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第二節 世界を壊す魔法

次の瞬間。

古代竜の周囲に、無数の魔法陣が展開された。


空を埋め尽くす超位魔術。一発で都市を消し飛ばせる規模。


『我は飢えた』

古代竜が咆哮する。衝撃波だけで塔が崩壊した。


「エリシア、下がってろ」

「でも——」

「お前まで消えたら寝覚めが悪い」


レインは空を見上げた。

「……また壊すのか」


エリシアは言葉を失った。

世界を滅ぼせるほどの力を持ちながら、この少年は、自分みたいな一人の生徒を気にかけている。


レインが前へ出た。

ただ一歩。それだけで、空気が変わる。

眠たげだった目が、静かに開かれる。その瞳には、もう眠気など欠片もなかった。


まるで、千年前の怪物が目を覚ましたようだった。


「――《封界解放》」

エリシアの脳裏に、禁書庫で読んだ古文書の一節が蘇る。


“世界を閉じた魔法”

神話を終わらせた禁忌。


まさか。

まさか、あれが。

世界が止まった。


否。

止まったように見えた。


空間が凍りつき、魔力が沈黙する。


エリシアは理解できなかった。

―いや、少しだけ理解してしまった。


あれは失われたはずの神代術式。文献でしか見ることの叶わない、”世界法則を置き換える”魔法。


レインの背後。無数の魔法陣。

数千。

数万。

神代文字で編まれた超越術式。

世界法則そのものを書き換える禁忌魔導。


古代竜が初めて動揺した。

『貴様……まだその力を……』


レインは面倒そうに頭を掻く。

「だから嫌なんだよ。本気出すの」


空が砕けた。


「……加減間違えると、全部消える。」

レインは崩れ落ちる空を見上げた。

その目には、一瞬だけ、消えない後悔が滲んでいた。


「もう、あんなのは二度と見たくない」

その声だけ、少しだけ疲れていた。


白銀の奔流が世界を飲み込む。

古代竜の巨体が、一瞬で消滅した。


エリシアは震えていた。強すぎるからじゃない。

——あまりにも静かだったからだ。


世界を滅ぼせる力を、この少年は、まるで呼吸みたいに使った。


断末魔すら残らない。

山脈級の怪物が、“存在ごと”消えた。


静寂。

雪だけが舞っている。


フェンリルは愉快そうに牙を見せた。

『相変わらず加減が下手だな』

「都市消してないだけ偉いだろ」

『半分消えたぞ』

「……あ」


遠くで黒塔が崩れ落ちた。


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