第二節 黒騎士の来訪
瞬間。
学院中に警鐘が鳴り響いた。
――ヴゥゥゥゥゥゥン!!
緊急魔導警報。
エリシアの顔色が変わる。
「この警報……!」
学院上空に巨大な魔法陣が展開された。
赤黒い紋様。禍々しい魔力。そして空間が裂ける。
その亀裂から、“何か”が落下した。
轟音。
中庭へ降り立ったそれを見て、生徒たちは息を呑む。
漆黒の騎士。
全身を黒甲冑で覆われた異形。周囲の空間だけが腐敗し、草木が枯れ落ちていく。
教師たちは杖を構えた。
——だが、誰一人魔法を発動できない。
魔力が、喰われていた。
存在そのものが災厄。
エリシアが震える声で呟いた。
「封印都市の……黒騎士……」
レインは片目を開けた。
「あー」
「“あー”じゃないわよ!!」
黒騎士はゆっくり顔を上げる。
『見つけたぞ、レイン。千年も姿を消しおって』
「お前がしつこいだけだ」
『貴様はいつもそうだな…。世界を救っておきながら、全部放り出す。少しくらいいいだろう、知り合いの消息を追っても』
学院中が静まり返った。
知り合い。
今、“知り合い”と言った。
教師の一人が、青ざめた顔で後退る。
「まさか、終焉の……魔導師……?」
その単語を聞いた瞬間、空気そのものが凍った。
周りを無視し、黒騎士は巨大な剣を地面へ突き立てる。
『封印都市グランゼルトが崩壊を始めた』
レインの眠たげな目が、わずかに細まる。
エリシアは息を呑んだ。ただ目を細めるだけなのに、背筋が凍る。
『封印が限界だ。“あれ”が目覚める』
フェンリルが低く唸る。エリシアだけが状況についていけない。
「ちょっと待って! 何の話なの!?」
レインは大きくため息をついた。
「昔の後始末」
「意味わかんない!!」
黒騎士が告げる。
『七日以内に来なければ、大陸が消える…貴様しか止めれん』
黒騎士の声には、わずかに焦りが混じっていた。
沈黙。
そしてレインは、心底面倒そうに呟いた。
「…静かに昼寝させろよな」
フェンリルは牙を見せる。
『久々に暴れられるな』
その笑みに、エリシアは理解した。これから始まるのは、学院の事件なんかじゃない。
神話の時代に関わる、“世界規模の災厄”なのだと。




