086.ハイブリッド式構造
久しぶりの感触。
俺は今、コアちゃんに生やして貰った新しい左手以外の全身をゴブリンメイジが薬草で作った汁をふんだんに吸い込んだスライムたちに覆われている。四、五階層用にスライムとゴブリンを追加購入していて良かった。
ちなみに左腕以外もDPで治そうと思ったら治せるらしい。だけどそれには元からある手足が邪魔だから切り落とした方が早いと言われて断った。
DPが勿体無いからという体裁を取ったが、本心はそんなイカれたことができるかと半ギレだったのはコアちゃんには秘密だ。
仲直りしたそばから喧嘩はよくない。
「それにしても失敗した。ホスピタリティを優先しすぎて完全に油断してた。先に上の階層から始めるべきだった」
「まあ、しばらく静かだったものねー」
襲撃が止まったこと、改築するということに意識が囚われていたこと。テルシアという下心で抱え込んだ謎の女。今更になってあれこれと自分に向き合うなんてらしくないことをしてしまっていたこと。その全てが油断。
「ちょっと調子乗ってたね、俺」
「ちょっとどころじゃないでしょう。シノミヤは弱っちいんだから防具とかもちゃんとしたものを装備した方がいいかもしれないわね。いつも考えなしに飛び出すし」
「今回はそんなつもりはなかったよ」
むしろ、ダンジョンが育ったなら引きこもってるつもりだったんだ。今回はラグネルが死んで戦いになるなんて思ってもみなかった。
「つーか五万三千回以上殺さないと死なないってなんの冗談だよ」
「……多分冗談ではないんでしょうね。何があったのかは知らないけれど、実際に生き返った訳だし。あの変な女の言う通りなら星獣の力を奪ったんでしょ」
「奪ったって……鹿なら俺とグレイスで倒したじゃん」
「一体だけね。残りの数千かそれ以上は何処かへ行ったじゃない」
「それをラグネルの野郎が倒して力を奪ったってこと?」
「さあ? 見てないんだから知らないわよ。知らないけどって言ったでしょー」
「そうだったね」
コアちゃんが見ようと思って見れるのは支配領域の中——つまりは森と山とダンジョン内だけ。その外のことはわからない。
「そう考えると遠征部隊もそうだけど、ダンジョンの外にモンスターを住まわせることを考えた方がいいかぁ」
「外に住ませる?」
「そう。例えばゴブリンを野生化……とまでは言わないけど、森の外とかに住まわせてそいつらがやられたらダンジョンでリスポーンするじゃん? 時差はあるけど駒の配置から人間の動きがわかる」
「なるほどねー。いい考えではあると思うけど、数が必要よね」
「あとはモンスターの言葉の翻訳ができるモンスターだね。さすがにもう何百匹のモンスターとボディランゲージしてる暇はないし」
彼らも演劇風にやってくれるから楽しいっちゃ楽しいんだけど、さすがに毎回はダルすぎる。
「はぁ……人型のモンスターメイド欲しい」
メイドは性癖。実際に欲しいのは秘書だけど。
「それなんだけどさ、余裕のあるうちに何体か女型の上位モンスターを呼んでもいいと思うの」
「え、どしたん?」
童貞厨らしくない発言に驚く。まあ、驚いたところでスライムにベトベトされてるから動けないんですけどね。あ、ちなみにベッドじゃなくてコアルームの床に寝転んでます。ベッドベトベトになるの嫌だから。
「護衛よ護衛。いつもヤバかったけど、今回に関しちゃあっちが引いてくれなかったら完全に死んでたわよ」
「確かに」
故に俺は今スライム塗れで、さらには痛み止めのために気持ちよくなる葉っぱをローパージュニアに吸わせて貰っている。ジュニアってのはMMの卵から生まれた第二世代。MMは多分フィニャセラのお産を手伝ってるはず。モンスターって本当に繁殖力高いのね。
「それに、シノミヤもそうだけど……グレイス、あなたもあの女の言う通りただ力任せじゃダメよ。敵が強くなっているのにこっちが何も変わらなければ一生勝てないわよ」
「グルゥ!?」
グレイスがなんで私もみたいに目をひん剥いている。俺と一緒にされて相当ショックだったようだ。どういうことだよ?
