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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書<上> Shapeshifter 編

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101.魔王降臨


 部隊を三つに分けた北部侵攻作戦。距離の問題で早朝から一番に動き出したのはシスターに預けたフェルと船に載せた五百匹のモンスターとイビルアイ。

 その次にダンジョンを発ったのはアスティたち——ではなく、俺たち。

 偽ラグネルの強襲から負傷し、ローパージュニアに世話になっている間に思いついたことがあった。ジュニアたちの父親であるMMは過去に俺の腕に擬態していたことがある。ならば、ジュニアたちをいくつかくっつけて人間に擬態させられないかというもの。

 そこにミエレという喋れない女はとても都合がよかった。ミエレを観察し、体の動き、思考の揺らぎ、反応。体の隅々まで時間をかけて調べていった。

 一度、ローパージュニアたちにミエレに擬態させたあとに服を着せてコアちゃんのところまでアスティの付き人として連れていったこともある。ダンジョンコアであるコアちゃんは配下のモンスターの気配を辿れるというのに、ローパージュニアたちはなんとも見事に化かしてみせた。コアちゃんは擬態を見破れなかったのだ。勿論、コアちゃんが単なるアホの可能性もある。


 そういう訳で、ジュニアたちにはミエレに擬態してヒナトを目指して貰ったのだが、いつ何処で接敵するかわからない。ジュニアたちにはミエレの歩幅で歩いて貰う必要があった。ヒナトまではどんなに急いでも半日、遅ければ一日掛かってしまう。だからこその二番手。

 とはいえ、アスティたちも俺たちのすぐ後には、森を荒らして獣やモンスターを南に押し込み森から追い出すために出発するように伝えてある。


 三つの部隊で最も移動に時間を要し、最も計算が立たないのが俺の部隊である。まあ、部隊とは言っても俺とグレイスにミエレに擬態したジュニア五体とイビルアイ五体だけなのだが。


「ローパー、シンダ」

「ラグネルは?」

「コロシテナイ、イキテル、セイコウ」

「そりゃあいい。掴まれ」

「……がぶがぶ」


 "存在希釈"で先行しヒナトに潜んでいたグレイスがミエレから離れて尾行していた俺の元に戻ってきた。

 ジュニアたちの奇襲が成功したと聞き、グレイスをお姫様のように抱き抱える。首に回された灰色の腕。首筋に突き立つ牙の甘噛み。誰がそんなくっつき方をしろと言ったよ。


「飛ぶぞ」


 出発の前、今回の作戦のために、反対するコアちゃんを説得して更なる最適化を施して貰った。

 DPがあるうちに完全強化しておきたかったのだが、コアちゃんからはこれまでの一、二パーセントの性能アップだけで制御しきれていないのにそんなことをすれば、動いた拍子に壁にぶつかって潰れて死ぬと言われたので三十パーセント程の適合で済ませることにした。

 そして俺はこの特製ボディの次の可能性を知っていた。白い雄鹿との戦闘の時に覚えた空を滑る感覚。

 飛び跳ねるのではなく飛行する手応え。


 一歩、二歩と前に進んで大地がめり込む程力を込めて空高く飛び上がる。摩擦。上昇するのにやはり空気抵抗がある。いったいこの世界の空気は何でできているんだか。それでも、飛べる。


 グレイスを抱え齧られたまま上昇しきった体で自由落下していく体に意識を向ける。前に進め、混沌の力で体の周囲の抵抗を歪める。鳥のようには羽ばたけない。静止もできなければ滞空もできない。飛ぶと行っても多少方向性を弄れる程度の弾道軌道。不器用、不慣れ、ガキの落書きのようなガタガタの線を空に刻む。


「こーれ思ったより高いなぁ。着地できるかなぁ」

「くすくす……シノミヤ、シヌ?」

「お前こんなときに笑顔見せんじゃないよ」


 そんな少女のように笑うところ初めて見たわ。

 本当に心の底から悍ましい。

 過去に捨てた未来の形。さっさと諦めて切り捨てた命。生きていたのならこんな風に——やっぱり過去はいつだって背中にへばり付いて隙を窺っている。これもひとつの走馬灯か。


「お断りだよ」


 ちょうどいいものが視界に映った。ちょいとした賭けだが上手く受け止めてくれよ。


「はじめましてだよクソジジイ」

「ぐっ……!! なんだテメェ!」

「ちょいと目立ついい足場を探してたんだ」


 空からでもよく見えた大楯に長距離飛び蹴り、というよりストンプ。見事に受け止められるが思ったよりも衝撃はない。こちらが頑丈になったか、相手の技量か。大楯に弾かれて宙で一回りしてから無事着地。


「貴様っ! 何者だ!!」

「テメェ、その抱えてんのは人間じゃあねぇな?」


 長槍の女騎士は声を荒げ、おっさん——実際に見てみると目尻や額の皺に重ねた齢は随分と多そうだ——が鋭い眼光でこちらを睨みつけている。


「同時に二人で質問するのはやめてくれ。でも今回だけは二つ同時に答えてやるよ、俺は爪痕のダンジョンの魔王(ダンジョンマスター)。引越しの挨拶が遅れたようですまないな」

