第10話 切れない
実家帰りと葬式とか重なってしばらく書く気になれなかったです。
今日からまた再開するつもりなのでよろしくお願いします。
ーピンポーン。
「またか…」
朝早く送られてきた小包。送り主はやはりこの前と同じであった。
その箱をリビングに運んでから優衣と東子、藍の3人で囲む。
「優衣さん今度は何が送られてきたのですか?」
「うーんと、ヴァンパイアサポーター?あなたのヴァンパイアライフをよりよくするために、だってよ。」
ヴァンパイアサポーター、ヴァンパイアとしての素質が高い人などにあまり余る力を効率よく使えるために作られたもの。特にヴァンパイアアームの生成については以前よりも更に高品質な武器を作ることができる。
ただ、これはかなり上級者向けのサポーターであり、血の消費量も比べ物にならないくらい多くなる。
「おぉ、血が多くて困ってるユイユイにはもってこいの品物じゃねぇか。やったなユイユイ!」
「これで家中血だらけになることはありませんね。」
「あと、ヴァンパイアサポーターの他にこれもついてたよ。」
「武器生成ガイド?」
「うん、武器を生成するときにイメージしやすいように具体的な情報がかいてあるらしい。」
「へぇ、開発元も親切なもんだな。」
「それより優衣ちゃん、さっそくこれつけてみてよ。」
「うん、えーっとこうかな。」
「今度のやつは首輪タイプなんだな。」
ヴァンパイアサポーターはより多くの血を必要とするために血流量の多い首から血を取る。よって、首輪タイプとなっているのだ。
見た目はまるで拘束具のようだが、さほど重くはなく、外見以外は全く問題ない。
「つけたよ。」
「なんか、結構ガッチリしてるな…苦しくない?」
「特に大丈夫だけと、ちょっと首が動かしづらいくらいかな。」
「で、どうなの?何か新しい武器でも作れるの?」
「うーん、そうだね。試しにこれを作ってみるわ。」
「これって、銃?」
優衣が選んだのは大型の対ヴァンパイアライフル。かなりの重量があるがその威力は強力で、ヴァンパイアなら直撃一発で致命傷になるほど。
普通の弾丸とは違い、銀でできた玉に血を合成したものだ。
「でもこれ、血液消費量「超」ってかいてあるよ。ユイユイ大丈夫?」
「大丈夫だろ、あまり余ってるんだし。」
「まぁ、そうか…」
「大丈夫だって、心配するな。」
そういいながら優衣は武器の生成をはじめた。だが、すぐに優衣は自分の軽率な行動を悔いることになる。
「優衣ちゃん!」
優衣の全身がみるみるうちに白くなっていき、朽ちて行く。
そして、力を失って倒れた頃にはまるでミイラのような姿になってしまった。
「どど、どうしよう。ユイユイがぁぁあ。」
「優衣ちゃん!しっかりして!」
「とりあえず救急車か?」
「ヴァンパイアなんてどう説明するのよ!」
「じゃああれか、なにか栄養のあるものを…」
「今にも死にかけてるのよ!食べられる状態じゃないわ。」
「じゃあどうすりゃいいんだ…このままじゃユイユイが死んじまう。」
「いい方法があるわ、ちょっとどいて!」
「どーすんだよ…」
藍が持ってきたのは優衣愛用の包丁。そう、この前優衣が雪菜を助けるために自分の手を切った包丁だ。
「雪菜と同じように優衣ちゃんも助けられるはずよ。」
「でも、手を切るなんて…」
「やるしかないわ!」
藍は包丁を右手に持ち、刃先を手のひらにつける。
だが、右手はそこから動かない。
動かせなかった。
(う、うそ…さっきまでは全然平気だと思ってたのに、なんで動かないの私の手!優衣ちゃんが死んじゃうのよ!
動いて!)
だが、右手は動かない。それどころか、持っていた包丁を床に落としてしまう。
自分の手を切るということはとてつもない恐怖であった。
(どうして?なぜ私はこんな簡単なこともできないの?優衣ちゃんの命がかかっているのに!)
「東子!!」
「な…なに?」
「あなたが切って。私の手を…」
「そ、そんなの…できないよ…」
「お願い、それしかないの!私には切れないの…だから…」
「………あ……え…」
東子は声が出なかった。完全に怯えていた。
足が震えて立っていられなくなったのか、その場で座り込んでしまう。
「東子!お願い…お願いよ。私の、私の手を切って!頼むから!優衣ちゃんを助けて!」
だが東子はなにもできない。まるで人形のように固まってしまっている。
「じぶんで…やらなきゃ…」
藍は再度包丁を持とうとするが、手が震えて持つことができない。体が拒んでいた、包丁を持つことを否定していた。
顔も涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
それでも包丁を取ろうと両手で掴もうとした、だがその手を優しく掴むもう一つの手が現れる。
「藍、私がやる。」
涙で誰かははっきりとは分からなかったが、声で分かる。
目の前で包丁を手にしたのは雪菜だった。
雪菜は手にした包丁で手のひらではなく手首をためらうことなく切った。
少し顔を歪めながらもすぐに流れ出る血を仰向けに倒れている優衣の口元に注ぐ。
うまく入らないと思い、優衣の口をもう片方の手で優しく広げて血が入りやすくした。
優衣はその血をまるでミルクを求める赤子のように夢中でのんだ。
優衣はほぼ死ぬ寸前だったのだ。
その光景を見ながら、藍はさらに涙を流す。
自分はなんて臆病なのだろうか。それが藍の心の中を深く痛めつけていた。
皆さんは大切な人を助けるために自分の手をきれるでしょうか?
私は多分切れないかもしれません…