「ということで、まずはミノタウロスを召喚しようと思います」
コアちゃんが流れ星のように一瞬だけキラリと光る。
「女の子って話はどこへ……?」
ミノタウロスを男の娘にしろってのか?
つーかミノタウロスって頭が牛だから喋れなくない?
「メスのミノタウロスがいるのよ!」
「結局ミノタウロスじゃん嫌だよ」
男性器の有無だけで嫌がってるわけじゃないのよこっちは。喋れるモンスターがいいの。だから俺は悪魔型をずっと推してるのに。
「それが、ホルスタイン種のメスは耳と尻尾以外は人型らしいわ。胸は残念だけど二つしかないけどね」
耳と尻尾……それって獣人って言うやつなんじゃ……マジで?
今までそんな人間寄りモンスターなんてまったく呼べなかったのに呼べるの!?
「コボルド系統の上位ツリーにはそういう獣人型のモンスターがいくつかあるのよ」
「はぇーモンスターのリストってツリー形式なんだ」
「所持DPが少ないとロックされてて見れなかったり呼べなかったりするけど、今の手持ちなら調べられたのよ」
「悪魔っ娘もツリー表示されてる?」
「イビルアイを召喚済みだから載ってるかもね」
マジか! じゃあ悪魔っ娘をシスターのコスプレさせたら悪魔シスター完成じゃん!!
「でもまず先にミノタウロスね。戦闘が得意なモンスターにして防衛力を高めつつ、グレイスとシノミヤも戦い方をちゃんと教わりなさい」
「なるほど。それは納得だ。グレイスにはこれから五万三千回ラグネルを殺して貰わないといけないもんな」
五万三千回。正直意味わからんが、不死ではない。命は有限。殺せば死ぬなら殺すしかない。
あの男がどこか遠くへ行ってくれるというなら話は別だが……仲間どころか弟まで殺してしまっていたとあればあいつは引かないだろう。
引いてくれちゃ困る。
次こそはダンジョンらしくダンジョンの罠とモンスターの力で必ず殺す。何万回でも付き合ってやる。
「じゃっ! シノミヤも納得したことだしミノタウロスを召喚しちゃいましょう! 悪魔はあとで探してみるわね!」
そういってコアちゃんが少しだけ俺から離れるようにふよふよと移動する。
俺の真上に居たからね。召喚したミノタウロスが頭の上に降ってくるとか困るから助かる。
「愛しの我が子、永遠の執着。深淵の揺籠から目醒めよ。我が愛の守護者よ、出よ——召喚! ミノタウロス!」
なんかいつもに比べて物々しいそれっぽい詠唱が始まったかと思えば、俺がユニークモンスターを召喚したときのような黒い靄が立ち込め、その形を変えていく——災禍の門こそないが——それはこれまでのモンスターとは一線を画す存在なのだと実感し、緊張に生唾を飲み込む。
黒い靄が晴れる。
「もぅー! 飼い主様っ! お待たせなのですっ!」
白と黒にど真ん中から色の分かれたバイカラーの髪。丸みのある輪郭に夕陽色の瞳。耳は顎のラインに人のものが二つ。頭の上に白黒斑らの垂れ耳二つのハイブリッド式構造。着ているのは牛柄ビキニの上下と垂れ耳の片方に付けられた番号札、四◯三八。
胸はテルシア越え、推定J以上の極上柔らか豊満バディ。尻もでかい。腰のあたりから、ちょろっと生えた短い尻尾。
髪はギャル。顔はお姉さん系、服装はバカ。個性はたった一言で分かる陽キャ。
顔と体以外の全てが俺の求めていた大人の癒しから程遠い。
「リコール」
「そんな制度ないわよー」
試しに唱えてみただけなのに即否定。
召喚する時に性格とか指定できないんですか?
あ、無理?
じゃあこれからも性格はガチャ?
うわーこれ、ノリが合うかどうかってめっちゃ大事じゃん。コアちゃんよく俺引き当てたね。




