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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<下> 二つの戦争 編

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144.壊滅


 ミリアを見送り、まだ反抗的なミエレを連れて十一階層の工房へ連れていく。サキュバスに、しばらく眠らせておくように命じて、去り際にフィーニャの様子を見る。


 ミリアのことは終わった。ミエレの使い道も決めた。フィニャセラは、どうするか。ここで殺すことも考える。どうせもう究極の魔法薬(エリクシル)なんてものは必要ない。交渉相手が変わるのなら、そんなものは存在しないで終わらせられる。それに、ラグネルと闘り合うことになれば、あいつの不死性は暴かれる。ありもしない魔法の薬の魔法はじきに解ける。なら、フィニャセラの役目も終わらせたって構わない。


「あら、あなた。お仕事は済んだのですか? 見てください。今日のダルクは随分楽しそうなんです」

「あぶーきゃいきゃい」


 ダルクを抱いて幸せそうな顔でやってくるフィーニャ。ダルクは確かに楽しそうに、意味のわからない音を発して笑っている。


「あ、なた……?」


 なんとなく、フィーニャの首に手を添えてみた。締め殺すのも、へし折るのも簡単だ。


「なんでもないよ。ダルクが喋れるようになるのはどのくらいかな?」

「ふふ。まだまだ何ヶ月も先ですよ。でも、この子はあなたに似て賢いですから、意外と早いかもしれませんね」

「そうか。邪魔をして悪かったな。実はまだ仕事の途中なんだ。また来るよ」

「まあ! お忙しいのに様子を見に来てくださったのですね! ふふ、ありがとうございます」


 そうして、猫が戯れるように頭を俺の首元に擦り付けるような僅かな触れ合いを求められたあと、フィーニャと別れた。


 ダルクが大人になってしまえば、母親が攫われて薬漬けにされて囚われていることをどう思うだろうか。ダンジョンを裏切って母を救おうとするだろうか。それとも、他のモンスターたちのように、ある程度育ってしまえば母親への興味など失うのだろうか。


 何にしても、そこにフィーニャの幸福は存在しない。


 ひとつひとつ、決着(ケリ)を付けていこうにも、俺に取れる選択肢には最良も良もない。最悪か、もっと最悪の選択肢だけ。言葉の話せないミエレと違って、フィニャセラはダンジョンの外には出せない。この世界に医師という職業が存在し、医療があるならフィニャセラの抱えた病は治ってしまう恐れがある。それにはフィニャセラはダンジョンを知りすぎている。それに……ミリアが残した力の大きさを考えれば、長期滞在者を解き放つのは大損だ。


 損得か。それもまたひとつの決着の付け方か。


 そんなことを考えながらコアルームに戻る。戻ったからには切り替える。


「コアちゃん、みんなの様子は?」

「アスティは上層下層の中継点(セーフティエリア)を破壊したわ。雷獣化の高速移動はさすがね。道中でも走り抜けながら一人で百人以上は仕留めたわ。サメちゃんに関しては魔法で一撃。第四階層は全滅よ。討伐数は二千超え。シスターはさすがの魔力量ね。大魔法を連発して五百人は仕留めたんじゃないかしら? 中継点を潰す代わりに途中の通路に障壁を作って妨害しているわ。魔法だからダンジョンのルールには触れない。考えたわね。グレイスは……二階層を食い散らかして一階層を目指してるわね。食べ残しだらけ、完全に殺したのは百人ちょっとかしら? 重症者は多数って感じだけど……」

「グレイスに繋いで……ありがとう。グレェーイス!! 戻れ! 一階層の連中は生かしておけ! そいつらまで殺したら次の餌が入ってこなくなる! 狩の基本は群れていれば襲われても群れは逃げられることを学ばせることだ。生き残る希望が無ければ群れは餌場を変えてしまう。頭を使え! 使えないなら言う通りにしろ! そうしたらこれからも目一杯食わせてやる!」


 モニター越しに手足を黒く染めたグレイグールの月のような金眼が輝き「グルル」と唸り、隠し扉へと戻っていく。なんとか止められた。

 ちょっと成果を上げすぎだ。一気に削りすぎてフレイズ伯爵様ご一行に逃げられては困る。

 せっかく届けてくれた人間はなるべくしっかり味わいたい。


「帰りにシスターの魔法で五階層までの穴は塞ぐように頼める? あ、岩を落とすだけなら現物でも平気なのかな?」

「そうね、適当に余ってる岩や石材を落とすのはできるわよ」

「じゃあ、みんなが戻ったらよろしく」

「ういー」


 ローパーは処分済み、これで五階層以下の縦穴のあった場所を調べようにもただの崩落にしか見えないだろう。ことが済んだらまた穴を戻せばいい。


「魔王軍幹部の実力、見せて貰ったわ。全員、あなたより強いじゃない」

「当たり前だろ。俺は本来魔法使いだぞ。武闘派じゃないんだよ」

「それならどうして、プリムスには剣で挑んだの?」

「お前に格好つけるため」

「……もう一回ミカって呼んでよ」

「ミカ、次は黒の手配書の連中ともコンタクトを取りたい。連中をこっちに引き上げるつもりだ。うまく説明できるように、報告書をまとめておくといい。俺の紙とペンを貸す。使い方は——覚えたか?」

