087.アスティ
ミノタウロス——正確にはメスなのでタウロスではなく、ミノタウロス系統のアステリノスというモンスターらしいということから、名前はアスティとした。
その後、コアちゃんがアスティの力を見てみようというので皆んなで空っぽの九階層に転移して今である。
「転移なら寝たきりの人を連れ回してもいいというのは間違っていると思うんだ」
「シノミヤの守護者なんだから実力は見ておいたほうがいいでしょ」
「飼い主様に認めてもらえるように頑張るのですっ!」
「ぐるる」
アスティが腕の前でガッツポーズをするとバカビキニから乳輪が溢れる。もはやラッキースケベではなく当たり前スケベだ。再現性のあるエロに滾るのは高校生までだ。
グレイスに至っては腹が減ってそう。運動したあと餌あげてなかったからなぁ。
「コアちゃん、俺動けないからさ、アスティに装備を用意してやってくれない? あとあのバカビキニも着替えさせておいて」
「それはいいけど、それでいいの? 好きなんでしょ? おっぱい」
「TPOを弁えないおっぱいは好きじゃない」
「気難しいのね」
俺今回まともなこと言ってるはずなのに、なんか俺がわがまま言ってるみたいなのやめてね?
「じゃーアスティ、今から適当に武器を出すからどれがいいか選びなさい。あと、服もね」
「はい! 母さま! 武器は斧が良いのですよ! できるだけ大きくて頑丈で重いものが良いのです! あと、服を着ると乳で濡れてしまうのでこのままで良いのですっ!」
「母乳……だと?」
「らしいけど、どうするの? エロミヤ」
「エロミヤ的には興味はあるがそれならせめて白の大きめのシャツを着せて欲しい。彼シャツというやつだ」
「彼シャツ? なになに……ああ、素材も製法も大したことなさそうね。じゃあはい」
「うっ……着なくちゃダメなのですぅ?」
「ダメなのです」
ということで、アスティには牛柄ビキニの上から白シャツを着てもらった。下は履かせてないけどまあいいだろう。長めのシャツの裾から覗くくらいは悪くない。
「それから武器だけど、さっき出したものより大きいのは在庫がないから、一旦私がテキトーに作るわね」
コアちゃんがしばらく「うむむ」と唸ったあとにポンと黒いハルバードが出現した。斧の刃の方がだいぶ広くて先端の矛はおまけって感じの無骨なハルバード。なんとなく材質は魔王城の壁のものと同じに見える。トラップルームの時といい、手に入れた山で手に入りやすい鉱物なんだろうか?
「それじゃあ、グレイス。あんたが相手をしなさい」
「ぐるぅ?」
「ダメよ、あなた最近結果を出してないじゃない。ほら、気に入らないなら勝ってきなさい」
「ガルァ」
「ふふん! グレイス様もやる気のようなのです! 飼い主様! 母さま! 戦士としてのアスティを見ていて欲しいのです!!」
「はいはいがんばってー」
「頑張るのよー」
結果が出てないなんてあまりにも強い言葉で煽られたグレイスと俺とコアちゃんに良いところを見せたいアスティの闘いが始まる……ので、俺たちは壁際に退避。
「ふんっ! アスティは最初から全力で行かせて貰うのですよ! 何処からでもかかってくるのです!」
「……ぐる……グァルルッ!!」
「相手の影への移動ですか! まるで転移! しかし影に沈むところを見られていては無意味! 影から出ると分かれば——対応なのですっ!」
さっそく勝負を始めた二人。まずはグレイスがさっきの戦闘でも使っていた相手の背に回る技を使うも、アスティは軽く対応して爪での攻撃をハルバードで弾いていた。グレイスはそこから距離を取り、今度は存在を希釈して立ち回るが、アスティはどうやらただの戦士ではなかったようで。
「アステロペテス!」
詠唱と同時、ハルバードが青い稲妻を纏い、アスティがハルバードを振り下ろすと天井から雷が落ちてくる。
中距離に対しての雷撃。しかも稲妻は複数落ちてくるので避ける場所を失敗すれば別の稲妻に当たってしまう。
「存在がさらに薄まったのです。それなら——ルナボルト!」
今度は横薙に払ったハルバードから扇状に細かな雷撃の網が放たれる。近距離AoE——エリアオブエフェクト——うちではそれができるのはフェルと、ゴブリンメイジの一部に可能性があるかどうか。
範囲攻撃持ちってそういえばいなかったなぁ。とアスティを見てやっぱり上位のモンスターというのは違うなと感じる。
魔法を織り交ぜた攻撃の連携は素早く的確にグレイスを追い詰めている。
