079.追加モンスター&階層アップデート
四階層目以降の階層については既にどんなモンスターを配置するかは考えてある。というか、細かなトラップ以外の構想は既にあるのだが、その前にやらなきゃいけないことがある。
これは俺一人じゃ決められない部分。
「新モンスターの前に、どのくらい階層を追加できるか知りたいんだよね。五階層まではこれまで通りの規模感でいいとして、六階層以降は環境と規模を変えたいんだ。それも含めてコアルームをまずはこの五階層から動かさないといけないんだけど……できそう?」
新階層の追加。これは俺の気持ちや考えだけではどうにもならない。ダンジョンを改築するためのエネルギー、DPという癖に全然数値化して貰えない力の残量が俺にはわからない。そして、改築関係の権限もコアちゃんにしかない。
俺はあくまで提案をするだけの雇われ店長である。もしかしたら契約社員かもしれない。
「今の一階層が迷わず徒歩で二時間かからないくらい。初見ならその数倍くらいの時間が必要な広さよね。二階層から四階層も広さは同じようなものだし、五階層を同じ広さにするなら全然ここははしたDPでできるわね。この前の星獣のおかげでたくさん人と獣が死んでくれたおかげね!」
「その端金とやらの残高を知りたいんだけど」
「シノミヤが知ったところで消費するのは私しかできないし、最後に計算するのは私なんだから知らなくても変わらないわよー」
「そうかな? ……ならいっか」
実際、俺がどんな風にしたいかいくら考えた所でDPが足りないと言われたら何もできないし、基礎だけ考えて規模感は投げた方が楽ではある。
なにか引っ掛かるものがないわけでもないけれど、そこに食い下がる程のことかと言えば……言い合いになる方が面倒くさい。
ひとがやってくれるならそれでいいじゃない。コアちゃんはバレーボールだけど。
「じゃあ、とりあえず五階層は下の階と同じくらいの規模で……六階層以降はあとで別の環境を入れたいからいい感じにめっちゃ広い何もない階層を……そうだなぁ、九階層まで作ってみて。十階と十一階層はとりあえず広めの部屋を一個ずつでいいや。いける?」
「全然余裕! そんなんじゃDP全然余っちゃうよ? 六階層以降の空間バカでかくする?」
「余っていいんだよ。あとからモンスターも追加しないといけないんだから」
「はわわ! そうだった! 私の子たちが増えるのよー! うれしー!」
めっちゃ嬉しそうなコアちゃんを見ると、前に見たオーバーヒートしてグレイスさえも逃げ出してたビカビカモードより安心する。
でもこいつ今、モンスターのこと忘れてDPぶち込もうとしたんだよなと思うと不安になる。
総合してマイナス。うん、いつものコアちゃんだね。
余談だが、現在の五階層には前回の四つ目鹿の襲撃中にコアルームの他に部屋を増やしてある。ひとつは奴隷用の監禁部屋、もう一つは空き部屋だけれど、主にグレイスの食事する部屋になっている。あいつの食事は散らかるし汚れるからコアルームで食事を摂ることを俺が嫌った。
とはいえ、俺は今は魔王城で生活しているのでその辺を気にする必要はない。だから増設する一番上の階層はコアルームだけでいいだろう。
奴隷たちはダンジョンの整備が終わるまでは空いてるフロア——十階層あたりにいて貰えばいい。
色々と思案している間にダンジョンが鳴動し始める。足から伝わってくる僅かな振動。たったそれだけなのに、ダンジョンというこの世界はあっという間にその姿形を変えてしまうのだから気味が悪い。
「階層追加完了! 六階層から九階層までは下のフロアの十倍くらいの広さにしておいたよー」
「十倍かぁ。言葉だけじゃよくわかんないけどありがとう」
「ドーム何個分とかの方がいい?」
「ドームの広さも覚えてないからいいや。ていうかコアちゃんドームって分かるの?」
「シノミヤの世界の避妊具でしょ」
「そんな単位で数えられてたまるかよ」
万個で足りないだろそんなもん。奥で頂するレベルの数がいるだろ。つーかどこの層を狙ってボケてんだ。それが俺に刺さると思われてるならとんでもない勘違いだぞ。
「……とりあえず、四階層と五階層に今いるモンスターを配置しようか。四階層にはローパーとゴブリンを。五階層にはオークを一旦全部と、今いる全種類のモンスターを配置して」
「ローパーとオーク以外は下の階に配置してるけど増やすの?」
「増やしちゃって」
「はーい! さもんべいべー!」
新しいのが来たな。それもうネタ尽きたのかと思ってたわ。というか、格安モンスターたちとは言え「増やして」の一言だけで本当に増やせるとか、いったいあの戦闘でどれだけの命を盗み取ったやら。
「とりあえず全種類百ずつ増やしておいたわ!」
