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魔女と狐の墓参り  作者: 空人参
水の都
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水中

 ぎゅっと目を閉じ、眼鏡を押さえる。押さえなければ水のせいで飛んでいきそうだった。いくら地上で想像を巡らせたところで、実際のところはどうだか分からない。ギリギリまで息は堪えておくことにした。


 生ぬるい感覚が天の体を包む。先程手を突っ込んだ時には冷たかったはずなのに、不思議なものだ。不思議と、ここは地上と何も変わらないのではないかという気がしてくる。妙に確信めいた気持ちが、天の心を支配した。

 それに微かな違和感を覚えはしたが、そこまで気に留めることは無かった。


 この水の中を見てみたい。その衝動に従って目を開けば、透明な水の下に翠の岩が広がっている。逆に言えば、それだけしか無い光景だった。美しくもあるが、どこかもの寂しい。


 しばらくそのままいて、段々と息苦しくなってきたので水面に上がろうとする。しかし、上から何かに押さえつけられているかのように体は浮かない。上に上がろうとすればするほど、下に沈んでいってしまう。

 焦ってしまうが、ここでバタつくほど下に沈んでいってしまうのは分かっている。一旦落ち着いて動きを止めた。


 ここでようやく違和感に気がついた。明らかに水中にいるような感覚が無い。一度、地上にいる時のように息を吸ってみる。


「……息が出来る」


 普通に息が吸えた。そもそも、ここは水中では無いのかもしれない。だったら何なんだと言われれば、天は答えられないのだが。しかし、流石に少しは息苦しい。地上にいるときのようにはいかないらしい。

 とにかく、これなら下へ沈んでしまってもいいかもしれない。むしろ、そのほうが楽なのかも。

 体は水中にいる時の挙動をするのに、しっかり息は出来るし話すことも出来る。この感覚には覚えがあった。あの大樹の泉の中のような感覚だ。


「とにかく、まずはリアさんを探さないと」


 かすかに漂う魔力を頼りに、リアの行ったであろう道を辿る。

 この場所全体にある生ぬるい虹色や翠の魔力とは違う、彼女特有の魔力。目で見ずとも、なんとなく分かってしまうほど強い魔力だった。


 リアがここまで魔力を分かりやすく残したのは、それを気遣う余裕が無かったのか。それとも、あとから天が追ってくることを考えていたのか。共に旅をする時間が長くなっても、天にはリアの考えていることがよく分からなかった。


(いや、理由なんてどうでもいい。これだけ分かりやすい痕跡があるのだから、消えてしまう前に追いつかなければ)


 もうすっかり見慣れてしまった、美しい翠の岩に足を下ろす。そのまま、リアの魔力を追って天は歩き出した。

 進むにつれて虹色の光は薄くなり、段々と暗くなってくる中で、リアの魔力だけははっきりと輝きを増していた。そろそろ近いのだろうか。


 魔力が白い岩のトンネルのような場所に続いていく頃には、足元も見えないほどの暗闇だった。

 眼前を煌々と照らす魔力の光だけを頼りにして、天は足を止めることなく歩き続ける。段々と歩を進める速度は早くなり、いつの間にか走っていた。


 気がつけば、大きな岩の前まで来ていた。リアの魔力は、この岩の先に伸びている。


(この先に……。どうやって行くんだろうか)


 見たところ、回り込めるような道は見当たらない。どうしたものかと考えていると、ぼうっと岩が光り出した。どうやら、この岩も魔力を帯びているらしい。

 特に強く光っている部分を押すと、何かが外れるような感覚がした。そのまま、その部分が消える。

 急に消えたせいで、岩を押していた天はたたらを踏むようにして、ぽっかり空いた空間に入った。


「あれ、天!来れたの!?」


 大きな声が聞こえて、そちらを見れば驚いたように目を丸くするリアがいた。まさかここまで来るなんて、と呟きながら手にした何かを放り捨て、天に駆け寄る。


「え、無事?あそこ、結構魔力濃度高くて危ないよ」

「ええ、なんとか。不思議ですね、空気が無いはずなのに息ができました」


 あぁ、と顎に指を当て、リアが解説を入れる。ここに充ち満ちた魔力のお陰で息ができたのだと。天はそういうものかと頷きながらも、魔力の万能さに驚いていた。

 リアは嬉しそうに天を抱きしめ、すぐに体を離した。何度も「無事で良かった」と呟きながら歩き回る。

 何をしているのかと天がその後を追ってみると、リアがそれに気付いて暗視の魔法を掛けた。そのお陰で、この空間の様子がよく見える。


 白い岩の壁に囲まれた、天井の高い空間。そんな場所の中心に集められていたのは、数えるのも面倒になる程の人だった。皆一様に、地面に倒れ伏している。


「……」

「私が来る前からいた。多分、魔力不足だから寝かせておいてるの。離れるのも危ないし、ここにいる」


 説明を求めて天がリアをじっと見ると、その視線から逃れるように目を逸らして、彼女は言い訳じみた様子でモゴモゴと口を動かした。


 リアは別に嘘はついていない。それどころか、彼女の出来る最善を尽くしたと言っても過言では無いだろう。魔力どころか意識も失った者に対して出来ることは、ただ休息を与えることだけだ。

 なんとなく、彼女にとっては今の天の瞳は得意では無いようだ。なぜだかは分からない。魔力のせいかもしれないし、それ以外の要因もあるのかもしれない。

 普段と様子が違うような気がして、リアの顔を覗き込もうとする。しかし、バサリとフードを被ったリアは、もう天と目を合わせる気など無さそうだった。


「じゃ、やることないなら手伝って。今からやりたいことがあるの」


 表情は見えなくなってしまったが、ワクワクと弾む声で彼女の機嫌は分かる。何をしようとしているのか、ここで何があったかはゆっくりと聞けばいい。

 リアは集められた人々の周りを跳ねるように歩き、一周すると次は壁に沿って同じように歩き出した。

 リアの通った後は、尾が引くように魔力が輝く。それが段々模様のようになってくると、よし、とリアが立ち止まる。


「ねえ天、ちゃんと陣の形になってる?」


 そう問われて気が付いた。彼女は魔法陣を描いていたのだ。あまり詳しいことは分からないので、頷いておく。本で見るような図柄にはなっているので、おそらくはきちんと描けているだろう。

 満足気に頷いて、リアは自分で引いた魔力の線の上に軽くつま先を打ちつけた。


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