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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<上> Shapeshifter 編

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102.魔王国独立宣言


 瓦礫となっても滅亡前と変わらず広がるヒナトの土地の上空に生み出された、街と同規模の赫灼の炎は歪な球体となって蠢いている。

 新たな段階に達した魔法の制御は生半可なものではない。

 うっかり気を散らせば空中に止まらせることができなくなって落ちそうだ。


「それにしてもまあ……なんというか素直な人間たちだな、お前ら」

「あぁん? てめぇ、その極大魔法で脅せば俺を止められるとでも思ってんのか? その炎、落とせばお前だって燃えカスだろうがよ」

「ちょっと笑わせようとするのやめてよ、集中してないと本当に落としちゃうから」


 いい歳した大人がこんな子供騙しに引っかかるんじゃないよ。

 あと、なんか知らんが多分俺は火には耐性がある。自分の魔法に何度か巻き込まれているけれど、それで自傷したことはない。


「てめぇに自殺願望があるなら、俺が殺したって問題ねぇってことだろうがよ——」

「動く前に後ろを振り返ることをおすすめするが?」

「——ぁあ? な、いつの間にっ!?」

「うむぅっ……ふぐっ……うぅ……」


 無理な理屈で人のことを殺そうだなんて宣う間抜けがようやく気づいた。

 ミスディレクション。素人にもできる手品の基本のき。ド派手な演出に釣られて上を見上げりゃあ、自分も敵も見失う。

 グレイスには"存在希釈"と"陰影"とかいう拾い食いした能力がある。レイとか呼ばれていた女騎士は背後から現れたグレイスに口を封じられ、喉元にもう片方の手の爪を突きつけられている。人間の肉なんて容易く切り刻む鉄のように硬く、剣のように鋭い刃だ。もはやあの女騎士は動くこともできないだろう。


「なんつったっけな、ああ……そうだそうそう、イアン・マクセル。たった一人で盗賊に攫われた娘を助けに向かい、仲間に裏切られてダンジョンの罠に掛かって死にかけた男の最期の言葉。自分を見捨てた冒険者ギルドに対する恨み辛みを聞かされてうんざりしたなぁ。そこのグールが能力ごと喰ってやらなきゃ、ヒナトのギルドに化けて出るところだったぜ?」


 捏造(フェイク)はったり(ブラフ)、気持ちばかりの真実を混ぜてプレゼント。


「バルザーク、そういや聞き覚えのある名前だ。お前、ひょっとしてイアンとフィーニャを無駄死にさせた無能のギルドマスターか?」

「…………」

「さっきの威勢はどうしたよ? どうせあの魔法が落ちればお前もその女騎士も死ぬのは変わらないだろう。それともなんだ? イアンや多勢の冒険者は見殺しにできてもその女は死なせたくないとでも? おいおい、ヤリたい女だけ助けるなんて、男らしいところもあるもんだ」

「ぶ……」

「ぶ? ぶち殺したいか?」

「……侮辱は、やめてくれ。俺ぁ何と言われようが構わない。これ以上……俺の仲間を冒涜するのはやめてくれっ!」


 あー、そっちのタイプか。てっきりもう少し食い下がるかと思ったがそこにラインがある感じね。他人の生き様死に様を背負おうだなんて、こんなやつが同じマスターを名乗っているとは情けない。


「イアンを見捨てたのは間違いなく俺だ。フィニャセラたちを死なせたのも、ヒナトの冒険者を死なせて街も守れなかった糞野郎が俺だ! 俺が悪かったんだ。俺の過ち、俺の罪。だから俺はせめて死んだ奴らの誇りだけは守らなきゃならねぇ。俺の仲間も殺させねぇ。望みはなんだ……それは俺の命でどれだけ支払える」

「むぐぅ!? うぅぅっ!」

「グレイス、しっかり口押さえとけ」

「ぐうっ!」


 まだ想定よりも早いのだが……折れるのが早かった。見積もりを過大評価してたかな。


「別にあんたにここで死んで貰うことになんの価値もないんだよ。死ぬならダンジョンで死ね」

「ダンジョン攻略を止めに来たんじゃあねぇってのか?」

「最初から言ってるだろ。ここに来たのは遊びだよ。誰も殺す気なんかない、こんなところで死なれて俺に何の得がある? あんたが思ってるよりあんたの命に価値なんざねーよ」

「……ならば何をしに来た」


 一応もう一度煽ってみたけれど乗ってこないか。イアンを捨てたのも、鹿を追っかけてって仲間を全滅させたって話をテルシアから聞いた時にも少しは期待をしたんだが。思った以上にもう壊れていたか。


