それでも、確かめたかった
戦いが終わってから、
しばらくが過ぎていた。
街には日常が戻っている。
市場の喧騒。
子どもたちの笑い声。
酒場で騒ぐ兵士たち。
守った世界だった。
城では、
聖は英雄として扱われていた。
広い部屋。
上等な服。
誰もが頭を下げる。
だが。
窓の外を見ながら、
聖は小さく息を吐く。
胸の奥に、
ぽっかり穴が空いたような感覚だけが残っていた。
戦いは終わった。
仲間も生きている。
それで、
十分なはずなのに。
「浮かない顔してんな」
背後から声がした。
振り向くと、
光一が立っていた。
「祝いの席、抜けてきた」
壁にもたれながら言う。
「英雄様がいないって、
皆探してたぞ」
聖は苦笑する。
「騒がれるの、苦手なんだよ」
沈黙。
光一は、短く聞く。
「で?」
聖は窓の外を見る。
しばらくして、言った。
「ずっと考えてた」
「何を」
少し間。
「現世に、
あのまま残ってたら」
声が落ちる。
「どうなってたのかって」
図書室の光。
並んで歩いた帰り道。
思い出すのは、
戦場じゃない時間ばかりだった。
光一は黙る。
そして言った。
「行ってこいよ」
聖は振り向く。
光一は続ける。
「ただし」
少し間。
「戻れなくても、文句言うなよ」
空気が変わる。
「女神の力で行けても、
戻れる保証なんかねぇだろ」
戦いのために呼ばれた存在。
用が終われば、
繋がりは消えてもおかしくない。
光一は肩をすくめる。
「世界、選べってことだろ」
沈黙。
聖は、ゆっくり息を吐いた。
この世界には、
仲間がいる。
守った街がある。
自分の居場所も、ある。
それでも。
胸の奥に残る引っかかりだけは、
消えない。
「……それでも」
小さく呟く。
「一回、確かめたい」
光一は、小さく笑う。
「やっとお前らしい顔したな」
そして言う。
「こっちは任せとけ」
静かな声だった。
聖は、ゆっくり頷く。
⸻
その夜。
静かな部屋で目を閉じる。
「……女神」
白い光が広がる。
女神が現れる。
『願いは』
聖は迷わなかった。
「現世に戻りたい」
沈黙。
女神は言う。
『戻れない可能性が高い』
短い宣告だった。
それでも。
聖は、頷く。
「……構わない」
光が、世界を包み込んだ。