「ええ、大丈夫。ねえ、これって黒の手配書をこちらに引き込むためのものよね? ダンジョンから手に入れられるものとか、対価とかどうしたらいいの?」

「とりあえず、金と黒耀鋼(ブラックヘリオス)の武具、移動用のモンスターとかその辺だな。あと、森は俺たちの支配域にある。森にある必要な素材は好きなように取って使え。森には護衛用にトレントを送る。対価はミカ、俺と面識のあるお前が政治のトップに立つことだ」

「トップが……私?」

「王族は二十年前に死んだんだろ? プリムスたちのあの戦力は遊ばせるには勿体無い。それに新しい統治者とまた一から交渉するのは面倒だ。国を掌握しろ。そしてどう導くのかを決めろ。ああ、そういえば最悪の代償があったな。ラグシュナ人を助ける代わりに、アルヴァリア人はこっちに回せ。アルヴァリア人がラグシュナ人にしたことと同じ罪を背負ってもらうことになる」

「そんなもの、いくらでも支払うわ」

「そうか」


 その末に辿り着くのはただ人種が入れ替わっただけのアルヴァリア王国と何が違うのだろうか。自分が嫌った連中と同じではないと思い込み続けられるのか。少なくとも次の世代に交代するまでは狂わないでいて貰いたいものだ。


「シスター、帰還したわ」

「アスティ戻りましたのです!」

「敵、ザコだったw」

「がるるがじがじ」


 四人が帰ってきて拗ねたグールが脛を齧る。


「ちょっと、離れなさい。距離が近すぎるわよ」

「がるる?」

「逃げないの!」

「ぐるる、がじがじ」


 グレイスの噛み癖に嫉妬したテルシアが追いかけまわし、グレイスが嘲笑うようにひょいひょい躱しながら俺の身体中を噛んでテルシアをからかって遊ぶ。きみたち人の迷惑とか考えようね。


「グレイス、俺は今から難しい話をするが、聞きたいか?」

「ぐる……ぐるぐる」


 喉を鳴らしながら首を振って、グレイスは別の部屋へと逃げて行った。


「あら、シノミヤまだ何か動くの?」

「いいや? グレイスが邪魔だったから。シスターたちも少し休んでてくれ。好きに飲んで食べてくれて構わない。ただ、敵の動きだけは確認しておいてくれ。連絡手段を絶ったからな、大きく動くかもしれん」

「私はー?」

「コアちゃんは……一緒にDPの使い道でも考えようか」

「ひゃっほーい!」


 ちなみにテルシアが静かになったのは、グレイスが出て行ったので机で黒の手配書を寝返らせるための提案書兼報告書の作成に取り掛かっているから。他の三人はそれぞれ好きなものを取り出して寛ぎながらスクリーンを見ている。


「四人の成果がだいたい三千人くらい。シノミヤの魔法の犠牲者はすぐ灰になっちゃったから数は不明ね」

「当初一万が乗り込んできて、初回の攻略でも数百人は死んでるよね?」

「そう考えたら今回のと合わせたら半分の五千近くを削った可能性はあるわね」


 ダンジョンの階層でキャンプしていた都合上、腕の立つ連中ほど上の階層にいた。そして、上の階層に滞在できる人間の方が少ない。

 第六階層に上がってきたのがおよそ一千人。全体の一割。残り九割が五階層以下にいて、初回アタックと今回の急襲で五割が脱落。

 第一階層から第五階層までの生き残りは負傷者を含めた四千人程度と思われる。


「外にはまだ一万人がいる。さすがに四千も残っていれば完全撤退は惜しむだろうか」

「フレイズ伯爵とやらの欲深さに期待ね。外の騎士だって貴族の護衛を任されるくらいの実力はあるんだから、そうそう諦めたくはないでしょう。金塊だってまだ持ち帰れていないもの」


 コアちゃんがスクリーンにダンジョンの外の敵拠点の映像を見せてくれる。どうやってダンジョン一階層から引っ張り出したのかわからないが、確かに金塊は貴族たちの天幕の側に護衛付きで安置されていた。少なくともあれだけでも持ち帰りたいだろうな。この出征にいくら掛かったかは知らないが、あれだけの金があれば戦費もだいぶ賄えることだろう。

