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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<下> 二つの戦争 編

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137.必要な殺し


 森から抜け出し、プリムス・ブラックとそれに続く一団を迎えて名乗りを上げる。偽りはしない。ここで嘘を述べれば欲しいものは手に入らない。嘘を吐くのはこの後だ。


「これはこれは、私の名はプリムス・ブラックと申します。後ろは私が率いる傭兵団です。このような所で魔王様に拝謁が叶うとは————何か急なご要件でもありますか?」


 プリムス・ブラック。

 またの名をアスガル・ラグナシャハル・ミラドール。ラグシュナの元騎士、裏ギルドのリーダーで現在は黒の手配書(ブラックリスト)一番目(ナンバーワン)


 こちらの名乗りを疑う素振りを見せなかったのは、事前に俺の特徴をテルシアから聞いて把握していたからか、それともただ話を合わせてきただけか。随分と間を置いた問いかけは半信半疑というやつか。俺とテルシア、延いてはダンジョンとアルヴァリアの交渉を知るレベルにあるかの確認か。


「急な要件か……そこまで急いじゃいないな。だが、進展ならばあったぞ。気になるならば教えてやるが」

「……左様ですか。専任の者がおりますから、私からお尋ねする必要もないでしょう」


 当たり障りのない会話。何も知らない者が聞けば違和感はあるだろうが、それが何かまでは至らない。話を進めるのならこちらから動くべきか。


「残念だがその専任者なら拘束させて貰っているぞ。条件に不備があってね。こちらが事前に貰えるはずだったものを二つも失くしてきたそうだ。今は俺の部下が丁寧に事情を取り調べさせて貰っている」

「成程……こちらに不手際があったようで申し訳ございません。その者は生きておりますか?」

「俺が最後に見た時はまだ息はしていたな」

「そうですか。では、もしその者の命でお赦し頂けるのであれば、今後はこの私が交渉役を務めさせて頂くことは可能でしょうか? ああ、後ろの者たちのことは気になさらずに。皆、交渉の件を知っている者たちです」


 テルシアが死んだ席に座る、か。

 なんの動揺もなく死を受け入れる。確かにこいつらは死人のようだ。だがまあ、いい。後ろの連中もそうならわざわざこちらが言葉を選んでやる必要もなくなった。


「テルシア一人が死んだところでな。こちらは王女と公女を嫁に貰えると聞いていたんだ。そのどちらも処女のままこちらに渡せると?」

「……早急に手を回します」

「無理だろ。ラグネルはもう王都にいるんだろ? しかも俺が話を聞いたのは何日も前のことだ。本当に処女膜がついてるなんて思っちゃいないだろうな? 渡すと言ったものを渡さず、汚れた中古なんて差し出すつもりか? どこまでも人をバカにする連中だな。アルヴァリアの奴隷のラグシュナ人というのは、どいつも揃って大バカなのか?」

「その話を何処で」

「テルシアだよ。心臓を剣で突き刺して殺し、魔法薬(エリクシル)で心臓を作り直して蘇生する。普通の拷問には耐えられるように教育されていたようだが、さすがに死を繰り返す恐ろしさは未経験だったようだな。何度も泣きながら全て話してくれたぜ? そうだな……たとえば昏き霧の森は南に降っていくと東部まで繋がっているらしいな。知っているか? あの森は全て俺の支配下にある。俺がたった一言"行け"と命令すれば、リネリッタに現れた毒竜が森を駆け抜ける。お前らグズが舐めた仕事をしたツケは、誰が支払うべきだと思う?」


 できるだけヘラヘラと嘲笑うように、この男を恐れていることを悟られないように大口を叩く。嘘も毒も吐き切る。


「たったそれだけのことで、ラグシュナを滅ぼすと?」

「ラグシュナ? それは滅んだ国の名だろ? 我が国の敵対者、アルヴァリア王国の東部を北部と同じような目に遭わせてやろうというだけさ」


 見て来たんだろう? 領都からヒナトまで、そしてダンジョンまでの道のりで、モンスターに襲われ悪戯に命を奪われ棲家を壊された人間や街を。


「もう一度聞く、王女と公女に処女膜はっ付いたままここに連れて来られると誓えるか? それとも魔王に向かって虚偽の交渉を持ち掛けた罰として東部を失うか。答えてみろよ、売国奴」


