第61話:幽霊さんのシェアハウス
星導国家アストライアは巨大である。
国の大部分を占める外の世界は、広大すぎて人間がまだ把握しきれていない、美しくも残酷なフロンティアだ。
そう。大陸の半分を丸呑みした超巨大国家。
端から端まで移動するには、転送ゲートを使わなければ結構な日数を有してしまう。場所によっては1か月はかかるだろう。
この国がこれほど巨大なのは、神話の時代に滅びた「超高度な魔法文明の遺跡群」をそのまま領土として取り込んでいるからだ、とのこと。
深い森の奥に天まで届く巨大な金属の塔がそびえ立っていたり、砂漠の真ん中に重力が反転した浮遊大陸があったり。
(ふむふむ。だからこそ、私たち『境界探査局シーカーズ』が、危険な遺跡群を調査して安全を確保する必要があるんだよね)
「おや、珍しく読み込んでいるじゃないか」
「ひっ!!」
境界探査局・シーカーズの資料室。
特に今日は予定がなかったので、研鑽もかねて資料室で「おさらい」をしていた私の背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
そーっと振り返ると
「あ、アクネスさん。脅かさないでくださいよ」
「そんなつもりなかったけど」
アクネス・カエルムさん。
シーカーズの地下の第零開発区で働く遺物修復士の先輩。
古いものを直す天才とクロエが褒めてたな。
確かにその表現は事実で、実際に彼女の悪い評判は一切聞いたことがない。
私とは正反対の「うっかりしない」タイプのお方。
「アクネスさん、なんで資料室に?」
「おつかいだよ。たまたま局長と出くわしてねぇ……」
「おつかい?? なんのですか?」
「あんたよ、セレン。局長が呼んでる」
「えっ! わたし? ですか」
もしかしたら星鍵の断片の手がかり?次の目的地が分かったのかな。
それとも星詠みの教団の情報とか?
ともあれ私を指名しているという事は、そのどちらかだろうと踏んだ。
急いで資料を棚に戻すと、急いで局長室へ向かった。
「おい! 走るなよ! そんな急ぐと――」
「っっ! いったああ!!」
派手に転んでしまった。
「はぁ、いわんこっちゃない」
◇ ◇ ◇
「お、来たね。セレン君。まあまあ立ち話もなんだし座りなさいな」
カペラ局長はそう言うが、足の踏み場をなくした部屋で上手に乱雑された資料らを(何故か私服とか飲料水とかも転がっている)ガシガシ踏んでソファーに座るほど肝は据わっていない。
そういえば、自動お掃除&整理人形はどこにいったの??
局長室内にそれらしいものは見えやしないんだけども。
なんとか上手に荒波を乗り越えて座るとカペラ局長は対面にドカッと座って話始めた。
というか、このお方はガシガシいろんなもの踏んでたけど、それで良かったのね。
「早速なんだけど、とある場所の調査をお願いしたいんだ。君にしか出来ない、いや、《《君以外は行けない場所さ》》」
「調査ですか。もしかして星鍵の断片の場所が!?」
「ん~違う。そこはもう少し待ってくれ。場所は分かるんだが解析や事前調査を進めたい」
「じゃ、じゃあ教団が出たとか??」
「それも違うな。出没に関しては知らん」
「ということはノーマル仕事ですか……」
「なんだノーマルって、そっちが本業だバカ」
思わず肩を落とした私に局長が吐き捨てる。いや、ごもっともです。
「……分かりました。それでその、場所は??」
「お墓」
「……え??」
「お・は・か」
固まる私にカペラ局長は続けた。
名前は「星骸の奈落」。と、シーカーズが呼んでいる場所。
他の国の調査隊や、星狩りといったギルドでは「ノクス」やら「無光層」とやら決して定まった名称が無いそう。
言い伝えによれば崩壊した恒星や神の亡骸が眠っているとのこと。
かつてとある星が地上に落下した。
そのせいで世界が歪み、観測不能領域が発生。
人々はそれを恐れ、地中深くに封じるしかなかったそうだ。
ここまで聞けば、空ではなく地下に宇宙がある非常にロマンがある話だ。
本当であれば、の話。
「けどね、一度どうやら太古にその深部に到達した探検隊が居たのさ」
事実は残酷だった。
答えを言えば、「明確には分からない」しかし「土葬文化」が根強かったことが分かった。
単なる土葬だけならば、深く深くまるでダンジョンのような構造である必要性はない。
