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対等じゃない善意

 朝の教室。


「なあ、今日の掃除当番さ」

「俺、部活あるんだけど、代わってくんない?」


 前の席の男子が、当然のように言った。


 昨日までなら、何も考えずに頷いていたかもしれない。

 でも今日は、違った。


「断る」


 一瞬、空気が止まる。


「は?」


「お前のためにならないからな」


 自分でも驚くほど、淡々とした声だった。


「当番は、当番だろ」

「自分でやれ」


 男子は、目を丸くしたあと、舌打ちをした。


「なんだよ……使えねぇヤツ」


 それだけ言って、椅子を蹴るようにして立ち去る。


 残された俺は、

 その言葉を、頭の中でゆっくり転がした。


(……使えない)


 ――ああ、そうか。


 俺は、人間として見られてなかったんだ。


 都合よく使えるか。

 言うことを聞くか。

 役に立つか。


 その基準で、判断されていただけだ。


(だから、徳にならなかったのか)


 助けたつもりで、

 善意のつもりで、

 代わっていただけなのに。


 それは「助け」じゃない。

 ただの「物扱い」だ。


(徳は、相手も、自分も、対等な位置にいないと成立しないんだ)


 殴るな。

 蹴るな。

 力を使うな。


 それだけでも厄介なのに、

 今度は「善意の使い方」まで考えろ、か。


 徳を積みたい。

 でも、徳を積もうとしてはいけない。


(どうしろって言うんだ)


 放課後。


 家に直帰する気になれず、

 俺は駅前のゲーセンに立ち寄った。


 騒音。

 光。

 人の気配。


 頭を空っぽにするには、ちょうどいい。


 ――そのとき。


「金出せって言ってんだろ」


 低い声。


 視線を向けると、

 筐体の陰で、同じクラスの男子が壁際に追い詰められていた。


 相手は二人。

 制服じゃない。

 明らかに、場慣れした動き。


(……面倒な場面だな)


 俺なら、どうとでもできる。


 一歩踏み出せば、

 一瞬で終わる。


 でも――


(助けるべきか?)

(見逃すべきか?)


 助ければ、暴力になる。

 見逃せば、見殺しだ。


 徳を積もうとしてはいけない。

 だが、何もしないのが正解とも限らない。


 拳を握りかけて、開く。


(……選べ)


 女神の声が、頭の奥で重なる。


 殴るな。

 逃げるな。

 考えろ。


 俺は、ゆっくりと息を吐いた。


 ――修行は、まだ続いている。



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