128.Boys & The Petty Knife
ダンジョンによる北部侵攻。
本来の目的はダンジョン侵略のために徴兵される民間人を減らすこと。ついでに人間相手に繁殖可能なモンスターズの苗床集め。
他にも食糧やら衣類やら使えそうなものはかき集めさせたがそれは今は関係ない。
なんだかんだと敵の進行が遅れたおかげでおよそ一ヶ月続いたモンスターによる北部侵攻。俺は魔王として、モンスターたちにはそれぞれ褒美を出している。
遠征部隊に組み込まれたのは殆どが低層のモンスターということもあり、大抵は女を与えておけばそれで良かった。一部、スケルトンやイビルアイなどはどうしたものかと思ったが、殺した人間の骨や目玉を渡してみたらごまかせた。
しかし、どうしても何を渡せば喜ぶかわからない連中もいる。例えばそう、コボルド。
あいつらには低層を任せて長いが、遠征に出ない留守番組が何をしているかと言えば、何もしていない。基本的にはダンジョンの中を駆け回って遊んでいるか寝ている。二足歩行も可能だが、前足は前足。手ではなくて肉球。やらせることもないし、仲間内でヤレるので人間とヤラせる必要もない。
では、こいつらに渡す褒美は何がいいか。
迷った結果、雑用のために残した男のガキを与えてみた。
結果どうなったか。
コボルドたちは犬らしく、新たな群れの下僕としてそれなりに丁重に扱った。
例えば、コボルドが鬼の鬼ごっこで遊んでやったり、ガキが命令を聞かなければ躾けたり。
お手やチンチンの仕方まで仕込んでいた。それを仕込んで誰の前で見せる気なのか。
とにかくまあ、コボルドはガキを殺すでもなく遊びの玩具として殺さず面倒を見ていた。
だからちょうど良かった。
現在の昏き霧の森はコアちゃんが霧をコントロールしていること、木々の配置を好きに弄れることから、以前とは少し姿を変えている。
イアンが冒険者に残した痕跡を消した訳だ。そして、霧だらけの天然(養殖)の迷路を抜けてこなければダンジョンには辿り着けない。
その代わり、一度ダンジョン前に辿り着けば入口周辺は霧が晴れて見通しが良くなっている。
そこに遠征部隊が手に入れた人間の物資を利用してテントを張ったり、まるで以前やってきた冒険者たちの拠点が残っているかのように、お客様の待機場を作ってある。
あとは適当に俺の部屋にあるのと似た檻をいくつか設置して、ガキを中に入れておき、コボルドは下僕であるガキを檻の外から監視する。
するとどうなるか。
「きゃうんきゃうん!」
霧を抜けてようやく辿り着いた兵隊たちがコボルドを切り捨てる。生き残ったコボルドは檻の周囲に集まり、ガキを守ろうと立ち塞がる。
人間側から見たそれは、攫ってきたガキを人間に助けられるのを妨げているようにしか映らない。
「このクソ犬共が。子供を拉致してこんな檻に閉じ込めるなんて!!」
最初に霧を抜けてきた連中の殆どはどいつもこいつも具合の悪そうな顔色をしていたり、体のどこかを負傷して血の染みた汚い包帯を巻いているような連中だった。
少なくとも装備からして騎士ではない。徴兵された民兵か、職業軍人か。
「わんわん! わんわん!」
「うるせえ! 子供たちを返しやがれ!」
コボルドたちはダンジョンの入口前の広場を駆け回る。ダンジョン立ち上げの頃、ニワトリや三尾狼と出会したときを思い出す。
そしてコボルドたちはその頃と変わらず弱い。
弱いからすぐに追いつかれて殺される。
外に出しておいたコボルドの群れはあっさりと狩られ、檻に入れられたガキ共だけが残る。
兵たちは檻からガキを解放する方法を探すために、入口前広場の拠点跡を調査する。
「おい、檻の鍵は見つかったか?」
「まだだ。それにしても、ここはなんだ? 前に攻略にきた連中が使ったキャンプが残ってたのか? どこも人っこ一人いないが、あまり汚れていないしここは拠点にできるぞ。敵もコボルド以外には見当たらないし、それも全て排除できた」
「そうだな。前のモンスターの奇襲で怪我人が増えすぎた。ここが使えるなら、怪我人を休ませられる。拠点として使えないか、うちの指揮官に確認してみよう。お前らは檻の鍵を探しながら危険がないか調査を続けてくれ」
