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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<下> 二つの戦争 編

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124.魔王軍急襲部隊


 地上を駆け抜けるケンタウロスの群れ。そのケンタウロスの体には悪戯好きなフェアリーが張り付き馬の体毛に潜んでいる。

 魔王軍幹部アスティに率いられた一団は、廃墟を越えて昏き霧の森に近い荒れた街道を進む一本の長い線になって北方奪還と、ダンジョンを支配するために進む、フレイズ伯爵を殿とした軍列の横っ腹を食い破った。

 同時に、ケンタウロスの背から小さな蝶の羽が生えた小人たちがふわりと宙に浮かび、薄羽から思考能力を低下させる鱗粉を振り撒く。

 混乱し、取り乱す軍隊を振り向きもせずにケンタウロスが走り去っていく。その場に残ったフェアリーたちは混沌の中でも自我を保ち武器を手に取ることのできた者たちによって討ち取られていく。

 そうしてフレイズ伯爵軍が目の前を飛び回るフェアリーに気を取られたところを、空高くから忍び寄ったハーピィ部隊が凄まじい速度で滑空し、鋭い爪で肉を鎧ごと抉った。勢いの制御に失敗し、そのまま人間と衝突して圧死した個体もいた。

 モンスターの器用さにも個体差がある。性格の違いや得意不得意の違い。

 そんな失敗は、悪魔公爵令嬢の詠唱によって塗りつぶされる。

 空中に創り出された岩石が雨のように降り注ぐ。地上はあっという間に地獄と化した。

 まるで指揮系統を麻痺させるために狙ったかのように将校から死んでいく。ケンタウロスが去り、フェアリーとハーピィが数を減らすのに構うことなく軍列に飛び込んだアスティが巨大なハルバードを振れば鉄ごと人体が砕け散る。

 異様な戦闘力を持った特殊個体に次々と討ち取られる指揮官を護ろうと、何本もの剣や槍の穂先が同時に迫るがアスティはそれを回避はしない。ただ、ダンジョンコアとダンジョンマスターによって与えられた黒装束で受ける。ハルバードを盾代わりにする必要もない。斬撃も刺突もこの身に傷の一つも付けられない。

 これがお前たち人間が欲したダンジョンの力だと誇示するために、アステリノスは偉大なる武器と防具の性能を人間たちの目に焼き付けさせる。


 空からアスティの戦闘を援護していたシスターがケンタウロス部隊の転身を確認し、一際大きな岩石のつららをアスティの周囲を囲むように落とす。ケンタウロスの再突撃をアスティに知らせるための合図でしかないそれが、容易く三十人以上の命を葬ることに興味はない。

 アスティに合図を送ったならば、次は乱戦中の人間とフェアリーの最も集まる場所にさらに人間を誘導するために魔法の雨を降らせていく。

 遠く離れた場所から砂煙を上げて迫る人馬の群れがシスターの魔法によって集められた集団に衝突する。仲間のフェアリーのことなど一切考慮に入れない突撃。シスターによって地上に建てられた岩の柱に突撃の勢いで衝突して首が折れようと脚が曲がろうと関係ない。


「生きて戻るな。死んで戻れ、どうせお前らのダンジョンでの出番はまだ後だ」


 魔王の命令はここで死ぬこと。

 ダンジョンコアの願いは人類とこの世界そのものを滅ぼすこと。

 この漂着世界に囚われた星の数の魂と記憶を解放する最期のその時まで、この醜く歪められた肉体と存在が何度壊れようと取り返す。

 この漂着世界の存在全てを否定する。



 地上で戦っていたモンスターの殆どが死に、霞となって消えていく。ケンタウロスも、フェアリーもハーピィも全滅だ。

 ダンジョン第六階層以降のモンスターを投入した急襲作戦の成果は果たしてどれ程のものか……数えるのは難しい。三桁は軽く超えている。四桁には届いたのか、余裕で超えているのかまでは上空のシスターからも判断が付かない。

