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宛名の無い手紙のはなし

海で、手紙を拾いました。

なみだの海。とても小さな海のなかを、

寂しげに航海する、一通の手紙。

最果ての向こうからやってきた、宛名のない手紙はーー

そう、あの子が書いたものです。



『ぜんぶ、思い出してしまった。

 青い空も、白い壁も、真っ赤なお腹も、

 咲いた花も、暮れた海も、何もかも、見たくなかった。

 こんなの、僕とは関係ない。


 ほんとうは、ずっと、ずっと、かえりたかった。

 でも、もうかえれないと、知ってしまってから、

 僕はこの白い箱のなかで、もう、どこにも行かないと

 そう 思ったんだ。


 誰も居ないと思った。僕は、安心した。

 だけど、ほんとうは、寂しかったんだ。

 ずっと、ずっと、ただひたすらに、寂しかったんだ。

 そうしていたら、いつの間にか

 嘘も、過ちも、死でさえも、僕と友達になったんだ。

 

 あれ

 僕は、なにを言っているんだろう。

 わからない。

 早く、空気になってしまいたいのに、

 こんなに、空が、青いから、

 かんじんなことが、思い出せない。


 痛い。  虚しい。

 還りたい。   孵れない。』



……ほら、しずかに。

彼の叫びが、聴こえてこないか。


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