「おう。後は……奇襲の後に分かれた後続の伯爵様と騎士様たちの判断次第だが、俺たちは俺たちのやれることをしよう」
会話を盗み聞く様子だと、シスターたちの奇襲によって被害を受けたフレイズ伯爵軍は先見部隊と本体とを分けたようだ。
シスターの報告では四桁は確定、五桁まで処理できたかは不明との報告だったが……伯爵軍に警戒される程度には被害が出たのは間違いがないようだ。
それからしばらくして、先見部隊は周辺の安全を確認する。先見部隊の指揮官は、本隊到着までダンジョンには入らずキャンプをすることを決めた。ガキ共の鍵は結局見つからず、天賦の才能持ちが檻を破壊することが決まり、中にいるガキ共に身を屈めてじっとしているようにと声をかけ励ましている。
ダンジョンを脅迫して俺たちを支配下に置き他国と戦争をしようとしている割には、まともな行いもするものだと感心する。
「じゃあ、やるぞ。こどもたちは怖いかも知らないがじっとしていてくれよ。すぐにそこから出してやるからな」
檻の前に立つのは普通の剣よりもやや幅広で長く、グレートソードと呼ばれるものに似ている剣を持った男。
その男がガキ共を助けるのを周囲で固唾を飲んで見守る兵士たち。
グレートソードが淡く輝き、刃に青い炎が燃え盛る。魔法剣というやつだろうか。ちょっとかっこいい。あとで練習してみようかと思う。
そんなことを考えながら、席をテルシアの隣に移した俺は、コアちゃんが映し出すスクリーン越しにその映像を眺めていた。
「コアちゃん」
「はーい。ポチッとね」
実際にボタンがあるわけではないが、コアちゃんの謎スピーカーからボタンを押したようなポチッとした小気味いい音が鳴る。
入口前広場の地面が抜けて、檻を中心にキャンプ地一帯が落とし穴に飲み込まれる。
スクリーン越しに聞こえるのは悲鳴というより、何が起こったのかもわからず「はっ?」と息を吐くような声ばかり。
「今の罠ね、ダンジョンが生まれたての頃にコボルドたちと一緒に考えたんだよ」
「ダンジョンの入口の外に落とし穴なんてあまりにも非人道的じゃないかしら」
スクリーンを指差しながら仕組みを説明してやると、テルシアが引き攣った微笑みを浮かべる。
「いやー、本当は堀にするつもりだったんだよ。でもあの時は人手が足りなくてね。その頃の貧乏性っていうのかな、節約するために増えたコボルドに穴を掘らせてたらとんでもないことになってさ」
「あの子たちは穴を掘るのが大好きだからねー、シノミヤが最初に教えてくれた遊びだから」
「その言い方は語弊があるよコアちゃん。俺は遊びじゃなくて仕事として頼んだんだよ」
スクリーンに映った大穴。
いつかのうさぎを仕留めた砂遊び程度のそれとは比較にならない深さ十メートル級。穴の底には勿論、殺傷力のある剣山。落ちた全員串刺し。
「蓋閉めてもう一回やる?」
コアちゃんの提案に少し考える。
コボルドはいくらでもいるし、オスガキなんて別に死んでも構わない。今回みたいにすぐ死んでDPになってくれてもいいし、救助されて敵さんの足手纏いになってくれてもいい。
問題は、先見部隊が丸ごと消えたのに後続が引っかかってくれるかどうか。
「ま、侵入者が来てからじゃ弄れないし、後一回くらいは試してみようか。穴を塞いでテントの貼り直しお願いできる?」
「こんなことくらい、階層追加に比べれば簡単よ! 私に任せなさいな!」
敷地内で人がたくさん死ぬのを見て久しぶりに楽しそうにしているコアちゃん。
最近は敷地外での殺人ばかりだったからDPにならなくて不満げだったし調子が戻って何よりだ。
「うちはこんな感じで、試行錯誤しながら弱いモンスターや人質を使い捨てて人間を殺していく経営方針なんだ。嘘偽りのないダンジョンの実情ってやつさ、うちのダンジョンが本当に伯爵軍三万……はもういないんだっけ? まあ、二万か三万に勝つところをその目で見ていてくれよ。俺は不都合な真実を隠さない。ありったけの力とやり方を全部見せてやる」
「たかが数十人、先遣隊の一部を騙し討ちしただけじゃない。こんなの私なら騙し討ちなんかしなくても一人で倒せるわ」