「ダ、ダンジョンマスターだとっ!?」

「レイ、迂闊に動くな。お前はフレイズのガキが死なねぇように見てろ」

「しかし、バルザーク殿!」

「二度は言わせんなよ小娘。俺ァ引っ込んでろと言ったんだ」


 素早く長槍を構えた女騎士はレイというらしい。おっさんの方はバルザーク。うん、レイちゃんしか記憶に残らなそう。

 レイとは正反対に、大楯だけを身構えて戦鎚は未だに構えていないバルザーク。


「その様子だと引越しの贈り物は随分喜んで貰えたようで」

「ふざけたことを……あのローパーを寄越したのもテメェか。ならそっちの女も……ちっ、そっちは死人か」

「おお、よかったなグレイス。女扱いされてるぞ」

「ずぶ」


 痛ぁい! 抱きかかえたままなの忘れてた!

 牙が普通にぶっ刺さってる感触がする!

 今痛がる感じ出せないのにやめてよ!

 グレイス、降りろ、はやく降りろ、ええい、血を味わうな!


(グレイスちゃん、後で謝るから少しだけ降りてくれない?)

「ドゲザ」

(わかったから静かにしてて)


 くそ、耳元ASMRは聴く専門だった俺がまさか人生初の囁きボイスをグレイスに奪われるとは。でも降りてくれて助かった。痛い。


「死人とヤッてるところを見せにでも来たかよ、さすがゴブリンに混じって遊んでるだけあるなぁ、(ケツ)穴の緩そうな顔してやがる」


 え!? ゴブリンと!? なにその噂どこから広がって……まさかオウルボア界隈!? オウルボア界隈の方ですか!?

 いや待て、このおっさん森ではオウルボアを叩き潰してたから違うか……じゃあ、なんで?


「くすくす、シノミヤ、ゴブリン、ヤッテル」


 ヤッてないわ! 根に持ってたのかよ!

 つーかさっきから人がシリアスしようとしてる最中にどいつもこいつも尻の話をしてんじゃねーよ! 喋りづらいわ! あとシノミヤって言うな! こんな形でラグネルに嘘がバレたら恥ずかしいだろ! あいつには今度ちゃんと俺の名前を忘れていたことを詫びて貰わなきゃならない。


「生憎尻はヴァージンでね。ああ、ミエレとかいうやつは前も尻もヴァージンだったな」

「……殺されに来たってぇことで間違いねぇな?」

「アハハ、バカを言うなよ。お前らダンジョンが欲しいんだろ? 話は聞いたぜ、イアン・マクセル、ミリア・ミリオン、アッシュ、フィニャセラ。セレナにミエレ。ロニエールト・フレイズだったか? 情報が自分から歩いてやってきたんだ。ダンジョンマスターである俺を殺せばダンジョンも死ぬ。お前らには殺せないと分かってて遊びに来たのさ」

「殺す理由にゃ足りてるようだ」

「バルザーク殿っ!!」


 レイの静止も無視して飛び出したバルザークの戦鎚が振り下ろされる。弾けるような速度、空気の抵抗を押しつぶして火を吹きそうな勢いで迫る鎚。


「グァルルゥ」

「愛人を盾にするのか魔王っ!」

「そりゃそのためのモンスターだからな」

「どこまでも下劣なっ!!」


 バルザークの攻撃を防いだのはグレイス。見事に戦鎚を手のひらで受け止めている。

 それにしてもこいつ、躊躇なく攻撃してきたな。話の分かるタイプだとは思ったが、話が分かった上で無視ができるタイプか。


「さっきも言ったろ? 俺は遊びに来たんだ。マジになるなよ。サメに笑われるぞ」

「意味を知りたいとも思わんな——破壊要塞フォートレスバニッシャー

「ガルッ」


 戦鎚を押さえつけていたグレイスの腕が押し負ける。戦鎚が大地を叩くとその上に岩がせり上がりまるでバルザークを守護する小さな要塞が出来上がる。


「せぇいぁっ!!」


 そこにさらにバルザークの打撃が加われば、今度は要塞の壁が砕けて散弾のように襲いかかる。


「成程、実際の地形を変えているんじゃなくて魔法で生成しているものだったのか」

「てめぇもアレだけの蹴りをしといて魔法使いかよ」


 通りであれだけバルザークが暴れたというのに、ダンジョン前の広場はそこまで荒れていなかった訳だ。

 咄嗟に詠唱した黒紫の焔の壁で灼かれた岩の礫は溶けもせずに消えていく。


「そういや死体の処理にもお困りのようだが……手伝ってやろうか? ——罪蔡火葬(クラヴィヤードアグニ)


 魔法の詠唱(スペル)なんていつも適当だが、今回はなかなかいいイメージで創り出せた気がする。


「なんだその魔力の量は……」

「あ、あんなものが落ちれば街は消滅してしまう」


 バルザークが、レイが、ヒナトの空に浮かんだ炎を見上げで目を見開いた。

 ヒナトの上空には、ヒナトの街とそっくりそのまま同じ大きさの赫く蠢く炎の塊が浮かんでいた。

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