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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<下> 二つの戦争 編

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117.破局


 ヒナト(廃墟)での魔王国独立宣言から、なんと一ヶ月以上が経過した。

 この間、人間によるダンジョン襲撃(レイド)は一度もなし。完全な肩透かし、想定外。そもそも戦争をふっかけて来たのは人間側の筈なのに何故、誰も来ないのか。ラグネルが来ないのはいい。あいつは時間稼ぎのためにわざわざ廃墟まで出向いて追い払った。だが、伯爵家の騎士団だの軍隊だの冒険者だのと言ったものが現れないのは納得がいかない。ホスピタリティの気持ちもそろそろ尽きてしまいそうだ。


「今日も客が来なかった。なんでだ?」

「ふふ。来客がないおかげであなたとゆっくり過ごすことができて嬉しいです」

「その"あなた"って呼び方やめてくれよ、フィーニャ。オークたちに殺される」

「……? オーク?」

「いや、忘れてくれ。それより作業の続きを頼むよ」

「はい、あなたのためなら喜んで」


 ここはダンジョンの十一階層。少し前にフィーニャとミエレ、それと手伝い兼監視役のサキュバスたちに薬を作らせるために用意した工房だ。この世界の文明や技術レベルを知らないので理科室みたいな殺風景な部屋。道具なども同様に理科室にありそうなものを用意してある。ガス以外は。魔法のある世界、しかもこのダンジョンは火には困らない。何せ俺を筆頭に火を起こせるモンスターはたくさんいる。

 俺がここにいるのは暇つぶし。隙があればサキュバスに手を出されたいと願って足繁く通っているのだが、その夢はまだ叶っていない。夢を見せてくれるのがサキュバスじゃないんですか!


 ……この工房は元は体調を崩したミリアの治療——と咄嗟についたテルシアへの嘘をごまかすための魔法薬研究の場で、フィーニャ以外にもミエレが作業を手伝っているが、ミエレは声が出ないので静かなものだ。時々手にした道具が机に擦れてことりと物音を立てる以外に存在感がない。

 フィーニャが俺に懐いている理由はよくわからんが多分、コアちゃんが合成したお薬の方の所為だと思われる。俺のことをダークエルフの父親だと思い込んでいるようだが、穴兄弟にはなっていない。


 ちなみに、この工房の隣にはフィーニャたちの寝室兼病室がある。ミリアはそこで寝ていて、頭のイカれたエルフの作る薬が本当に効果があるかを試す実験体になっている。かなりやつれてきているのでもう長くはないかもしれない。


「はぁ……サキュバスさんたちと遊びたい」

「それはダメなのですよ。母さまに見つかったら怒られるのです」

「怒られるくらいで済むなら構わないのに」


 性欲を我慢するよりコアちゃんに小言を言われることを我慢する方が余程いい。


「母さまの言いつけをアスティは破れないのです」

「指揮系統が明確でよろしいことだよ」


 アスティがここにいるのは俺のボディガード兼監視役。サキュバスに命令すれば俺はどんなことでもして貰えるはずなのにそれができない原因。

 アスティはこの一ヶ月、コアちゃんが前に言っていた通りに俺とグレイスに魔法なしの戦闘訓練をつけてくれている。つけてくれているというか、コアちゃん命令でやらされている。俺は別にもう二度と近接戦闘なんてするつもりはないというのに、アスティたち三人の幹部が戦闘に使うのと同じピチピチのアンダーウェアの上から鎧を着けて訓練をしている。鎧は銀鎧ではなく、山脈産のよくわからない黒い鉱物製になって俺は全身黒尽くめだ。銀色は目がチカチカするから嫌だと言ったらこうなったが、差し色くらいは欲しかった。全身真っ黒すぎてサメちゃんには多角的に冷笑された。あまりにも毎日別の角度から冷笑されるので一度、サメちゃんのシャークヘッドを燃やしてやったら翌日ハンマーヘッドシャークヘッドになっていて一本取られた。ハンマーヘッドシャークヘッドってなんだよ。


 他にこの一ヶ月の動きといえば、第八階層の森と草原フロアが完成してケンタウロスを主力に新たなモンスターを数種類揃えた。このケンタウロスたちは、敵の騎兵の規模によってはダンジョンの外でぶつけることも想定している。とはいえ、数はあまりいない。DPの余裕が無いからだ。

