078.ダンジョンバトルに欠かせないもの
結局一階層目の改築を終えただけで一日が終わってしまった。魔王城という名ばかりの豆腐ハウスに戻ると部屋は真っ暗。そういえばここの明かり後回しにしてたんだった。
「仕方ない——明かり石」
俺の呼び声に応じてダンジョンがアイテムを召喚する。改築やモンスター召喚はできなくてもこういうちょっとした物を取り出すくらいならコアちゃんの力を借りなくても、ダンジョンマスターの俺でもできる。
いくつか明かり石を取り出して部屋の中に適当に配置する。なるべく壁際で動線の邪魔にならないように。
「すぅーすぅー……」
「マジで寝てるのかこの人」
テルシアは檻の中の磔台に括りつけられたまま寝息を立てていた。呼吸する度に胸が弾む。俺の胸も弾む。いい物を見せて貰ったので、お礼にテルシアの檻を取り囲むように明かり石を並べて囲っておいた。なんか怪しい儀式の生贄の祭壇みたいになった。思ってたのと違うけど喜んでくれるだろうか?
まあ、寝てる人を起こしてまで感想を聞く必要もないので、疲れたので風呂をサボって寝室へ向かおうとドアを開けて、咽せた。
「くっっっっさっ!」
真っ暗な寝室。
この世界唯一のコイル入りスプリングマットレスのベッド。
その上に縄で縛られたミエレ。身動きも取れずに裸で囚われていたその女は俺のマットレスの上で漏らしていやがった。
「あーもー喋らないから忘れてた。こいつ人間だから小便するんじゃん。オナホならこんな粗相しないのに……ったく。つーか換気も考えないとダメだなこれ」
ダンジョンは基本的には空気が存在する——成分はわからないが——。生きてはいけるようになっている。コアちゃん曰く、洞穴型のときは普通に風の通りがあり、今は外に面してる部分から空気を取り込んでいるそうだ。
とはいえそれは生活レベルの話。密室に放置されたお漏らしベッドの匂いはどうにもならない。原因は空気じゃないし。
「やばいな。他人のおしっこなんか触りたくないぞ……ゴブリンメイジにやらせるか? あいつなら慣れてそうだし……でも掃除ついでにヤラれそうな気もする。マットレスを新しく作るDPって高かったいうし、作り直すのもな……裏返すか」
うん。匂いは適当な草でも燃やして誤魔化そう。森の素材がたくさん手に入ってるからいい葉っぱも増えてるだろうし。
そうと決まれば、まずは邪魔なミエレの縄を解いて引っ張り出して風呂へ連れ込み強引に洗う。別に俺がやらやくても本人にやらせればいいのだが、今夜はベッドをこれ以上汚されたくないのでこのまま風呂で済ませるつもり。
ということで綺麗さっぱりしたのでミエレを再び縄で縛って浴槽の中に転がしておく。
これで出た物は勝手にダンジョンが綺麗にしてくれるからミエレには今日からこっちで寝てもらおう。
寝室に戻り、適当に燃えなさそうな皿を並べていろんな葉っぱを燃やしてみる。薬草、毒消草、ハーブ類に気持ちよくなる葉っぱや果物の葉っぱ。色々試した結果、結局いつもの葉巻をブレンドして火をつけ、煙で室内を充満させる。
色々と試した葉っぱ類は明日になったらコアちゃんにスポーンポイントを設定して貰って一階層目から三階層目までのお宝枠にして貰おう。
ローリスクローリターンなまさにダンジョン一階層目。コアちゃんも喜ぶはず。
考えがまとまったところで、葉巻を皿に押し付けて消灯。ベッドイン。
今日はよく働いたなぁ……
「シーノーミーヤー」
「ふみゅう」
「ふふっ。可愛い。今日は一人で眠ってたのね。えらいえらい」
翌朝、脳内通話でコアちゃんに起こされる。一人で寝るだけで褒めてくれるなんて優しい世界もあったもんだ。
「どうしたの? なんかあった?」
「そっちには私もモンスターも居ないから起こしてあげたのよ」
「そっか。助かるよ、今日もやることたくさんあるからね」
「でしょー、もっと褒める?」
「何か出るなら褒めようかな」
「シノミヤと違ってあんなに出ないわよ」
「覗いてんじゃねーよ! プライバシー!」
ひとの夜の情事を覗いてなんて、とんでもない世界に来たもんだ。
「別にシノミヤの裸なんて見慣れてるわよ」
「それとこれとは違うでしょ」
「いっぱい出るのも私特製よ」
「ぐっ……やめてよね、なんかお母さん感出されると業が増えた気がする」
「はいはい、じゃーさっさと支度済ませて来なさいな。次は二階層と三階層でしょ?」
「わかったよ。ああ、それと悪いんだけど城の外にゴブリンメイジひとり送ってくれない? あとそっちにある泉も庭に出しといて欲しい」
「よくわかんないけどやっとくねー」
これであとはマットレスを外に出してメイジに泉で洗濯して貰って、炎の魔法の熱でうまいこと乾かして貰おう。
