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帰る場所がある、それでも
放課後。
屋上には、いつもの風だけが吹いていた。
フェンスにもたれながら、
聖は空を見上げる。
光一が消えてから、
まだ一日も経っていない。
それなのに。
隣に誰もいないだけで、
妙に静かだった。
(……戻ったんだな)
あいつは、
迷わなかった。
合理的に考えて、
最短で帰還条件を満たして。
それで終わり。
それが、光一らしい。
だが。
自分は、まだここにいる。
帰る理由もある。
だが、
残る理由も、少しだけできてしまった。
フェンスの向こうで、
グラウンドから部活の声が聞こえる。
笑い声。
ボールの音。
戦場にはなかった音だ。
ふと、
昨日の光景が浮かぶ。
血を見て震えていた栞の手。
助けたはずなのに、
怯えられた視線。
それでも――
「……ありがとう」
あの声だけは、
嘘じゃなかった。
風が吹き抜ける。
聖は、小さく息を吐く。
(……帰る場所はある)
だが。
(ここで得たものも、消えない)
答えは、まだ出ない。
だが――
もうすぐ、
決めなければならない。
遠くで、
空が赤く染まり始めていた。