 俺は人間のカス、ゴミ、クズ、クソ、生きる価値のない悪魔、魔王。

 そんな魔王を殺すことのできないお前に、俺を殺す理由を作ってやる。


「どうした? 何を黙ってやがる。お前らはラグシュナ人の命を守るだなんて、聞こえのいい言い訳で他民族にツケを払わせてるだけ、なんの正義もない使いっ走りのゴミ民族。同胞どころか魔王との交渉さえ守れず裏切る卑怯者。国と国民を売ってコソコソ臭い息して溝を這いずってるネズミ野郎が」


 他人の人生も誇りも傷口も踏み躙って穢す。


「ちっ……ここまで言われて黙っているとは、想像以上に飼い慣らされた溝ネズミだな。"世這"ネクロフェルワイアム——命令だ、今すぐ森を南下しろ。行————」


 "行け"と口に出そうした瞬間、巨大な柱が目の前の世界を埋めていた。人間を超越した視力と身体能力を駆使してなんとか柱に叩き潰される前に剣と前腕を差し込めた……が、そのあまりの速度と質量に剣と防具が耐えられても俺自身が耐えきれず、吹き飛ぶ。森へと吹き飛ばされ、高さ十メートル以上ある木を三本へし折って四本目に衝突したところでようやく体が停止する。


 何が起きたのか、あの柱は剣だ。プリムスが背負っていた特大剣。あれでたった一発シバかれただけでこの威力。鎧とボディアーマーの衝撃吸収機構が無ければ全身砕けて破裂していたっておかしくはない。


 アスティの雷を纏った一撃のような異常火力。人を斬るためでも叩き潰すためでもなく、破裂させるための剣——最早そんな物、剣と名乗るのも烏滸がましい。


「こほっこほっ、あー」


 耐えた、生きてる。

 たった一撃受けただけでこの有様。苦しくもないのに咳嗽反射が出たのは自己認識以上の負担と圧力が内臓に掛かった証拠。


「んぐっ!!」


 状況理解を終える直前、視界の端で拳が飛んでくるのを捉えて歯を食いしばる。直撃の回避は無理、スウェーで流す技術はない。もろに喰らって、地面に叩きつけられる。口の中から驚くほどの量の血が溢れて吐き出す。大丈夫、ただの切り傷。深手じゃない。


「へっ、どうしたよ? さっきみたいに剣は使わないのか? 一度殺そうとしておいて日和ったんじゃないだろうな?」

「……自分でも驚いている。絶対に殺すな、守れと言われている相手に剣を向けるなどあってはならないことだ」

「それ、一発ヤッた後に言って意味ある?」

「己の未熟さへの戒めだ」

「後悔は後でしろよ」


 先にしてばかりいるから他人に利用されるんだろうが。


「私に本気で殺されたいのか? さっきのことを取り消すのなら私はここで……」

「お前は本当にしょーもない男だな。俺が東部を滅ぼすか、お前が俺を殺すか、だ。それ以外は存在しない。まだ考えたいなら好きにしろ……だがこちらにだって剣はある!」


 ぶん殴られて地面に倒れた状態から片膝を曲げて前傾姿勢で低く、獣が突進するように地面を蹴った反力でプリムスの脚を目掛けて突きを放つ。

 身体能力に一切の制限を掛けない全力の突撃。間違いなく貫ける速度に到達していたというのに、奴の左足が軽く持ち上げられたかと思えばそのままブーツの底で剣を横に弾いて逸らしてこちらの体がブレたところに右足の蹴りが腹に叩きつけられてまた地面を転がる。