勿論グレイスもただ逃げるだけではなく、隙をつこうとその人外の肉体の力で激しく動き回って対抗しているけれど。
「まあ、見るものは見たし仕事に戻ろうか。悪魔っ娘については今日はガチャ運が悪そうだから後にするとして、六階層を作っちゃおう」
「子どもたちが頑張ってるんだから最後まで見てあげなさいよ」
「見てはいるけど、早めに足止め階を作らないと」
それに、最後にどちらが勝つかと言えば、多分グレイスだ。あいつは好き嫌いが激しいからなぁ。嫌いを克服したらアスティは負ける。とはいえ、グレイスにそこまでさせられるなら大したものだ。あの雷の魔法と戦闘技能があるのならおそらくはフィーニャ級以上の実力者と思っていいだろう。前衛と後衛の違いはあるけれど。
「さ、早めにやってかないとまだ手付かずの階層が五階層もあるんだから」
「随分グレイスを信用しているのね? 今まであの子が本気でシノミヤを守ろうとしたとこ見たことないんだけど」
「だから信用してるのさ」
まだ見たことのない本気のグレイスを。
それに、グレイスは余裕があるとふざけて人の腕を食べちゃったりするお茶目さんだが、助けてって言えば一応来てくれるのだ。それがグレイスにとって不利な環境であっても。
そもそもがグール。世闇に紛れて異形の肉体を使って戦うものなのに、昼間の屋外やハチドリの群や偽ラグネルと全部真正面からの闘いしかしていない。
とはいえ実はそれでもいいと思っている。俺の予感が正しければあいつが使うのを嫌っている力には心当たりがあるからね。
「さてさて改築ー改築の始まりだよー! コアちゃん気合い入れて山を一個六階層にぶち込んでみよう! あ、鉄が掘れる山ね!」
「そこまで盛り上げられちゃたまんないっ! 出しちゃう、私シノミヤに欲しがられて出しちゃう!」
バレーボールの左右を赤てないで早くしてくれる?
「む、むむむ、む? シノミヤ……これ山丸ごとは天井の高さと階層の広さ的に厳しいかも?」
「それはDP的な意味で?」
「質量的な意味で」
「うーん、じゃあ山の三分の一くらい削り取るのはどう? どうせ鉄を掘らせるにも鉱脈を見つけて貰わないといけないし」
「そう? じゃスパーンといっちゃうね?」
「うん」
「スッパーン! 入れぇ……ぐぬぬ、ああ、崖崩れ……もうちょっとぉ! 入った!」
「ナイスー」
コアちゃんモニターで見たら、斜めにカットされた山と裾野が丸ごとダンジョン六階層に変化していた。
山は山頂から片側をがっつり削られたのであちこちが崩れている真っ最中で今モンスターを配置しても事故りそう。
草原と山のフロア、鉄鉱石採集可能。空と壁は周囲の見た目を真似してそれっぽくなるダンジョンアイテムを使用した。実際の空はないし、壁に近づけばその景色は偽物——写真だとわかる。
侵入者視点だとそれ以上先へは見えない壁に邪魔されて進めないアレ。
「崩落が落ち着くまではしばらくはギミックとモンスターの追加は難しそうだ。とりあえず階段の接続だけしておこうか」
「下から登ってくる分には適当にするにしても、上に上がるのはどうするの?」
コアちゃんに言われてモニターを見る。
第六階層は完全に山と崖。落石と崩落でぐちゃぐちゃになった地面から岩山を登ることになる。山はそれなりに高さがあるので上の方は少しばかり雪を被っている。
崩れている方は資源採取向け、裏側の原型を留めているほうから登る形になるだろう。
「山頂から登ってもらう?」とコアちゃんが言い出す。
「山頂から? どうやって?」
「こうやって、空中に螺旋階段を作って空に昇っていくの!」
コアちゃんが石でできた板を階段上に空中に浮かべて螺旋階段を作っていく。
山頂から天へと登る階段。試しにカメラの視点を遠くにしてみると、かなり壮大で神秘的な美しささえ感じる。
「これ踏み外したら即死じゃない?」
「確かに?」
荘厳すぎて手すりもない。落ちたら山の下まで一直線。見た目だけ良い欠陥構造。そもそも螺旋階段というもの自体が——というのは置いといても、見た目重視建築って命軽視にもなるんだね。
「私ったら罠を作るつもりがないのに作っちゃうなんて天才かも!?」
「天然の罠だね」
「なんか含みがないかしら?」
「気のせいだよ。あ、それよりほら」
傷だらけになったグレイス。対して余裕の笑みを浮かべて傷一つないアスティの対決の決着がそろそろつきそうだ。