 状況によっては取り返すつもりだったけど、持ち帰らせてもいいかもしれない。北部がダンジョン攻略を諦めず、中央や南部から人を募れば、それだけ東部は動きやすくなる。

 ラグシュナ人と同盟を組むのなら、彼らのアルヴァリアからの独立は必須。そして、そのためにはラグシュナにはアルヴァリア中央を落として貰うことになる。


「今の戦争も終わらないのに次の戦争の予定も待っているなんて……知らないうちにうちのダンジョンも繁盛したものだ」

「私とシノミヤがいーっぱい頑張ったからね! ね、次はどんなモンスターを増やす? 階層増やす?」

「もちろんどっちもやりたいんだけど、まず先に……」


『ヴォォォォォォォォン!! ヴァァヴァァァァァァ——!!』


 ダンジョンの外から響く咆哮。

 連絡くらい寄越せと思っていたが実際に耳にすると相変わらず気持ちの悪い声。


「フェルが戻ったか」

「あ、シノミヤやばいかも」

「ん?」

「フェルのリスポーン地点、山の上にしたじゃない? でも魔王城には今誰もいないから……シノミヤを探してまたダンジョンの入り口に突撃するかも」

「……しまった」


 ダンジョン前に落とし穴を作ったからリスポーン地点を変更していたんだった。

 それにあいつ帰ってきたらすぐ俺を呼んで騒ぐし、それなら城の防衛役にと城壁の外側に配置していた。


「ヴァァヴァァァァァァー!!」


 ダンジョンの内と外は空間が異なるというのに、フェルの巨体が肉をすり減らしながら骨を突き立て山を下っている振動が伝わってくるような気がする。というか、ダンジョンの中まで聞こえるってどんな声量で叫んでるんだよ。


「あーあー、あのままだと外の本隊と正面衝突よ」


 いつか見た光景。

 ダンジョンの外で戦う冒険者と騎士の集団を踏み潰し毒殺していった姿。一般通過猛毒腐敗ドラゴン。


「死傷者の予想数を上方修正しないといけなそうね」

「それ上方でいいのか? というか、今はまだ伯爵を殺されたら困るんだけど……」

「じゃあ、パパからダメよーって言ってあげないと」

「そんなこと言われてもなぁ」


 とはいえ、せっかくダンジョン内の敵戦力を分断して各個撃破ができるようになった。できれば、敵さん方には情報を持ち帰り増援を送ってきて貰いたいところ。万単位での突撃は困るが、戦力の逐次投入なら大歓迎だ。そのためには他人を犠牲にできる権力者には無事でいて貰いたい。取引先の上司は頭が悪いに越したことはないのだから。


「しゃーない。ミカ、ちょっと化粧を手伝ってくれ」

「あら、メイクに興味があるの? "飯事縫包"——見て、私のメイクアップセット、綺麗でしょ?」

「そうだな。今度それに似合う宝石を贈るよ。それじゃあちょっと俺をゴブリンメイジ風にしてくれ」

「え? ゴブリンメイジ?」


 しょうがないじゃん。それ以外の変装なんてしたことないんだもん。

 テルシアにボディペイントをして貰い、いつか以来の蛮族風のくっさい毛皮を着込む。

 大急ぎで魔王城へ戻って外に出て鍵を閉めて、城壁の上から飛ぶ。


「ゔぁぁぁぁゔぁぁぁぁいぃぃぃぃゔぁぁぁぁ」


 バカみたいに山を下って行って落とし穴に嵌って死にかけながら毒を撒き散らしてなんとか生き残っている間抜けな竜。何やってんだよ。


「ほーら、パパはここだぞ」

「ゔぁぁぁゔぁぁぁぁ!!」


 フェルの背中に着地、ぐちょりとした感触が気持ち悪い。あと、毒ガスが臭い。ちょっと体がピリピリする。あとでもうちょっと体をアップデートして免疫力高めないとダメかもしれない。


「フェル……山におかえり……」


 そっとフェルの露出している頭蓋骨っぽいところを撫でる。


「ゔぁぁぁぁいぃぃぃぃ」


 落とし穴に嵌って剣山にブッ刺さってるフェルの背骨を掴んで上に飛ぶ。なんとか持ち上がる。腐肉がボトボトと地上に散乱して、猛毒ガスの雨が降る。


「あーあー、これ何人ダメにしちゃったんだよ。穴の周りにいたのは怪我人と病人なんだぞ」


 しかも、この怪我人たちにはダンジョンで負傷して中と入れ替わった連中も含まれる。つまりは、襲撃当初よりもここにいた負傷者の人数は増えている。下手したら、死神の鎌で殺した数より多く死人が出た可能性もある。これは、想定よりも早く伯爵が動き出すかもしれない。

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