「何、単純なことだよ。伝えたいことがひとつあってね。ああ、その前にラグネルはまだ生きてるか?」

「今は薬で眠らせてる。最低限の治療しか出来ちゃいねぇよ。すぐに医者のいる街まで運ばねば長くは保たん」


 おっと、それは困る。だったらさっさとラグネルが死ぬ前にその街とやらに連れて行って貰わなければ。死んで生き返られたら意味がない。

 ラグネルには死なない程度の怪我をしてしばらくどっかに引っ込んでて貰わないと。


「そうか」

「何故フレイズのガキを気にする? 殺す気で罠にハメたんじゃないのかよ」

「まさか、たかがローパーに殺されるようなやつじゃないだろ」


 ローパージュニアには何度もしつこく「俺が負わされた傷と同じように痛めつけろ」と命令したってのに、手足と腹に穴は開けたようだが、見たところ腕は繋がっている。始めから殺す気まではなかったとはいえ、あの触手だらけのローパー五体にやられて手足が全部繋がってるってことは、受ける箇所を選んだのだろう。化け物め。


「ふぅ、とりあえず魔法はもういいか。抵抗する気はないんだろう?」

「てめぇが信じるのならな」

「信じはしないが、元々これも遊びなんでね」


 新しい魔法のテスト。

 そして新しい作戦のテスト。

 どちらもそろそろいいだろう。空中に維持したままの魔法を詠唱破棄(スペルブレイク)し、巨大な炎を消去する。


「ダンジョンマスターってのはどいつもてめぇみたいな手を使うのか」

「さぁ? 生憎俺は新米(ルーキー)ダンジョンマスターなものでね。それよりバルザーク、命の使い道を探しているならいつまでもそんな武装をしてないでそこに転がってる奴を背負えよ。急ぐんだろ?」


 さっきからずっと地面に転がって黙ってやがると思ったら居眠りこいてる金髪を顎でしゃくって示す。


「武器と盾は放棄する。レイにも武装を解かせる。殺しに来たのでないならそっちも解放してくれれば有難い」

「礼を言われる筋合いはないから気にするな」

「……そういう意味じゃあないのは分かってんだろう?」

「そっちよりは分かっているさ、何せ俺の思うがままだ」


 この場の主導権も決定権もこちらは一度だって手放しちゃいない。


「レイを返す気がねぇってのか?」

「ちょうどオークの子供を孕ませる腹を探してたんだ」

「むぐぅっ!?」

「さっきの俺の言葉を聞いてそれを言ってんのなら、さすがにそれは悪手だぜ魔王。そんな真似をレイにさせるくらいならば……俺がそのグールごと終わらせてやる」


 バルザークの目がちら、とバルザークの背後に立つグレイスとレイに向けられる。

 確かに、言われてみれば人間からしてみたらそういう考えもあるのか。

 モンスターに孕まされるより死んだ方がマシ。

 ちょっとその真っ当な感覚が足りなかったのは——ダンジョン生活でイカれ過ぎたか、最適化を進めた影響とやらか。


 ま、もうどっちでもいいけれど。


「なあ、バルザーク。さっきから空を飛んでる鳥の名前を知ってるか?」

「あぁ? ……鳥、ではねぇな。あれもてめぇの配下のモンスターかよ」

「あれはイビルアイだ。合図を送っている。特別に意味を教えてやるよ、もうすぐここに竜が来るぞ」


 なんだかんだと会話を引き延ばしている間に間に合ったようだ。遠くから近づいてくる地響きと「ゔぉぉぉぉ」という狂気の咆哮。


「ちっ。あの竜もダンジョンのモンスターか」

「ご名答! そして竜に続くのは五百匹のモンスターの群れ。さらに……南側からもやって来るがな」


 ミエレに擬態したローパーたちがヒナトに辿り着いたのは夕方前だ。やはり、俺たちの部隊が一番遅い。


「もぅ〜!! 突撃突撃突撃ですよー!!」


 牛乳女が瓦礫の山を飛び跳ねながらやってくる。


「合図の炎が見えたので急いで来たのです!」

「ありがとうアスティ。ところで、随分と汚れているようだけど」

「実はマンティコアの群れと出会ってしまったのです……」


 野生のマンティコアがいるとかやっぱこの世界の森おかしいだろ。マンティコアって前に調べた時はかなりの高級種だった気がするんだけど。


「でも、何体か始末したら話を聞いてくれたのですよ! 今頃は作戦通り南の街に向かって森を出て行ってくれたのです!」

「話の分かる相手で良かった?」

「マンティコアだと?」

「マンティコアさん以外にも蜘蛛さんとか色んな虫さんがいたのです! ……ところでおじさん誰なのです?」


 話の分かるマンティコアとかいう意味不明な響きに驚いている間にアスティとバルザークの睨み合いが始まっていた。

 よくわからんがアスティに怪我はなさそうだからまあいいか。


「ヴォォォォォォォ!! ゔぁゔぁぁぁぁぁ!!」

「目的地に到着! 全員警戒、ダンジョンマスターを守りなさい! 待たせたわね魔王、真打ち登場よ!!」


 瓦礫をさらに粉砕しながら地鳴らしと共に現れたのはフェルとモンスターズ。そしてその指揮を任せたシスターの登場だ。


 瓦礫の山の上で咆哮する腐敗の模造竜。

 おそらく拉致した人間と入れ替えでここまで走らされてきたのであろう疲労困憊のゴブリンやスケルトンにオークたちが俺の周りに集まって来る……なんか数が少ない?