なんかゴブリンメイジには奴隷の世話ばっかり頼んじゃってる気がするな。
でもあいつらゴブリンの中じゃ気が利くからなぁ。重宝する。
「あらご主人様、おはようございます」
「おはようテルシア。きみはトイレとか平気?」
「昨日は何も飲食はしていませんのでいまのところはまだ」
「あーそうか、食べ物のこと忘れてた」
トイレ問題だけじゃなく、飲み物と食べ物も必要なのか。こりゃ手間がかかる。ゴブリンやオークはとうしてるんだろうか……ああ、MMがやってんのか。だけどあいつも托卵するからなぁ。
「水と酒はどっちがいい? 拾いもんだからいい酒かはわからないけど。食べ物はとりあえずパンで我慢してくれ、肉は挟んでやるよ」
「では酒とパンをお恵みくださいまし」
メニューが決まったので物資の中からパンと塩漬けの肉を取り出して切り分ける。そこに適当に切ったやたら硬いチーズを載せて魔法で軽く炙る。チーズが溶けて焦げ目がついたらそれで終わり。最近の手抜きメニュー。
うちの食糧事情だとこれでも割と贅沢。盗んだ物で暮らしてるからね。
テルシアの拘束は解かずに食事は俺が手伝って済ませた。
ミエレにも同じ物を用意したが、ミエレは戦闘力がないので縄を解いて自力で食わせた。食いっぷりはよかった。
こんな目に遭ってまだ死にたくはない様子。強いのか弱いのか、俺にはその気持ちは分かりそうにない。
それこらゴブリンメイジに仕事を頼み、ようやくコアルームへ。
「もう、遅いわよー」
「捕虜二人に飯を食わせてたんだよ。ミエレの方はいいけど、テルシアは油断できないから慎重にやっててね」
「ふぅん? 強いの?」
「自称A級冒険者以上、フィーニャの二段階上だってさ」
「じゃあ殺せばたくさんDPになるじゃない」
「殺せるならそれでもいいさ、けど戦うとしたらグレイス以外は役に立たないよ? フェルはあの大きさじゃダンジョンには入れないし……敵意に勘付かれて噛み付き返されたら堪らない」
「面白くねー女」
「それ面白いときに使うんだよ」
「うそよ、面白くない女につまらない女ならワンチャンありそうって思った男が皮肉ったフリしながらおっ勃てていうセリフでしょ」
「そろそろ黙ろうか」
何を朝っぱらからいらんラインの反復横跳び始めてくれてるんだよ。
「とりあえず、一階層目から三階層目までのお宝枠なんだけど、薬草とか病気や毒に効果のありそうな葉っぱ類と果物をスポーン設定して欲しいんだけどできる?」
「できるけど、場所は固定? 場所と時間もランダムにする?」
「固定でいいかな。ダンジョン初心者が手堅くダンジョン攻略をする目標になってくれるはず。こちらで冒険者の足取りをある程度操作できるしね」
「わかった! そこで先入観を与えてもっと上の階層で罠に嵌めるのね!」
「そういうこと。それじゃ、いい感じのところにスポーン振り分けを頼むよ」
「はいはーいすぽぽーん!」
コアちゃんが楽しそうにスポーンポイントを決めていくのをスクリーンで確認する。
モンスターを配置するのと大して手間は変わらないのですぐに終わる。
「次は二階層を全部真っ白ピカピカフロアにして。モンスターはコボルドを配置で」
「一階層がスライムだけだったのに二階層までモンスター一種類にしちゃって平気なの?」
「三階層まではダンジョンのチュートリアルにするんだよ。初心者向けってやつ。強い冒険者は上で殺すとして、弱い冒険者は三階層までで鍛えてる間の滞在ポイントを抱えて貰ってから上で殺す。畜産と同じだよ」
「なるほどねー、知らないうちに太らされてる訳だ! ごくあくーぅ! そういうの好き! もっとやりたい!」
今回は一階層のときと違って細かく明かりを調整したりはしていないので割とサクッと終わる。二階層にコボルドを置いたのは昨日、穴に落としたコボルドに伝えた通り、我慢して働いてくれということで。
「三階層は真っ暗なフロアにしてスケルトンを配置してね。スケルトンには目がないから暗闇関係ないし」
「なるほど! ちゃっちゃっとやっちゃうね!」
「それが済んだらお楽しみ、四階層目以降のダンジョンはもっと楽しくしちゃおう!」
「え!? なになに!? もしかして新モンスターきちゃう??」
「なんと…………来ちゃいます!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
バレーボールから上がる完成。『わー!』と大人数が喜んでいるかのようなSE。
そういう音源もダウンロードしたんだ。忙しそうにしてた割に余裕あるなコアちゃん。
どうせなら階層ごとにBGMも流して貰おうかな。ダンジョン、バトルといったらやっぱBGMがあった方が(暇つぶしに覗く身としては)盛り上がりがあるもんね。