「マジか。新しいモンスター用のDP大丈夫? 四階層と五階層は罠も作りたいんだけど」
「ちゃんと考えて配分してますぅ。前の私とは違うんですぅ」
「ちょっとイラつく語尾やめてね」
本人が言うならまあ大丈夫なんだろうけどさ。
「じゃあ、待望の新モンスターだけど……」
「待ってましたー! きゃーパフパフ!」
「パフパフのとこだけすごいリアルな音だったね今。絶対なんかの音源使ったよね今」
「フリー音源って便利よね」
「はい、新しいモンスター第一号はミミックさんです! 四階層からは宝箱を設置するのでミミックさんに活躍して貰います!」
「うっひょー! 宝箱! ミミック! 超ダンジョンじゃんマジZ」
音源の件無視したからってさらに意味わからない語尾で追撃やめてよ。本当に埒が明かなくなるのわかってるのに連続されるとどこかで拾わないと可哀想かと思うだろ。拾わないけど。
「そして更に! 四階層と五階層からは上からもモンスターが襲ってくる! 空飛ぶ激安モンスター! イビルアイさんです!」
「おおー! 魔眼ね! 遂に魔眼持ちモンスターを解放しちゃうのね!」
ミミックは宝箱に擬態して人を喰うモンスター。擬態という面ではローパーに似ている。特徴は長い舌と牙だ。
イビルアイというのは、呪い——といっても効果は多少の衰弱がある程度の魔眼に翼が生えた、でかめのコウモリみたいなモンスター。モンスターの格で言うならオークよりも下。
じゃあなんでオークが呼べるのにイビルアイを増やすかというと、こいつらを遠征部隊に加えて空から先行して情報を取るドローンのような仕事をさせたいから。あと安い。
遠征部隊とは言っているが、今のところ固定のメンバーを決めている訳じゃない。
今はまだダンジョン防衛優先なので侵入者の数を見て手が空いている連中を動かす予定。
そういう意味でも、ダンジョンに近づく人間を察知できれば調整はし易くなる。空を飛べるというのはそれだけでも価値がある。
「という訳で、五階層までに追加するモンスターはその二種類だね。ミミックは少なめでいいかな。宝箱だらけにする訳にもいかないし。イビルアイは最低でも二百。上の階層用にDPをまわしたいから数を減らすならミミックの方を減らして」
「うーん。上の階層の環境変更はやったことがないからどれくらい持っていかれるかわからないし……ミミックは四十くらい、イビルアイ二百にしとく?」
「それでいいよー」
「おっしゃー!! 出てこいやぁ!!」
そういう訳で、我がダンジョンに新たな仲間であるミミックとイビルアイが増えた。
これまでは新しく増やしたモンスターはコアルームに出していたから対面していたけれど、数が多くなってきたのでそれはなしで現地に召喚。
あと、やっぱりコアちゃんの掛け声はネタ切れだったらしい。
そうして新規モンスターたちと既存モンスターの配置を改めて確認し、コアちゃんには一旦ダンジョン外の作業をやめて迷路やトラップ作り、宝箱生産を頑張って貰った。
最近はずっと外の監視というか、支配領域化したこの辺りの情報集めに苦労してたみたいだからね。好きなことを楽しんで欲しかった。
コアちゃんは以前からトラップを作る時はすごい楽しそうに人を殺すことを考えて頑張っていたし、ダンジョンが変わっていくのを見て本当に嬉しそうに笑う。バレーボールだから表情はないのだけど……声に出してよく笑う。
俺からしたら、宝箱の中身を考えてどれをどこに設置してとか考えるだけなら楽しいけれど、それを実行するとなると億劫だ。宝の数と偽物の数のバランス、宝箱と罠の距離感。罠だってかわし易いものとバレ難い初見殺しとの区別が必要だ。
そんな面倒なことでも、俺が言えばやってくれる。もっとこうしてとダメ出しすれば嬉しそうに「こうかな? こっちかな?」と努力する。
それ程までに、コアちゃんにとって人間というのは憎い存在なのだろうか。
俺だって別に人間が好きではないし、敵対している以上は積極的に殺す意志はある。
それでもここまでの熱量はない。誰にも殺される心配がなくなるくらいダンジョンが育ったら俺は魔王城に引きこもって爛れた暮らしがしたい。
そんなことを言ったらコアちゃんとの関係はどう変化するのだろう。
作業のし過ぎで疲れたのか、ふとそんなことを考えてしまった頃だった。
「ガルルルゥ」
改築作業なんて興味はないとばかりにゴロゴロしていたグレイスが殺気だって牙を剥き出しにした。
「——シノミヤッ! フェルがやられた!!」
「……は?」
いま、フェルって言った?
現状のうちで最強候補筆頭のユニークモンスター"世這"ネクロフェルワイアム。狂った獣たちの骨肉から生まれた猛毒の竜が……死んだ?