「シスター、なんかスケルトンとオーク足りなくない?」

「足が遅いから着いてこられないのは殺してきたわ!」

「……そう」


 そんな酷いことしてきたの?

 だから俺の周りにいるスケルトンの膝が笑ってオークの鼻息がこんなに荒いの?

 ゴブリンとコボルドは……しんどそうだけどまだスケルトンとオークに比べたらマシか。

 全員顔色が悪いのは遅れた仲間がシスターに殺されたせいかな?

 おい、ゴブリン。命令したのは俺じゃないぞ、俺を睨むのはやめろ。違うから、ガチで違うから。俺は今日中に済ませろとは言っただけで……あれ、俺のせいなのか?


「はっ、わざわざこんな老耄を嘲笑うためにこれだけの手下を連れてきた訳だ。随分いい趣味してんなぁ? 金玉が小さそうだ」

「竿がでかけりゃ十分だろ」

「そんだけてめぇに固い芯があるとは思えねえがな」

「なんだと……? おいアスティ! 俺のは固さが足りないのか?」

「ふぇ!? こ、こんなところで答えないといけないのです!?」

「大事な話だ!」

「そこまで興味はねぇよ」

「俺が知りたい!」

「ふぇぇ……??? り、立派でかた……」

「アンタら何やってんのよ。ダラダラしてると荷物が死ぬわよ。生物(なまもの)無理矢理詰め込んでんだから、船が棺桶になる前にやること済ませて帰るのよ」


 空の上からシスターの罵声が降って来る。まさに見下されている感じ。悪いものじゃないがシスターの言う通り、でかいフェルの上にでかい船が乗ってるもんだから下からは見えないが船の積荷がお好み焼きになってしまう。


「バルザーク・ベルモンド。ヒナトの冒険者ギルドマスターとお見受けする」

「散々ひとのことを嗤っておいてなんのつもりだよ」

「俺は昏き霧の森(テネブラエ)と山脈の支配者にして爪痕のダンジョンマスター。フレイズ伯爵家及び、アルヴァリア王国に対し、我らは独立国家として宣戦布告する。フレイズ伯爵家は我らが魔王国の領土を侵している。直ちに北部からの撤退を要求する。既にこのヒナトも我らが壊し、勝利し奪った領土。不法滞在者の諸君には速やかに撤退して頂こう。バルザーク・ベルモンド、貴様にはこの宣言を冒険者ギルドのマスターとして、王国ギルド本部及び王国貴族諸侯に伝達する義務があると考えるがどうだ? そうだな……大人しく従うというのなら、そこの女騎士も見逃してやる。フレイズ領主の騎士ならば証人として生かす価値がある。勿論、そこに転がっている長男坊もだ」


 空には翼の生えた邪眼と悪魔が舞い、瓦礫の上から虚な竜の双眸が睥睨する。獣人(デミヒューマン)の群れを従える牛の怪人。騎士に刃を突きつける屍。息荒く唸る大小の邪妖精と骨に囲まれるは魔王。留守番中のサメを除けばほぼダンジョンの総戦力を持ち出したお戯れ。


「……伝言は承る。だが、貴様の命令に従うつもりもこの街を譲ってやるつもりもない」

「構わんよ、取り返したくば攻めて来い」

「最後に一つ訊く、あの竜の背に乗っているのは何だ?」

「我が国の領民(人質)だ。開拓には働き手が必要でね。しばらくはあれらにも仕事がある。心配するな、見殺しにするのはお前の仕事で役目だろう? 慣れてるはずだ」

「慣れて……だまるがよッ!!」

「——!!」


 激昂——を押し殺した男の咆哮が己の顎を砕いた勢いに気圧され、思わず息を呑む。


「がならずだずげるぞ……びどりでも……ごろぜばよゔじゃばじない」

「それ以上喋るのはやめておけ。伝言役に死なれたら意味がない。おい、グレイス! その女を離して治療させろ。アスティ、シスター、全員戦闘態勢で見送ってさしあげろ。妙な真似をするようなら全員殺せ」


 グレイスに解放されたレイがバルザークに寄り添うが、バルザークはそれを拒みラグネルを背負ってこちらに背を向けた。最後に向けられた敵意の籠った目を見れば、中折れしたかと思った爺の芯がおっ勃ってやがる。


「そこの騎士、その爺さんの覚悟に免じて武器と盾を持ち帰ることを許可する。さっさと消えろ」


 奮い立ってくれるのならそれも良し。そもそもがこちらは最初から攻められるのを迎え撃つのが前提だ。この先どれだけ犠牲者が出ようと、俺たちのダンジョンに抗うために地獄行きの船を漕ぐ船頭は多いに越したことはない。こちらは交渉のテーブルに着く用意はできたぜ、公爵閣下。



この話にて第二部<上>

Shapeshifter 編 終了となります。

明日から第二部<下>開始です。

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