの巨大な黒の牡鹿となり、街を破壊し尽くしました。巨大なモンスターに飲み込まれ人が死んでいく様はまさに"凄惨"としか言いようのない地獄でした」


 サリエルク——俺が四つ目鹿と呼んでた連中。ネクロフェルワイアムに森を追い出されていったあいつらのことはすっかり忘れていた。

 なにせボス個体である白い雄鹿は倒したのだから。生き残りがそんな騒動を起こしていたとは……え、あいつらまだ活動してんのやばくない? と思ったがそれはどうにかなったらしい。どうにかなるのかよ、人間怖えよ。


「その"凄惨の獣"の犠牲者は正確には分かりませんが三万以上とされています。理由は、生き残りが冒険者を含めて五十名にも満たなかったからですね」

「……まさか街だけじゃなくて三万の住民が死んだ?」

「はい。まさにその通りです」


 おいおい冗談だろ。これからダンジョンを改築して人間を呼び込もうとしていたのに……一番近くの街が滅んだ?

 じゃあうちのダンジョン改築してる意味ないじゃないか。立てるだけ立てて客の入らないテーマパークに待っているのは破産だけだよ。

 なんならもうダンジョン六階層なんか山ごとぶち込む大盤振る舞いで素材もDPも投資してしまっているのだから笑えない。


「あれ? じゃあラグネルはどっから来たんだ? テルシアを街に届けるとか言っていたよな?」

「私は襲撃の途中で街から抜け出したので、その後どういう経緯であのアルヴァリア人貴族がダンジョンに来たのかはわかりません。街がヒナトのことならば……間違いなく人が住める環境ではありませんし、もしかしたら領都フレイズのことかもしれませんね」

「その領都フレイズってのは?」

「北部で一番大きな街で、ヒナトの南にあります。ダンジョンからだと少し距離はありますけれど」


 領都フレイズか。貴族……伯爵家が治める北部最大都市。なら、そこから人を呼び込めれば収入のアテになるか?


「近隣の土地に関しては宜しいですか? それを踏まえた上で本題に入らせて頂こうかと思いますが」

「ああ、そうだった。王だの王の目だの公爵だの秘密組織だのまだまだあるんだったな」


 つい、今後の経営方針の方に向かってしまっていた思考を切り替える。


「まず、アルヴァリア王国はダンジョンを欲しています」

「欲しいもなにもここアルヴァリア王国なんでしょ?」


 こっちは何も知らずに産まれて居座ってるだけの余所者である。


「えーと……ご主人様。まずは簡単に人間の歴史についてお話した方が早いかもしれません」


 そうしてテルシアが語ったのは、今よりも遥か大昔からのダンジョンと人間の関係についてだった。


 まず、この世界にはダンジョンというものは理由は不明だがそこそこの頻度で誕生するらしい。

 ダンジョンができるとモンスターが生まれる。モンスターが生まれると人間を襲う。


 なので人間とダンジョンは長い間お互いを滅ぼし合うために戦っていたらしい。

 劣勢だったのは人間側。これは俺視点の意見だが……人間が死ねば死ぬだけダンジョンは成長するのだから当たり前の流れに思う。


 しかし、そこに現れたのが"天陽の一族"という不思議な力を持った救世主たち。

 天陽の一族は人々を率いてダンジョン狩りを始めたらしい。しかも世界中で。

 で、恐ろしいことにそれは数万年前の出来事らしい。

 天陽の一族については遺跡に記録が残されているのだという。


 天陽の一族は長い戦いのあと、バラバラに散り、どの様に世を去ったのかは不明。しかし、天陽の一族は消える前に人間に"ダンジョンは必ず滅ぼさなければならない敵"と言い残したらしく、その後ぽつぽつと救世主たちのような力を天から授かる人間が現れ出した。それが魔王殺しの力。人間の天賦と呼ばれる才能や能力らしい。


 まあ、そういう流れで人間とダンジョンは何万年も飽きることなく殺し合いをしてきたのだが……人間側は疲弊した。戦いばかりで人が死に子供が増えない。

 戦うための資源も枯渇していく。そんな状態だからいくつもの国や民族が滅ぶのは当たり前でもあった。

 それでも生き残った人間たちは新たな王に導かれ集い戦い続けた。アルヴァリア王国も建国から数百年程度だがそれなりに長生きしている国らしい。


 しかし、数十年前に世界が一変する。

 それまでは互いに殺し合い続けてきた人間とダンジョンだったのだが、ひとつのダンジョンがコアを破壊されずに人間の支配下に降ったのだ。

 それから人間はダンジョンから希少な資源や強化された産出品を集め、他国には存在しない武装やマジックアイテムを手に入れた。


 そして今度は人間同士がダンジョンを奪い合い、その資源で世界の覇を争う様になってきたというのがここ数十年のトレンドらしい。


「……という訳で、世界中の国がダンジョンの資源を求めているのです。アルヴァリア王国にも実はもう一つダンジョンはあるのですが……そちらは地下五十階層以上あるダンジョンで、攻略はされたことがなく、魔王の姿さえ誰も知りません」

「そこに、生まれたてで碌な戦力もなくゴブリンと遊んでるバカなダンジョンが産まれた訳か」


 そりゃ確かにダンジョンが欲しいなら美味いものに見えるわな。騎士たちが何故あんな命懸けでダンジョンのために戦ったのかも、今になって漸く理由を理解する。

 でも弱いダンジョンって財産も無いんだよね。結局みんな犬死に。お疲れ様した。


「まあとりあえず王国がしたいことはわかった。それで、王やら公爵やらとテルシアの組織はどう繋がる?」


 思ったより前提知識が必要で寄り道してしまったがここが本題。


「王陛下の意思は単純です。アルヴァリア王国よりも先にダンジョンを手に入れた西の隣国に負けぬようにダンジョン資源が欲しい。そのために王命で動いているのがヴァルメルト公爵閣下です」

「それでテルシアはその手下の組織内の一員、と」

「ええ、普段は変装してあちこちに潜入しています」


 ボンテージ風の服装から似合いそうだなと思っていたら、本物のスパイだった。


「じゃあ、テルシアは俺のダンジョンの情報を集めてなんとか公爵に報告したら、ダンジョンを裏切る予定だったのか」

「その反対にございます」

「反対?」


 また妖艶な笑みを浮かべるテルシアの胸の内が読めずにどきりとする。


「我が雇い主、ヴァルメルト公爵閣下と手を結びませんか? ご主人様——ダンジョンマスター様が欲しいものは用意できるものならば全て差し上げます。その代わりに、ダンジョンの産出品を定期的にヴァルメルト公爵家、及び王家に融通していただきたいのです」


 テルシアからの提案はまさかの業務提携。信用できるかどうかは置いておいて、人間の物資が楽に手にはいるというのは悪い話ではない。

 とはいえダンジョンが何かを創り出すにはDP(命と魂)という代償がある。

 そして恐らく、こんなことを言ってくるということは、アルヴァリア王国もテルシアもダンジョンマスターとの接触は初めてで、そのことを知らないのだと思う。欲しければ国民の命を寄越せと言って「わかりましたどうぞ」なんてあり得ないだろう。

 悪い話ではない。ないが、この商談が成立することもないだろう。


「話はわかった。それじゃあ、これからは赤ちゃんにはわからない大人の話し合いといこうか」


 テルシアには悪いが叶うはずのない話なら、あとはどうにか騙くらかしてテルシアを殺してDPを回収させてもらうとしよう。

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