 地上には無数の岩と死体と血で穢れすぎている。

 幹部という役割を任され、悪魔公爵令嬢としての矜持はより正確な情報を求めるが、魔王にはアスティを連れて生きて帰れと言われている。


「シスターとアスティは絶対に死ぬなよ。死ねばいつ復活するかわからないんだから。計算のできないやつは作戦に組み込めない。この程度の作戦で生還できないなら、次の新人と入れ替えるからな」


 冷酷で正しい判断。

 計算外を考慮するなら、事前に殺して確かめれば良いものなのに、それをしない甘い過ち。

 フェルのように一度死ねば、きっと他の幹部も死ぬことと甦ることが前提で運用できるというのに。


「あんだけデカいベッド作らせといて夜に帰ってこないとかバカかよ。勿体無いから死ぬな。実験もしない。そんな暇があるなら抱かせろ」


 そう口には出すが、全員で寝るようになってからは滅多にそんなことはしてこない。

 ダンジョンコアが顔を出すようになったことも原因のひとつかも知れないが、あれやこれやと夜の報告会の間に気がつけば寝ている間抜けな王。



「遥か銀河の彼方、忘れ去られし記憶を喚べ。逃げ場なき円環、幾千の層を重ねし天蓋よ、万物を平らげ、等しく圧殺せよ——プラネット・フラグメント・アビス!!」


 

 地上が闇に覆われる。

 空中に突如として現れた天蓋——巨大な円形の岩盤——に人々を見守る天陽を閉ざされて。

 これまでのモンスターの突撃は、ただこの悪魔の魔法の前座でしかなかったのかという悪夢。

 天陽を塞がれた人々の目には、その絶望はただ深淵を覗き込んだかのような暗闇にしか見えなかった。

 巨大な闇が、とてつもない質量と重力を伴って世界に悲鳴を上げさせながら——墜ちる。



「あらあら、シスター様は無茶をしてくれるのです」


 人々を絶望させた闇を切り裂いたのもまた、悪魔と並ぶ怪物だった。


「ステラサンダーホーン」


 ハルバードを担いだ牛の怪物がその身に雷を宿す。頭からは雷の角が生え、その肉体は女の其れから本物の怪物に変化するように、雷霆がアスティの体の上から鎧のように獣の肉体を創り出した。


 怪物の姿が消える。

 天蓋が砕け散る。

 低く重い轟音と世界が切り裂かれる耳を劈くような超高音が爆発を引き起こす。

 雷霆は空へ。

 砕けた絶望は大地へ。


「津波」


 それを遠くから眺めていたテイルメイドが無意味にトライデントをくるくると回してから、有象無象へ向けて手を翳す。

 たったそれだけで、人の膝まで届く広大な北部の草原を洗い流す程の水が世界を侵食し、人間たちの機動力を奪い押し流していく。


「ここまで来たのに残念w 歩き直し……w」


 アスティとシスターが撤退するまでの時間稼ぎのためだけに消費される莫大な魔力が生み出した極大魔法。

 誰も見ていないのにポーズを決めたのはシチュエーションに拘るタイプのサメだから。


「撤退支援ありがとう、おかげで余計に戦果不明よ」

「みーんな流されちゃったのです。あれ、どこまで戻されるのです?」

「わかんないwww」


 戦闘で疲弊し傷を負った生き残りたちが、いつ終わるのかもわからない小波のようにしか見えない浅い水に何故か耐えることもできずに流されていく。

 たかが膝丈程度の水に浸かっただけで何故そうなるのかシスターとアスティは疑問を抱きつつも口には出さない。どうせこのサメは地上ではまともなことを喋らないと知っているから。


「さて、じゃ全員帰宅よ。夜になる前にお風呂を済ませて綺麗にしておかないと、魔王が癇癪を起こすわ」

「シスター様、飼い主様は綺麗好きなだけなのです」

「外から帰ってきてお風呂に入らないと花粉がつくって言ってたwww」




 魔王軍急襲部隊による戦果。

 魔王軍こそ把握していないその戦果は、実際には四千人の死者と、その倍以上の負傷者をフレイズ伯爵軍に齎していた。

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