 人の全力をダンスのステップでも踏むかのような軽い動きで捌かれる。


「貴方の言葉を借りるのなら、その程度の力で私に挑むことに意味がありますか?」

「少なくとも後悔はしてねーよ」


 デカい体で見下ろしてくれる。

 まだたかが顔面を殴られて腹を蹴られただけ。

 あんな馬鹿でかい剣を背負ってそんな動きをしてくるだけで人間にしちゃあ異常。そんなのわかってここに居る。


「ならば、後悔するまで痛めつければ……そう、テルシアが受けた痛みと屈辱と同じ分だけ苦しめば考えを改めて頂けますかな」

「なんだ、俺の全身を縛り付けてケツを掘りながら心臓に杭を打ち込んでみたいのか?」

「どこまでも口汚い」


 再びの蹴り、さすがの俺もその程度は止める。動きが見えてない訳じゃない。さっきの蹴りはトリッキーな動きに翻弄されただけ。

 素直に飛んでくる拳や蹴りなら、この目、この体は人間には負けはしない。


「随分手加減してくれてるようだが、剣はもう使わないのか? さすがに殴り合いくらいには対応でき——ィ!?」


 単純な向かい合っての格闘。その程度ならアスティに仕込まれていると油断したところを狙われる。右ストレートに合わせて裏拳で振り払って懐に飛び込もうかとしたのを寸止めでスカされて、開き切った体に鞭のように撓った右足が脇腹に突き刺さる。下手に数手打ち合えたからと調子に乗ったところに完璧なフェイント。経験値の差はさすがに大きい。


「私が剣を使っていれば、もう何度死んでいたか考えてみましたか?」

「今のところ一度も死んでないから零だな。タラレバなんかに意味なんてないよ」

「不思議ですね、話しているだけでここまで不愉快になる相手が存在するとは。テルシアからはここまで酷いとは聞いていませんでした」


 そりゃ不愉快だろうさ。

 誰もが分かっていても直視できない闇。どれだけの努力と犠牲と挫折を積み重ねたのかも一切考慮しない、正しい事実だけを並べ立てる卑怯者の暴力。"正論"とかいうこの世で最も気持ちの悪い、弱者の最終兵器。感情も感傷も痛みも苦しみも踏み躙って勝者になれるクソチート。

 誰もが大人になる過程で軽はずみに振り翳して良いものではないと引っ込めるそれを、平気でぶち撒けられる精神異常者の相手をするのがどれだけ苦痛か。大嫌いだからこそよく分かる。


「生きて会えたらもう一度聞いてみたらいいさ。ゴブリンに犯されながら死ぬのは気持ちよかったかってな」


 よく分かっているから煽る。

 そうでもしなければ、ヴァルメルトに付けられた呪縛は解けやしないだろう?

 俺を殺す覚悟を決めろ。それまで幾らでもお前を罵って、功績に泥を塗りたくって、命を賭けた仲間も失った故郷も馬鹿にし続けてやる。


「挑発が随分と安くなってきたようで」


 どこまでも平坦に、冷静な言葉と共に叩きつけられる拳。筋肉が隆起し血管がはち切れそうな程に浮き上がったそれに何度も殴られる度に、この男の中で燃え上がる怒りをこの身で受け止める。


 痛いで済んでいるのも、顔以外から出血していないのもコアちゃんが作ってくれた装備のおかげ、だから俺はまだ耐えられる。


「そりゃ、お前が手加減してる間に毒竜はとっくに向かわせたからな。まさかとは思うが、ダンジョンの入口がひとつだけだと思っちゃいないよな?」


 プリムスの拳がピタリと止まる。


「今から追っかけてもお前らがダンジョンを出られる頃には手遅れだ。だが俺は優しいから一つ解決方法を教えてやろう。俺を殺せばダンジョンは崩壊する。今すぐ毒竜に追いつけるぜ?」


 さあ、いい加減てめえのクビに絡まった鎖を断ち切って見せろよ元英雄。

 本当に守りたいものがあるのなら、魔王を殺せ。

 鎖を断ち切った、本気のお前の剣を越えてやる。

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