「そりゃできるんだろう。俺にだってできるさ。やろうと思えば正直一万程度なら焼き殺せる。だけどそれじゃダンジョンは成長しないんだ。魔王が何もせずともシステムだけで全て倒せるのが理想。それを追求するのが俺の役目ってわけ」
「よくわからないわ。それだけの力が本当にあるなら、その力で領都を滅ぼすことだってできたのではなくて?」
「そんなことをする必要がないからな。必要のない戦争なんてするだけ無駄だ。テルシアはそう思わないのか?」
なんてことのない雑談。
まだダンジョンの内部にも入られていない、前座を眺めながら、テルシアはまたここではない何処かへと目を向けていた。
——『必要なら殺しはしないでしょう。不必要だから殺すのよ』
——『私にとって、戦争なんか必要なかった』
無知で愚かで自分の殻に閉じこもって世間を何も知らなかったせいで招いた殺戮への加担。
同胞を裏切り、穢れた体。
自分に向けられる瞳と飴玉と引き換えに、大好きだったお父さんとお母さんの娘をやめた。
こんな汚い心と体で、これ以上思い出を汚さぬように。
今再び現れた、テルシア・ルビーの目を見つめて笑みを浮かべて裏切りを囁く男。
天陽を恐れもせずに地上を踏み躙る魔王。
揺れていいはずがない。
この魔王はアルヴァリア人とはいえ、平気で子供を殺した。仲間さえも捨て駒として扱っている。こんな男を信用して祖国を預ける? ふざけた話だ。騙されるのは二度とご免だ。
「お、サキュバスシスターズの同時視聴配信が始まってるじゃん!」
スクリーンの隅っこにポップアップしたコアch.の人気配信者サキュバスシスターズ。
実際には姉妹でもなんでもないが、配信者としての設定だ。ちなみに二人の名前はアイガーとミニョル。二人合わせて『#アイガミ!』や『#あいがみのる』というタグがファンの間で派閥闘争を産んでいる。ちなみに俺は『#あいがみのる』派である。
『ついに始まりましたね! 爪痕のダンジョン第零階層 昏き霧の森防衛戦! 初めてのDP獲得者はなんとコボルドちゃんたちでした〜!』
『まさかファーストブラッドがコボルドたちなんてビックリだね! しかもコボルドたち、今度は森の中で男の子と追いかけっこを始めたよ! 何をするのかな!?』
『見てみて、ミニョ! 男の子が逃げてく先の地面! よく見たら落葉に隠れて土の中にスライムが混ざっているわ!』
『本当だ! ってことはもしかして……』
『今度の作戦はアルコールスライムと油スライムとの合同作戦!?』
『アイちゃん見て! あっちの木の上にはゴブリンメイジが隠れてる! これ、絶対炎上しちゃう!』
『わぁ! 本当ね! コボルドが男の子を追い詰めてスライム沼で助けを呼ばせて、集まってきた人間を丸ごと燃やすつもりだわ! こんなの、絶対炎上しちゃう! 私たちは炎上には気をつけましょうね! ミニョ!』
『そうだね! アイちゃん!』
俺が解説をする必要もなく、森の中を進軍中の敵部隊の側で炎上作戦を開始したコボルドたちの手によって、十人規模の部隊が焼死する。
『三種族合同作戦大成功! ダンジョン第零階層防衛戦はまだまだ始まったばかりです!』
『男の子と弱小魔物の物語は楽しんで貰えてるかな!? それじゃあ次のモンスターに……』
『愛が実りますように!』
※あとがきのあるなろう版限定裏設定※
サキュバスシスターズ(配信上の姉妹設定)
アイガーとミニョル
アイガーはミニョルのことをミニョ(実際の発音的にはミニョー)の愛称で呼ぶ
ミニョルはアイガーをアイちゃんと呼ぶ
普段は二人はフィーニャの助手として魔法薬作りをしている。
その過程で媚薬を開発したり、瀕死のミリアの夢に介入して快楽的な夢を見せて苦痛を和らげたりもしている。
フィーニャやミエレの夢にも時々介入して悪戯をしており、フィーニャの異常性の一端を担っていたりもする。
魔法薬制作パートとサキュバスパートはネタは色々あったものの本編の進行具合との兼ね合いでかなり省かれているので、やっと動かせたキャラクター。
尚、コアちゃんねるにはメンバーシップとドネーションは実装されていないため、金で二人の好感度をあげようとしてもできない。