 シスターを指揮官として、ダンジョンの外の活動も継続している。いちいち俺が指示を出したり班分けを考えなくても、シスターが毎日勝手に遠征部隊を運用してくれるのも俺の手が空いて訓練漬けにされる原因かもしれない。

 何もしなくても良いように幹部を用意したのに訓練のせいで毎日疲れている。おかしい。


 遠征部隊たちは毎日外に出て村を見つけては襲ったり盗んだり攫ったりをさせているのだが……日が経つにつれて成果は減っていく。北部の人間たちが南に避難しているのもあるが、フェルなしで行き来できる範囲の人間を取り尽くしたようで、今は余り物の食糧や衣服、その他使えそうな物があれば持ち帰らせるようにしている。

 現在、百人以上の人間を飼育しているのでそれの維持管理のためだ。


 この人間たちは今は第十階層にまとめて閉じ込めてある。第九階層は第六階層から第八階層までのフロアを統合した島のような作りにしている。モンスターも同じく六から八階層までに出現するモンスターの混成だ。

 DP節約のためにどのくらいで呼べるか分かっている既存モンスターたちを召喚しただけで、完璧とは呼べない。とはいえ、六階層より上のモンスターはそれより下の階層のモンスターとは強さの格が違うのであまり心配していない。そもそもが第七階層の水没フロアを越えられる人間がいるのか疑問だし。


 最後にフェル、こいつだけはマジで意味がわからない。全然帰ってこない。正確には一度だけ帰って来た。多分人間に殺されたようだが、何故か船を寄越せとやたらと煩かったので、仕方なしに船を取り付けてやったら何処かへ消えて戻ってこない。戻って来て欲しいかと言われると顔も見たくないのだが、戦力的には必要だというのに戻ってこない。普段あれだけパパパパ言っておいて、出て行ったっきり。息子——かどうかは知らないが——なんてこんなものかと溜息が出る。親不孝者め。


「おぎゃあ、おぎゃあ」

「あー、ダルクー、泣くな泣くな。よしよーし、ほーら高いたかーい」

「ふふ、あなたったら、すっかりダルクのあやし方が板についてきましたね」


 働くフィーニャを眺めながら、暇だからと抱いていたダークエルフの赤子(ダルク)が泣き始めるのをあやす。

 別に可愛がっている訳でも父親面したい訳でもない。オークからフィーニャを取り上げたときにめっちゃ怖い顔と荒い鼻息で囲まれてビビったから世話をしているだけだ。


「ミエレ、代わって」

「……」


 とは言っても、抱いてやるのは静かなときだけ。起きて泣いている赤ん坊の面倒まで見る気はない。

 無口女にダルクを引き渡して解放される。腕が少し怠くて肩が凝る。

 ダルクに関してはオークの種とは思えない程に人間らしい見た目をしている。人間といっても妖精種のエルフだが——そういうことではなく、モンスターという感覚にはならない見た目。

 だから、うっかり落として死なせてしまったら本当にリスポーンするのかと考えてしまう。

 何が言いたいかというと、気分が悪い。別に死んでもいい存在のくせに、復活しなかったら大損した気持ちになりそうで嫌だ。レア種族っぽいし。


「ダルクも起きちゃったし、俺らは帰るか」

「はいなのです。今日もお疲れ様でした」

「あなた……行ってしまうの?」

「ああ、悪いな」

「寂しい……と言ったらわがままになってしまいますね……」

「どうせ暇だからまた明日くるさ。ほら薬だ」

「ああ……! ありがとうございます! あなたからの贈り物、とっても嬉しいわ!」


 手渡した白い粉の入った袋を受け取ったフィーニャの顔が綻ぶ。どうせ寂しいなんて感情ももう忘れているのだろうし、明日本当に会いに来るつもりもない。客が来るまでの暇つぶし。

 長く望んだはずの平穏が気色悪い。


「やっぱり人間相手は性に合わないな」

「それなら、今夜はアスティがお付き合いするのですよ!」

「サキュバスさんが一緒はダメ?」

「うぅー困らせないで欲しいのですぅ」

「冗談だよ。さすがにあの寝室に呼んだら怒られそうだ」


 あの日以来、結局魔王城の寝室は夜の幹部会の会場になってしまった。眠る前のピロートークが仕事の報告会。戦争なんて、始まるのならとっとと始まってさっさと終わりにしたいものだ。爛れた生活に恋してしまいそうになる。


 ——だから、テルシアとアルヴァリア王国北部軍がようやく現れた時には殺し合いが始まるというのに、安心して胸が高鳴ってしまったんだろう。

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