魔力の鏡
やはり、と言うべきか、倒れている人々を調べれば皆、首に金色の輪をはめていた。
一応生きてはいるようだが、皆大分息が弱くなっている。このまま放っておくと危ないと判断して、リアは鏡から距離を置こうと一人ずつ動かしていった。
「うーん、ここから出せないの?」
扉の前まで行き、倒れていたうちの一人を抱えながら押しても、扉は開かなかった。
「えー、なんか閉じ込められてる?私単体だと……開くもんね」
一度地面に人を下ろして再度扉を押すと、あっさり扉は開いた。開いたままの扉からリアだけ出て、外から人を連れ出そうとしても、何かに阻まれるように人は外に出てこない。
首輪を外してみようと力を加えてみたが、全く外れる気配がない。というか、ぴったり首にはめられているため、指をねじ込む隙間すらない。
「こういうときに魔法なんだろうけど、ここで魔法使いたくないなぁ……あ!」
良いこと思いついた、と笑ったリアは、落ちていた魔石を拾い集めて、そこに魔力を注ぎ込んだ。
空っぽの透明な魔石が、どんどん魔力を貯めていく。色は変わらなかったが、それはリアの魔力の性質によるものだろう。
「よし、取り敢えずぜーんぶ入れられたっと。それじゃ、こっから魔力取ってって〜」
鏡に話しかけながら、周りに魔力を込めた魔石を置いていく。おいたそばから吸い取られていく魔力に、作戦が成功したことを知って思わずガッツポーズが出る。
その隙に、と倒れていた人々に魔力回復薬を与えて少しでも体調が回復するように祈った。
せめてこの首輪だけでも外せないかと思ったが、あまり強い力で外そうとすると頭まで外れてしまいそうだったので諦めた。
(回復には寝るのが一番だけど、そんなにしっかり休めるほど魔力持つかな?もうあの鏡壊しちゃったほうが良いんじゃない?)
あっという間に空になった魔石に魔力を込め直しながら、この状況をなんとかする方法を考える。
天がいれば、と考えないことも無かったが、流石に大人びているとはいえ未成年。リアが守れないかもしれないような危ないところには連れて行きたく無かった。
(でも、あんな魔道具見たことないもん。わんちゃん古代遺物だよ)
そう、随分と長い間旅をし、知恵を得てきたリアでも魔力を吸い取る鏡なんて見たことが無かった。かつて彼女も作ろうとしたことがあるが、鏡は魔力を弾く性質があるため魔法がかけられず、失敗に終わった。鏡を自分で作って魔法をかけられるようにしようと試みても、完成したら魔法が解けてしまう。こんな技術を持つのは、現在よりも遥かに優れた技術を持つと言われている古代の遺物に違いないと結論づけた。
古代遺物だったら是非とも手に入れたい、と思って宙から一つのランプを取り出した。もう魔法を使うのがどうとか言っていられない。人を助けるにも、自分が古代遺物と思われる鏡を手に入れるためにも、これが必要だった。
「よーし、あんまり使いたく無かったけど……。いくよ、のんびりちゃん!」
青い蝋燭の光が揺れて、漏れ出た炎がリアを包む。一瞬で炎は消え去ったが、青い光はキラキラと彼女に纏わりついていた。
あんまり連続して使うと疲れちゃうからね、と楽しそうに笑いながら鏡にランプを近付ける。
愚者の冠を捕まえるのにも役立った、リアが『のんびりちゃん』と呼ぶこれも古代遺物だ。正式名称は『怠惰の灯籠』。他の古代遺物や魔法の力を無効化させる効果がある。
鏡が魔力を吸い取っていることが魔法によって引き起こされていることだろうが、失われた技術の結晶のせいだろうが、最早関係はない。
怠惰の灯籠を近付ければ、鏡はピタリと魔力の吸収を止めた。その隙に、とリアが鏡を持ち上げる。自分よりも遥かに大きいものを軽々と担いで、それを宙に放り投げた。鏡はそのまま消えた。リアの作った空間に仕舞われたのだ。
鏡に繋がっていたケーブルのようなものは、千切れて天井から垂れ下がっている。
「ゲット!よし、天のところに戻ろーっと。……戻れるかな?」
そこらに転がる人々を見て、先程までの興奮はすっかり冷めたようで、いつも通りの真顔で首を傾げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなことをリアがやっている間、天はリアが水面に顔を出すのを待ちながら水辺を調べていた。
とは言っても、一本の石の道から水中を覗き込んで、魔力のあるものを探していただけではあるが。
それでも、そこそこの収穫はあった。しばらくじっと観察していると、一部、虹色の光が岩に伸びている部分を見つけた。十分手が届きそうな程浅い所だったため、服の裾を捲りあげて濡れないようにして、天はそこに手を伸ばした。
岩に手をつく。周りの部分はザラザラ、ゴツゴツとした普通の岩だったが、その虹色の光が伸びていた所は違った。見た目は巧妙に隠されていたが、やけに手触りが滑らかだったのだ。
その部分をぐっと押し込むと、ガコンと外れた。意外とあっさり開いたそこにそのまま手を突っ込むと、指先に何かが触れた。
殆ど反射でそれを掴み、引っ張り出す。岩の間に挟まるようにあったそれは、あっさりと引き抜かれた。
「……魔石?」
小さな擦り傷の出来た天の手に握られていたのは、翠色に染まりきった握りこぶしほどの大きさの魔石だった。丁寧に磨かれたように丸く、滑らかだ。
(ここまでの大きさは初めて見ましたね。何故こんなところに?)
その魔石をじっと見る。何か、魔力が示してはいないかと思ったのだ。
天の考えた通り、巨大な魔石の放つ光は二筋に分かれて伸びていった。
片方は水中へ、もう片方は鐘塔のてっぺんへ。鐘塔へ伸びた光は鐘を示しているのだろうと予想はついたが、水中の方は一体何があるのか予想がつかなかった。
もういっそのこと中に入って確かめてみようか。その考えは、どんどん膨らんでいく。今のところリアもこの水中にいるだろうし、何なら魔力の力で息ができるかもしれない。
虹色の水面を眺め、意を決して水の中に飛び込んだ。
《怠惰の灯籠》
リアにとっての秘密兵器に近いもの。これは意思を持ち、勝手に動くことも出来るが、基本的には使用者に使われるまま。その名の通り、怠惰なのである。




