課題は、俺だけ違っていた
気づけば、白い空間に立っていた。
音も、風もない。
ただ、女神だけがそこにいる。
『……失望した』
静かな声だった。
怒鳴っているわけでもない。
それなのに、胸の奥が冷える。
『力を使うなと言ったはずだ』
聖は黙ったまま立っている。
言い訳はできない。
止めるつもりだった。
だが結果は、骨折だった。
『あなたの力は、この世界では大きすぎる』
女神は続ける。
『戦場では問題にならない力も、
ここでは傷つく人間が多すぎる』
体育館裏の光景が浮かぶ。
折れた腕。
救急車。
怯えた目。
助けたはずの相手すら、
恐れていた。
『あなたは』
一瞬、間が空く。
『力を振るうことと、
正しさを同一視しすぎている』
図星だった。
守れるなら正しい。
勝てば正しい。
生き残れば、それでいい。
そうやって、生きてきた。
『だから、修行を与えた』
聖は顔を上げる。
女神は続ける。
『殴れば終わる場面で、
殴らない』
『力を使えば解決する状況で、
使わない』
『それが、あなたの課題だ』
沈黙。
だが、疑問が残った。
光一の顔が浮かぶ。
迷いなく合理を選ぶ男。
「……光一は」
気づけば口にしていた。
「同じ修行じゃないのか」
女神は首を振った。
『あれは、あれでいい』
短く答える。
『あれは、
合理以外の可能性を知ればいい』
それだけ。
だが――
『あなたは違う』
女神の視線が、まっすぐ向けられる。
『あなたは、
力を持ったまま、
生き方を変えなければならない』
言葉が、胸に落ちる。
光一より、
自分の方が強い。
元の世界でも。
戦場でも。
だから――
課題も違う。
リーダーだった自分が、
一番難しい修行を課されるのは、
当たり前なのかもしれない。
『力を捨てろとは言っていない』
女神は言う。
『持ったまま、選び方を変えなさい』
白い空間が、静かに揺らぐ。
『次は、失敗するな』
声が遠ざかる。
気づけば、屋上に戻っていた。
夜風が頬を撫でる。
聖は、ゆっくり拳を見る。
力は、まだそこにある。
だが――
(……光一と、俺は違う)
それだけは、はっきり分かった。
修行は、まだ終わらない。




