第二節 灰銀の魔狼
生徒たちは一斉に廊下へ飛び出した。
次の瞬間。
校庭側の壁が、爆音とともに吹き飛んだ。
瓦礫が宙を舞う。
煙の向こうから現れたのは、巨大な異形。
黒い外殻。六本の脚。無数の赤い目。
口からは、紫色の毒液 が滴っていた。
「……アラクネ・イーター」
教師の一人が絶望混じりに呟いた。
上位魔獣。しかも都市破壊級。
学生が遭遇していい存在ではない。
魔獣は咆哮し、巨大な脚を振り上げる。
誰も動けない。
死を確信した、直後。
「うるさい」
レインが前へ出た。
眠たげだった目が、ほんの僅かに細まった。
「お、おい!!」
教師が叫ぶ。
だがレインは振り返らない。
その足元。黒い影が、ゆらりと揺れた。
次の瞬間。
空気が変わった。
重圧が空気そのものを押し潰す。
本能が警鐘を鳴らした。影が膨れ上がり――金色の瞳が開く。
一瞬で理解した。
“格が違う”。
呼吸すらできない。立っているだけで、本能が壊れそうになる。
――勝てない。
現れたのは、巨大な狼。
灰銀の毛並み。月光のような輝き。神話そのものの威圧感。
”終焉級幻獣”
アラクネ・イーターが、恐怖で後退した。
「な……」
教師の声が震え、引きつった。
「終焉級幻獣…?」
その存在を知らないものはいない。
――灰銀のフェンリル。
フェンリルは欠伸をした。
『……昼寝中だったんだが』
レインは頭を掻く。
「悪い。あいつを静かにしてくれ」
『殺すか?』
「校舎は壊すなよ」
フェンリルが牙を見せた。
次の瞬間。
消えた。
否。
速すぎて見えなかった。
気づけば。
アラクネ・イーターの巨体が真っ二つになっていた。
ずるり、と崩れ落ちる。沈黙。
災害級魔獣が、一瞬で消えた。
フェンリルは血を舐めながら鼻を鳴らす。
『雑魚だな』
レインは深くため息をついた。
「だから目立ちたくなかったんだよなぁ……」
――その日
”落ちこぼれ”は、世界へ正体を晒した。