その探検隊の記録をシーカーズが保管に成功した。
◇ ◇ ◇
調査の起因は噂だった。
いつかは分からないが、とある時期から異変が起きた。
「見たものに影響」を与える死体が現れた。
見たものは記憶がずれて、位置間隔が狂うと。
その呪いは伝染した。だから人々は理解した。
「これは埋めるだけではだめだ。見せない必要がある」と。
入り口付近は普通の土墓、木製の墓標。
しかし中層に向かうにつれ墓が密集しており、向きもバラバラだった。
また一部が地面に沈んでいたり位置がずれていたり。
深層入口近辺になると異様だった。
墓同士が重なり、通路が成立していない。そして中には異様に大きな棺や骨の発見もされた。
また、墓石を読もうとすれば文字が滑り、数えた墓の数は毎回異なり、一本道のはずなのに同じ道に戻る。などの記録がされていた。
「認識を狂わせて、正しく見えないようにしているのではないだろうか」
「この地下墓地は、何かを見せないための装置ではないか」
◇ ◇ ◇
そこでその記録を研究し、導いたシーカーズの仮説としてはこうだ
・地下にある理由は、「見せないための隔離」
・墓の異様さは、「意図的に認識を狂わせる設計」
・認識拒否は「封印そのもの」
・巨大な棺や骨は「太古の魔物、あるいはかつて存在した種族」
「とまあ、謎がまだまだ多い場所なんだ。だからこそ――」
「お断りします!!」
「ん??」
「お・こ・と・わ・り・し・ま・す!!」
当然だ。そんな未知の領域ならまだしも地下墓地にこんな《《か弱い女の子》》を単独で向かわせる??
いや、それ以上に怖い。怖すぎる。絶対に怖すぎる!!
無理無理無理無理。
「だめだ。命令よ! フィールドワーク部隊の統括責任者であるフェリクには許可を得ているから」
ちっ! あの御曹司め!! 初めてフェリクさんを憎いと思った。
「けけけけど、なんで私?? 根拠! 根拠を!!」
「スキルさ、あんたのね」
私でしか調査できない理由はこうだ。
私の『孤星の絶対距離』は、物理攻撃や魔法だけでなく、「自身に影響を与えようとする魔力的な事象や概念的な干渉」も1ミリ手前で完全に『拒絶』する。
つまり「見たものに影響を与える呪い」の拒絶も可能である。
死体や空間から放たれる精神干渉や視覚からの呪いも、脳や精神へ到達しようとする事象であるため、バリアに弾かれて一切効かないはず。
次いで「認識を狂わせる装置」の無効化。
墓石の文字が滑る、道が狂うといった空間の認識阻害も、対する「空間情報の書き換え干渉」として拒絶されるはず。
そのため、私の目には「狂わされた後の迷宮」ではなく「物理的にただぐちゃぐちゃに置かれただけの墓地」として正常に映ることになるだろう。
「それにセレン君。あなたのスキルがもし解除に成功したらさ、《《もうこういう場所への調査は行けなくなるんだ》》。少なくとも私たちが生きている間に出来るかどうかすら怪しいんだ。それは研究者としてひじょ~~に歯がゆい。みんなあんたに期待しているんだよ、夢と希望を」
「うぅぅぅ。鬼ですぅ」
「涙ぐまれてももう手筈は進めてるんだ。ごめんね」
「ほ、他の人は。仲間は連れてけないんですぅ?」
「環境からの精神干渉も考えるとね、同行者がいること自体が致命的なリスクになるんだ」
正直言えば、「お墓」なんてワードさえなければ、行ってきますを言えたかもしれない。
私のスキルはシーカーズという機関では、大変重宝されているしそれは私自身も「誇り」を持っているつもりだ。
例え利用されていると、してもそれは構わない。
私も冒険や謎解きやロマンは大好きだからだ。
あぁ~、けど断れないよね。断りづらいよなあ。
《《怖い》》が理由じゃなあ。
というか、局長の目が既にキマッてるんだよなあ。
説明しながらワクワクドキドキがにじみ出てるんだよお。分かりやすいなあ。
「分かりました…い、行きます」
「本当かい?? よおし、良く言ってくれたよセレン君。よし、色々と準備を手伝わせ用じゃないか、まずは資料から――」
そう言って局長は私の頭をワシャワシャと撫でた。
あれ、結界内だよねここ。スキル発動してないのに、感覚が無いんだけども。
あ、これが『魂が抜ける』ってやつか。
いくらお墓に行くからって、生きたまま幽霊になる準備しなくていいのに。




