それでこそ、お前だと言われて
放課後。
騒ぎのあと、校舎裏は立ち入り禁止になっていた。
救急車の音も、生徒のざわめきも、
もう聞こえない。
残っているのは、
コンクリートの冷たい空気だけだった。
聖は壁にもたれたまま、
自分の手を見ていた。
ほんの少し力を込めただけ。
それだけで、
骨は折れた。
命に別状はない。
それなのに、学校中が大騒ぎだ。
(……弱すぎる)
この世界の人間は。
そう思った自分に、
違和感が残る。
「おい」
声がした。
光一だった。
ポケットに手を突っ込み、
いつも通りの顔で立っている。
「大騒ぎだな」
聖は答えない。
光一は倒れていた場所を一瞥して言う。
「ほらな」
壁にもたれる。
「三秒で終わっただろ」
沈黙。
「昨日みたいに殴られて終わり」
「今日また同じこと繰り返す」
「そっちの方が無駄だ」
淡々と言う。
感情はない。
事実を並べているだけだ。
「腕一本で済んだなら安いもんだ」
聖は視線を向ける。
「……安い?」
「向こうの世界なら死んでる」
即答だった。
「ここは甘いんだよ」
風が吹く。
光一は続ける。
「教師に怒られる」
「親が頭下げる」
肩をすくめる。
「そんなもん、帰れば終わりだ」
徳を積めば、
元の世界に戻る。
この世界の関係なんて、
一時的なものに過ぎない。
合理的だ。
間違っていない。
「それより」
光一は聖を見る。
「助けた奴、今日は殴られてねぇ」
沈黙。
「それでいいだろ」
聖は答えない。
光一は小さく笑う。
「女神も細けぇこと言うよな」
少し間。
「力持ってんのに使うなとか」
壁を蹴る。
「使えるもんは使えばいいんだよ」
光一は歩き出しかけて、
ふと足を止める。
振り向かずに言う。
「……それでこそ、お前だ」
静かな声だった。
「俺が知ってる聖は」
「誰よりも強い奴だった」
さらに一歩。
「強い奴は、強いままでいい」
ドアが閉まる。
静寂が戻る。
聖は、ゆっくり手を握る。
確かに、
今日のいじめは終わった。
だが――
胸の奥に残るのは、
勝った感覚じゃない。
ただ、
何かを、
間違えた気がしていた。
修行は、
まだ終わらない。




