表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

強さの代償

翌日。


教室の空気は、昨日とははっきり違っていた。


ざわめきはある。

笑い声もある。


ただ――


聖の席の周りだけ、

ぽっかりと空間が空いていた。


誰も近づかない。


視線だけが、時々向けられる。


すぐ逸らされる。


骨を折った。


それだけで、人は簡単に距離を取る。


(……当然か)


聖は、机に肘をつき、窓の外を見る。


向こうの世界なら、

あれで終わりだった。


敵を止め、

仲間を守った。


それで正解だった。


だがここでは、

違う。


守ったはずの相手すら、

怯えていた。


その光景が、頭に残っている。


昼休み。


教室を出ようとすると、

ドアの前で光一と目が合った。


「屋上」


それだけ言って、先に歩く。



屋上には風だけが吹いていた。


光一はフェンスにもたれ、

空を見ている。


「……で?」


振り向かずに言う。


「何がだ」


「クラス」


聖は短く答える。


「予想通りだ」


沈黙。


光一は小さく笑う。


「それがどうした」


ポケットに手を突っ込む。


「これでいいんだよ」


聖は黙ったまま聞く。


「強い奴ってのは」

「怖がられるもんだろ」


少し間。


「ここじゃ、な」


視線を向ける。


「でも向こうじゃ違う」


淡々と続ける。


「お前は英雄だ」


「嫌われようが」

「怖がられようが」

「守れる奴が正義だ」


風が強く吹く。


「だから、別にいいだろ」


肩をすくめる。


「さっさと徳積んで帰ろうぜ」


軽い口調で言う。


「俺たちの居場所は、最初からあっちなんだから」


聖は、すぐに返せなかった。


その通りだった。


間違っていない。


なのに――


胸の奥に、小さな引っかかりが残る。


「……ああ」


結局、それだけ言う。


光一は満足したように頷いた。


「あと少しだ」


「俺は、もうすぐ戻れる」


そう言って、屋上を後にする。



午後の授業。


隣の席の椅子が引かれる音がした。


視線を向けると、

栞が座る。


だが、以前と違った。


目を合わせない。


机の距離も、少しだけ遠い。


ノートを広げる手も、

どこかぎこちない。


少し間を置いて、聖は言う。


「……悪かったな」


栞の肩が、小さく跳ねた。


「え?」


「昨日」


それだけで通じたらしい。


しばらく沈黙が続く。


栞は、困ったように笑った。


「……ううん」


だが、視線は合わない。


「仕方ないよね」


小さく続ける。


「でも……」


言葉を探す。


「ちょっと、びっくりしただけ」


それ以上は言わなかった。


チャイムが鳴る。


栞は、それ以上何も言わず、

前を向いた。


以前みたいに、

くだらない話を振ってくることもない。


それだけで、十分だった。


(……そうか)


聖は、視線を落とす。


守ったつもりでも。


力は、

人を遠ざけることもある。


窓の外で、

風が木を揺らしていた。


帰る場所は、

本当に、あっちだけなのか。


まだ、答えは出なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