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たまたま助けただけだった

放課後。


電車は、帰宅時間で混んでいた。


光一はドア横にもたれ、スマホを見ている。


(あと少しで条件達成)


残りは、軽い徳をいくつか積めばいい。


余計なことに関わる必要はない。


そのときだった。


「……やめてください」


小さな声。


視線を上げると、女子高生が男に挟まれていた。


満員電車。


逃げ場がない。


男の手が、明らかに不自然な位置にある。


(……面倒くせぇ)


関われば時間を取られる。


トラブルになる。


合理的じゃない。


次の駅で降りればいい。


だが。


女子高生の顔が、強張っている。


助けを求める声も出せない。


周囲は、見て見ぬふり。


(……)


ため息をつく。

ふと、聖の声がよぎった。


『役に立たなくてもいい世界で』

『役に立てるなら』

『……そっちの方が』

『楽なんだ』


(……意味わかんねぇけど)


体が先に動いていた。


男の手首を、軽く掴んだ。


「そいつ、俺の妹なんで」


低い声で言う。


男は慌てて手を引っ込めた。


「ち、違っ……」


「降りようか」


次の駅で、男を引きずり出す。


ホームで手を離すと、男は逃げるように去っていった。


女子高生は、震えたまま立っている。


「……大丈夫か」


小さく頷く。


「ありがとうございます……」


それだけ言って、頭を下げる。


光一は肩をすくめる。


「気にすんな」


電車のドアが閉まる。


ただ、それだけの出来事だった。



翌日。


家に帰ると、妹が騒いでいた。


「聞いてよ!」


光一は靴を脱ぎながら答える。


「何」


「今日さ、友達のお姉ちゃんが電車で痴漢にあってさ」


足が止まる。


「知らない男の人が助けてくれたんだって!」


妹は続ける。


「その人いなかったら、マジで怖かったって」


リビングから、母の声もする。


「良い人もいるもんねぇ」


妹が笑う。


「妹なんでって言って、助けてくれたらしいよ」


沈黙。


光一は、何も言わず自室へ向かった。


ドアを閉める。


ベッドに腰を下ろす。


(……あのときの女か)


ただ腕を掴んだだけだ。


三秒もかかっていない。


合理的に片付けただけ。


それなのに。


誰かの一日は、変わったらしい。


その瞬間。


白い光が部屋を満たした。


女神の声が響く。


『帰還条件、達成』


光一は顔をしかめる。


「……は?」


『合理以外の可能性を理解した』


静かな声。


『あなたの修行は終了です』


光が強くなる。


消える直前。


光一は、小さく呟いた。


「……あいつに、言ってねぇ」



屋上。


風が吹く。


聖の前に、光一が立っていた。


「俺、戻るわ」


突然だった。


聖は目を見開く。


「早いな」


「徳、足りた」


短く言う。


沈黙。


光一は、視線を逸らしたまま言う。


「……一個だけ、分かった」


間。


「合理的じゃねぇことでも」

「悪くない結果になることがある」


聖は黙って聞く。


光一は続ける。


「でも俺は、やっぱ合理的でいい」


軽く笑う。


「考えんの、面倒くせぇし」


光が足元から広がる。


消える直前。


「……先、行ってる」


そして、姿が消えた。


屋上には、風だけが残る。


聖は、空を見上げる。


(……光一)


帰る場所は、確かにある。


だが――


ここで得たものも、


確かに、消えていなかった。


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